うっ…あぁ…

ちゃん、ちゃん」

…あっ…



額に滲む汗
血管が浮かぶほど強く握られた拳



…参ったね、どうも

そう呟くボクの声も、どこか擦れている。

ホントは、こんなことをしたくはないんだよ。
こういうことは、キミみたいな女の子には大事なことだと思うからね。

くっ…っああ

「やっぱり、これしか…ない、か」

まだ、上級救助班を呼びに行った七緒ちゃんが戻る気配はない。
抱いているボクの腕に食い込む爪が、じわりと赤い血を滲ませているけれど…おかしいね。
爪で傷つけられているのはボクの方なのに、キミの方が…胸を痛めているみたいだ。

「ごめんよ…」

これ以上苦しませたくなくて、彼女の胸元へ手を差し込み…あるものを取り出した。
そこにあったのは四番隊特製の丸薬と、そしてもうひとつ。
卯ノ花隊長が、彼女のみに与えている…丸薬。

片手で苦しみ喘ぐ彼女を抱え、もう片方の手で腰から下げていた水に手を伸ばす。
器用に片手で栓を抜き、小さな赤い丸薬を口に入れ、水を口に含む。



――― ごめんよ…



口内で謝罪の言葉を再度口にしてから、喘ぐ彼女の唇を塞ぐ。

「ん!」

「……」

しっかり歯を食いしばっている唇をこじ開け、水と共に丸薬を彼女の口内へ移す。

ふ…っ…
「ん…」

暴れる身体を押さえたまま、彼女の喉が上下に揺れるのを確認してから…ゆっくり唇を外した。

「すぐ…効くはずだ」

「…っ…ぅあ

自らを抱えるように震えている小さな身体を、胸にもたれさせ…乱れた髪を整えるよう、撫でる。

「大丈夫だ…ちゃん」

…ぁ…

「…大丈夫」

ゆっくり…焦点の定まらなかった瞳に光が集まる。
それと同時に、乱れていた呼吸も徐々に落ち着き始め…呼吸が整う頃には、体の震えも治まっていた。

「…落ち着いたかい」

………は…ぃ

「そりゃよかった…さすが、卯ノ花隊長特製丸薬だ」

…すいません…お手数、かけて」

「いや…ボクこそ、すまなかったね」

ここに…キミの身体には毒となるものがあるなんて、気づかなかったんだ。
やっぱり、キミは…置いてくるべきだった。

「んーこれはあとで怒られるかなぁ…」

脳裏に数十人…いや、数人の顔が浮かび自然と眉がよる。
卯ノ花隊長はともかく、なんで浮竹にも睨まれないとといけないんだろうなァ。

そんなことをぼんやり考えていると、不意に遠慮がちな声が聞こえた。

「あ、あの…京楽隊長」

「んー?」

「そ、そろそろ落ち着きましたし…お、降ろして頂けると…」

「居心地悪い?」

「いえ、そうではなく…」

さっき、薬を飲ませたこともあり、今の彼女はボクの膝に横抱きに抱えられ、落ちないようしっかり抱きしめられている状態。

「女の子は身体を冷やすと毒だよ?」

「で、でしたら…その辺に座りますので」

「だーめ、それはボクが許してあげない」

「え、えぇ!?

わざと明るい声で言ってから、ぎゅっと抱き締める。

「た、隊長!!」

……ごめんよ

「え…?」

先程、薬を飲ませた行為について謝罪をしようと口を開きかけたところ、後頭部を硬い何かで叩かれ思わず声をあげる。

「あだっ!!」

「な……何を、している…ん、です…かっ!

「痛いなァ、七緒ちゃん。ボクは別に何もして…」

「嘘をつかないで下さい!彼女の胸元が…み、乱れているじゃありませんか!」

「………

七緒ちゃんに言われて、そちらへ視線を移せば…確かに、乱れてる…ように見えなく、もない。
同じように視線を向けた彼女は、今までにないくらい顔を真っ赤にして襟元を寄せると、そのまま俯いてしまった。



あーあ…
耳まで赤くしちゃって、可愛いったら…




なんてことを考える余裕は、与えられないらしい。

「地獄蝶を使わず、私に上級救助班を呼びに行かせたのは、そういうわけですか」

「違うよ、七緒ちゃん。誤解だって」

ちゃん、こちらへ!」

有無を言わせない様子で、ボクの膝の上にいた彼女の手を取った七緒ちゃんが、素早く動いた。

「縛道の一、"賽"!!!

「…うっそ…そこまでやる?」

「上級救助班が来るまで、危険ですので、そのままでいて下さい。大丈夫ですか…?」

ちゃんの肩を抱いて、ボクに背を向けて二人が距離を置く。
このくらい、すぐに解けないわけではないけれど…今は、解かない方がいいんだろう。

「やれやれ、参ったね」



青空にぽっかり浮かんだ徒雲。
上空の風が強いのか、それはあっという間に姿を消してしまった。

まるで、ボクの不安をかき消すかのように…





BACK



毎度〜毎度〜…設定が〜生かせないので〜説明だけする!(笑)
卯ノ花隊長の妹さんです。
持病があるため、発作が起きた時に卯ノ花隊長が作った丸薬がないとぶっ倒れます。
倒れるというか、危ないというか…そんな感じ(おい)
まぁ、これ書いてた時は、私がよく過呼吸気味になるので、それが頭にあったんですけどね。
(過呼吸気味と思ったが、実は過呼吸だったようです(笑)←気づかなかった)
ちなみに浮竹さんは兄的な感じで可愛がってくれてます。
七緒ちゃんは、妹のように大切に思ってくれてます。
基本、愛されキャラってことで。
最初は花ちゃん用に作ったヒロインだったんだけどなぁ…(苦笑)