こちらの世界に来て、どれだけ経っただろうか…
カレンダー、なんてものもないし、正確なところはわからないけれど…
こちらの世界は、俺たちにとっては過去の世界と似ていると言っていいかもしれない。
台所も、そこで使う道具も、不便だったりすることが多い。
それでも、その道具やこっちの材料を使って、なんとか料理ができるようになって、よかった。
「慣れ、かな…それとも…」
朝食を支度をしながら、ふと思い浮かべるのは、あなたの顔。
「譲くんの作ってくれたご飯はほんっとうに、美味しい!」
あなたのそんな顔が見たくて、頑張っていたから…
本当は、そんなところかもしれない。
学校の渡り廊下にいたはずなのに、いつの間にか、こんなわけのわからない世界に来て。
今でも、俺には戸惑うことも多くて。
本当なら、あなたをもっとしっかりと支えたいのに、励ましてもらうのは俺ばかりで。
それに…あなたはいつも、どこか遠くを見ている。
それは…兄さんのこと?
いや、それよりも、もっとどこか遠くを…
兄さんのことじゃなければいい…
そう思っている俺の願望なんだろうか。
でも、時々、あなたがとても大きなものを、一人で抱え込んでいる気がしてならない。
だからといって、俺に何ができるんだろうか…
せめて、ほんの一時でも、俺が作ったモノを嬉しそうに食べたり、
俺が育てた花を見て、あなたがくつろいでくれて、そして笑ってくれたら…
そのくらいしか、俺にできることはないのかもしれない。
でも、少しでもできることがあるのならば…
そうやって、俺は自分が先輩の傍にいる理由が欲しいだけなんだろうか…
「さて、そろそろ先輩を起こしにいかないと…」
毎朝、他の皆は、朔が声をかけてくれるから、俺は先輩を起こしに向かう。
…俺にとって、一番幸せな時間かもしれない。
「先輩、朝ですよ、起きて下さい」
いつも、まず、部屋の外から声をかけるけど、これで起きてくれたことは、これまで一度もなかったっけ…
「入りますよ、先輩。ほら、朝ですよ、起きて下さい」
「ん〜あとちょっと…」
「まったく…仕方のない人だな」
言いながらも、俺はつい、微笑んでしまう。
「早く寝たんだけどなあ〜でも眠い…」
「残念ですね。今日は先輩の好きなメニューにしてみたのに、食べないんですか?」
「え!?た、食べる!!!」
…毎朝、いつも、先輩の好きなものばかり作ってるの、気付かないんですね。
材料が、俺たちのいる世界ほどあるわけじゃないから、それほど品数が作れるワケじゃないけど…
あなたの好みくらいは、知っていますからね。
「じゃ、早く起きて、支度をして下さいね」
「は〜い…」
先輩の返事を背中に聞きながら、今日もわき上がった想いを、
心の奥深くにしまい込んで、先に部屋を出て、俺は皆のところに向かう。
本当は…俺、あなたを起こしたくないって毎朝思っているんですよ。
まだ眠そうにしているその表情も…
そして、眠っているあなたの寝顔も…
俺は…
ずっと見ていたい…
【ホームワークが終わらない】にご参加下さりありがとうございました!
犀さん、譲くんをありがとうございましたーっ♪
どうしてだろう…譲くんには誰よりも幸せになって欲しいのに、片想いをしている彼が一番彼らしく思えてしまうのは(苦笑)
弁慶に次いで、彼が腕の中で息を引き取るシーンで大泣きして、時空を速攻越えて姿を見つけた時は本当に本当に嬉しかったっ!!
このお話を読んでいると、幸せそうな笑顔…というよりも少し泣きそうな切なそうな笑顔が浮かびます。
先輩と話している時は本当に嬉しそうなのに、ふと見せる影のある笑顔が脳裏から消えませんっ!
うぅ、幸せははずなのに切なく感じられるなんてっ!
自分もこんな話が書けるように頑張りたいと思います!
こちら、喜んで懐に収めさせていただきます。
お忙しい中、本当にありがとうございました!!