「泣けよ」
と、何の脈絡もなく、唐突に、その上抑揚もなく言うから、
何の事だと思って発言主を見遣れば、
ただ紫の目を細めながら煙を吐き出す姿があった。
任務を果たし、出発点へ向けての帰路の旅。
もう妖怪の気配に神経を尖らせる事もしなくて良い。
以前にも増して平和な休憩時間のひととき。
そんなのんびりした時間を破るように発せられた謎の言葉。
木の根元に座ってそこに背を預ける最高僧はそれきり何も言わない。
続きを促すように首を傾げると、彼の眉間の皺が増えた。
「てめぇの用事は済んだんだろう。妖怪の襲撃も無ぇ」
だからもう強がらなくて良い、肩肘張らなくて良いと。
「お前にしては上出来だったじゃねぇか」
それなりに頑張ったじゃないかと言ってもらえたようで。
「だから好きな時に泣けば良い」
もう我慢しなくて良いのだと。
そんな風に聞こえたから鼻の奥がつんとした。
日々の戦闘に慣れる事など無くて、毎回怖くて
何も出来ない自分が不甲斐なくて
与えられる優しさが時に辛くて
でも泣いたら全てが瓦解してもう二度と自分の足では立てない
この人達無しではいられなくなる
そう思って泣きたいのを堪えた。
無関心に見えて、ちゃんと解ってくれていた。
そしてその上、楽にしてくれようとしている。
ただただそれが嬉しくて、溢れるものを止められなかった。
膝を抱え、そこに額を埋めながら精一杯のありがとうを言うと、
それは途切れ途切れにしか紡げなくて。
そんな私に三蔵は舌打ちをした。
「チィっ・・バカが。今泣けとは言ってねぇ」
そんな事言っても三蔵が泣けって言ったんだもの。
そう抗議のつもりで法衣に縋りついた。
「何だてめぇ?・・おい、やめやがれっ・・離れろっ・・」
そう言いながらも煙草を消して、邪魔な双肩の経文を仕舞ってくれるから、
その動作に甘えて首に手を回して思い切り泣いた。
「ハァ・・・には敵わねぇな。ったく、今だけだぞ」
溜息と共に背に回された手は強くもなく弱くもなく、さすって宥めてくれるわけ
ではないけれど、とても安心する。
泣き疲れて寝てしまったふりをしてしまおうか。
いい加減涙の量が少なくなってきた時、そんな考えがチラっと浮かぶ。
その時、頭に重たいものを感じた。
どうやら私の頭に三蔵のそれを預けたまま彼の方が先に寝てしまったよう。
三蔵が夢の世界に行ってしまったなら、私も同行しよう。
帰路にまで同行しているのだから、これもついで。
そう思いながら目を閉じた。
八戒達がもうちょっと帰ってきませんように。
【ホームワークが終わらない】にご参加下さりありがとうございました!
六花さん、素敵三蔵様をありがとうございましたーっ♪
三蔵に抱きしめて貰えるってのは、本当に凄いことだよなって思います。
そして、それを得られるのは…今まで、があったから。
経文をしまってくれる辺りが、本当にリアルだなぁと思いました(笑)
私だったらそんなもん気にせず抱きつ…(黙りましょう)
抱き合ったまま、三蔵が先に夢路へ旅立つ…というのが、どれだけ相手に心を許してるかってのがわかりますよねぇ〜いいなぁそんな関係。
こちら、喜んで懐に収めさせていただきます。
お忙しい中、本当にありがとうございました!!