「ひゃっほー!!」
勢い良く水しぶきを立てて、飛び込むひとつの影。
「ぷはっ!ほら、くぼちゃんも早く来いよ!!」
「…はいはい。けど、時任。準備運動のひとつもしないと、足…つるよ?」
「宇宙一カッコイイ、俺様がそんなことになるわけないだろ!」
そのまま、まるでプールの水を二つに割るかの勢いで泳いでいく相方を見ながら、足をつけるべくプールの縁に腰を下ろす。
「元気だねぇ〜」
「久保田く〜ん、新しい水着だけど、似合うかしら〜」
声のする方へ視線を向けると、とてもニセモノとは思えない胸を強調した水着を着た五十嵐がやって来た。
「えぇ、お似合いですよ。センセ」
「久保田くんのために新調したのよ」
「…それは光栄なことで」
「げぇ!なんだよ、その格好!!」
「何よ、似合うでしょう?」
「男がそんな水着着るなよっっ」
「うっさいわね。似合ってるからいいのよ」
「似合ってる訳ねぇだろう!このオカマ!」
「泳ぐことしか脳のないおサルさんには、この魅力が分からないのよ!誰のおかげで、学校のプールを貸切状態に出来たと思ってんの?」
「……今日も暑いねぇ」
いつものように争い始め、当たり前のように勝負を行う事になった二人を余所に、久保田はもうひとりが姿を現すのを待った。
「…あ、久保田くん」
「ドーモ」
「お姉ちゃんは?」
「あっち」
「ふふ、本当にお姉ちゃんは時任くんと遊ぶのが好きなのね」
「…遊ぶ、ね」
単純に言えば同属嫌悪に近いのではなかろうかと思うが、それを口にしては目の前の光景に対して野暮というもの。
上着を羽織ってはいるが、普段は隠れている見事な脚線美は水着着用という当たり前の状況によって、余す事無くさらされている。
それだけでも充分目の保養である。
「…綺麗な足だね」
「え?そ、そう?あちこち傷もあるのよ?」
「俺もありますよ。見えるところから、見えないところまで、そりゃもうイロイロと」
「そんなにいっぱい?」
「さん、確認してみます?」
「機会があれば」
久保田が着ていたシャツの襟元を引っ張っている姿を見ても、焦る事無く微笑む彼女は…やはり一筋縄ではいかない。
「それに、男の子はそれぐらいの方が元気でいいよ」
「ま、時任には負けますけどね」
「そうだね」
「さて、折角五十嵐センセが他の人間を締め出してくれたんですし、泳ぎますか」
「え…えぇ…」
普段であれば元気良く返事を返してくれる彼女だが、今日は妙に歯切れが悪い。
「あのね、久保田くん。あたし…実は、その…」
「もしかしてさん…」
仕草でカナヅチを打つ仕草をしてみると、恥ずかしそうに頷いた。
「ボートや浮き輪で浮いてるのは好きなんだけど、泳ぐってことになると…」
「…なるほど」
「だから、あたしは端で遊んでるから、久保田くんはお姉ちゃんや時任くんと一緒に泳いで来て!ほら、今も凄い競争してるし」
久保田が視線を向ければ、端まで波が押し寄せるような勢いで二人が泳ぎ続けている。
「そーいうのは二人に任せて、ゆっくり波間に漂うってのもオツでしょう」
「でも…」
「泳ぐ…なんてのは授業だけで充分」
「…久保田くんって、ホント優しいね」
くすくす笑いながら上着を脱いで、フェンスにかけている後姿を見ながら久保田はぽつりと呟いた。
「そうでもないけど、ね」
「恋」という字は「下」に「心」と書く。
相手にとって、優しいと思うことでも、その裏に「下心」がないとも限らない。
「お待たせ、久保田くん!」
「では二人の作る波に漂いますか」
まだ日に焼けていない白い手を取って、冷たい水に二人で入る。
久保田にとっては余裕の深さだが、背の低い彼女にとっては波が押し寄せるとあっという間に沈んでしまう。
自然と繋いでいた手は彼女の腰に添えられて、彼女の手は…久保田の首に回されることとなる。
泳ぎ疲れた時任と五十嵐がその様子に気付くには、まだもう少し時間が必要のようだ。
これもまた、夏の思い出…
2008web拍手、名前変換入れて手を加えて再録。
相変わらず荒磯メンツを書く時には、必ずと言ってもいいほど…時任と五十嵐先生が絡む。
久保ちゃんだけで書こうとしても、動いてくれないんだよねぇ(苦笑)
でもありそうですよね…夜の学校のプールで遊ぶって。
絶対時任とか誰かと競争し始めるし、久保ちゃんはのんびりしてるだろうし。
で、絶対時任が足ツって溺れかけて、それを久保ちゃんが助ける。
あぁ…目に浮かぶようだ(苦笑)
とまぁ、そんなのは置いといて、久保ちゃんと一緒に波間に漂うのもいいかな〜と思ったのです。
こちらは毎度お馴染み、上司様…そして香原さんへ勝手にプレゼント。
日頃お世話になっているお礼ってことで(笑)