部屋に差し込んできた、早朝の淡い光…


「いつの間にか眠ってしまったようですね…」


昨夜は、調べたい事があって書物を読みふけっていた。
その書物に身体を伏したままの状態で思い返す。


この僕がやるべきことは、まだまだある…

軍師として方々から集めた情報をまとめ、そして新しく指令を出すために文を書く…
薬師として、旅の仲間のための薬の調合…


忙しいといえば、そうなのかもしれない。

でも今は…

わざと、その中に身を置く自分を感じてしまう。
いつも忙しい身だと言われるが、もっともっと…と思ってしまう。



…そうしていれば、他の事を考えている余裕はない…




「そう思うことが、まず、なんですけどね」


思わずこぼれる苦笑い。

他のことを考えまい、とすることが、
その事柄に縛られていることを、示している証のようなものだ。





他の世界から来たという娘。

最初は、この戦を早く終わらせるために、役に立てばいい。

そう思っていた。


…それだけ、だった…はず。



「それすら、はっきり言えないとは、やはり僕は…」


初めて出会ったときにまっすぐ僕を見る美しい瞳。
あの瞬間から、もう僕の心は彼女に捕らわれてしまったのだろうか。



ようやく、書物から身体を起こすと、軽い頭痛と、そして眩暈。
ここ数日ろくに寝ていないから、当然といえば当然かな。


最近、夜寝ることすら…怖くなってしまう。

この想いが…あふれてしまいそうで。

多くの罪を犯した僕が、このような想いを抱いては……いけない。

早く戦を終わらせて、そして彼女を…さんを元の世界へ…
それが、せめてもの僕に出来ること。

そう、しなくては…

ゆっくりと身体を起こしたとき、部屋の外に人の気配が…



「弁慶さん、朝ご飯が出来たって譲くんが言ってるんで、呼びに来たんですけど…」


最近忙しそうにしている僕に気遣ってか、おそるおそる部屋の外で
様子をうかがうように声をかける、そんな君すら…

僕には、とても愛おしい…


「ああ、はい。ありがとうございます。」


声をかけると、そっと戸が開いて、朝日よりもまぶしい君の笑顔


「あ、挨拶が遅れちゃって、おはようございます、弁慶さん!」



…そんな風に僕に笑顔を向けないで下さい。

君を…帰したくないという気持ちが、また強くなってしまう。




「僕の方も遅れてしまいましたね、おはようございます、さん」


気持ちを抑えて、いつものように振る舞い、一緒に部屋を出て、
朝食の席へ向かおうと足を踏み出したとたん、
また、軽い眩暈に、足下がふらついてしまう。

「だ、大丈夫ですか!?、弁慶さん」


これ以上、こんなところに二人でいたら…
そう思って足を速めたのに、こんなことになるなんて…


「え、ええ大丈夫ですよ、最近忙しかったせいか少し眩暈がするだけです。」

そう言って、また歩き出そうとした僕に、駆け寄ってくる君…



…本当に、君はいけない人、ですね…



思わず、そんな君を抱きしめてしまう。

「べ、弁慶さん…?」


僕の具合が悪そうだと思ったのか、遠慮がちに、
でも少し戸惑いながら僕の名を呼ぶ声を、こんなに間近で聴けることにすら、喜びを感じてしまう。



「すみません、さん。
急に動いたせいか、眩暈が…
不覚にも、うたた寝をしていたようで…」

「うたた寝なんて…弁慶さん昨夜、寝ていないんですか?」


「調べ物をしていたら、つい…。
じっとしていればすぐに治まると思うのですが…

君の可愛らしい声で、目を覚ますこともできましたし。

ああ、でも、このような体勢では、さんに迷惑をかけてしまいますね。
でもどうしようかな…」




こういえば…君はきっと…


「だ、大丈夫です!眩暈がひどくなったら大変ですから、じっとしていて下さい!」

「すみません、ありがとうございます、助かります。」



やはり、僕の思うとおりの言葉をくれる君。

その優しさが…どれほど僕には苦しく、そして愛おしいか…
君はわからないのでしょうね。

思わず、君を抱きしめる腕に、力が入ってしまうほどに…


「そ、そんなに具合が悪いんだったら少し横になったほうが…
あ、でも動かない方がいいんですよね…」

「大丈夫です、少し…後少しこうしてじっとしていれば…治まりますから」






…治まるはずなど、ない。



この想いは、こうしていればいるほど、強くなっていく…
君を、このまま、この腕に閉じこめておきたい…と。




でもせめて…


今は…今だけは、この僕の腕の中に…
君を感じることを…どうか許して下さい。





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【ホームワークが終わらない】にご参加下さりありがとうございました!
犀さん、素敵弁慶をありがとうございましたーっ♪

弁慶が、軍師でなければ…咎を背負っていなければ、こんなに惹かれなかっただろうなぁと思います。
最初はただ、役立てばいい…それでも心惹かれて、閉じ込めてしまいたいほど好きになってしまって。
何かをしていないと、自分を押さえていられない…そんな弁慶を強く感じます。
彼の行動の裏には必ず何かある…けれど、それを悟らせない。
私はその辺が上手く書けなかったりするんですが、凄いですねぇ〜…←あなたが単純過ぎるんです(苦笑)
今だけと言わず、いつでもずっと腕でも膝でも貸すのに!と思ったのは内緒です(笑)

こちら、喜んで懐に収めさせていただきます。
お忙しい中、本当にありがとうございました!!