「おい、クラッド。」

「・・・なんだ。」

何もない、真っ白な空間。
ただ鏡のような物だけが置かれている世界の中、オレは鏡に映るクラッドに語りかけた。

「お前、に惚れてたろ。」

なっっ!と、突然何を言う

ヒマだった、と言うのもあるがこんなに相手に反応があるとは思わなかった。
少しは気があるだろうと思っての台詞だったが・・・面白い。
オレは背を向けていた鏡へ向き直ると、背中を向けているが耳が赤くなっているクラッドへ再び声をかけた。

「おいおい、どうせお前もヒマなんだろ?顔見て話そうじゃねぇか。」

「貴様と話すような事は何ひとつない!」

「・・・そういやがお前の事、話題にした時があったな。」

ポツリと呟けば、両手を鏡について振り向いたクラッドがいた。



――― コイツ、案外可愛いヤツなのか?



「何を言っていた。」

「あぁ?」

ワザとはぐらかせばクラッドは鏡が割れそうな勢いで鏡を叩き始めた。

「だから!彼女は一体何を言っていたんです!!」

「さぁ〜な♪昔の事だったからなぁ〜・・・」

「貴方の記憶力はそんな物なんですか!!時間ならいくらでもあげます!思い出しなさい!!

おいおい、本当にこれがクラッドか?
今までヤツのこんな顔、見た事ないぜ!?
・・・真っ赤な顔して、まっすぐ真剣な眼差しでオレの口から『』の名が出るのを待ってる。



・・・いや、一度だけ見た事があるか。
総司令殿が意識を失ってオレの前にクラッドが現れた時。




ちょっとしたピンチに陥ってヤバイって感じた時にがオレとコイツの間に割って入ったんだよな。
下手すりゃ死んじまうって状況だったのに、は何の躊躇いもなくオレ達の間に入った。
まぁ今思えばあれはが無意識のうちに総司令殿の体を守ろうとした結果だろうケド・・・そん時、クラッドはやっぱ今みたいな目をしてを見てたっけ。

「本当ぉに聞きたいのかぁ?」

「無論!」

「何で。」

「・・・は?」

「何でたかが人間の女の意見が聞きたいのか言ったら、オレも教えてやる。」

「なっ!!」

「交換条件だ。別にオレは言わなくてもいいんだぜ♪」

オレ的には何の損もしない。不利なのはクラッドだけ。
こんなくだらない取引に応じるなんて、これっぽっちも思っていなかったのに・・・サラリとコイツは言いやがった。

「・・・気になるからだ。」

「は?」

今度はオレがヤツの言葉を聞き返す番。
ナニ?ナニが気になるって!?

「初めて彼女の目を見た時に・・・私の中で何かが生まれた。それが何か・・・知りたい。」



・・・うっわぁ〜マジだよコイツ。
それが何か知りたいって・・・『恋心』以外の何だって言うんだよっ!
ひょっとしてコイツって大助並に恋愛疎いのか!?

「さぁ、私は話したぞ。次はダーク!貴様が約束を守る番だ!!」

ここまでやっといて言わなかったら流石のオレ様でも良心が痛むな。
本当はと約束していた事だったけれど、言わないと決めていたけれど・・・たった二人しかいない世界でこんな目をしたヤツを無視出来る程、オレもワルじゃないって事だ。

「・・・
綺麗だってよ。」

「何?」

ポソリと呟いた言葉が聞こえなかったのか、それとも納得できなかったのか。
クラッドは眉を寄せて再度オレに問いかけた。

「もう一度言いなさい。」

「だーから、お前の事綺麗だって言ったんだよ。は。」

「・・・意味が分からない。」



大助並にお馬鹿さん、決定!!
やっぱりは総司令殿に預けて正解!オレの選択は正しい!!



「おい、どういう意味だ。」

「全部説明する気はねぇ!じゃぁなクラッド!オレはもう寝る!!」

あ〜もー馬鹿らしくなってきた。
自分から鏡に対面しておきながら今度は思い切り背を向けてわざとらしく両手で耳を塞ぎ目を閉じた。
まだ鏡を叩くような音と、クラッドの声が聞こえるけど・・・これ以上は教えてやらねぇよ。
オレだって・・・との約束を全部破るなんて事したくねぇからな。




















「綺麗だったね、あの人。」

「はぁ?」

何とか窮地を抜け出して近場の公園でタオルを濡らして、傷ついたの身体を拭いている時に聞こえた一言に思わず声をあげる。

「・・・ナニ言ってんの、お前。」

「えーだって綺麗だったよ!羽が広がる所とか・・・」

・・・ここが夜の公園じゃなかったら取り敢えず頭殴って怒鳴りつける所だぞ!
クラッドとの戦いで傷ついた傷口から血が噴出しそうな気持ちを抑えつつ、の傷口を再びタオルで拭う。
さっきよりちょっと力が入るのは・・・我慢しろよな?
紙で切ったような傷口が全身にあるくせに、諸悪の根源が綺麗だなんてお馬鹿な事言うからつい力が入っちゃうんだからな。

「はいはいそうですねぇ。チャンこっちのおてて貸してくださ〜い。」

「・・・何で子ども扱い?」

「現状の分からないお馬鹿さんはお子様で十分。」

「だってあたしと目が合った時、あの人困ってたんだもん!」

「はいぃ?」

困ってた・・・困ってたぁ!?誰が?アイツが・・・クラッドが!?

「ホンの少しだけど、瞳がね・・・揺れたの。嬉しいような困ったような・・・不安定な状態。」

「・・・はぁ。」

「ダークと距離が開いてなかったら思わず抱きしめてあげたくなるような・・・そんな感じがした。」

そう言って月を背に微笑むは・・・思わず息を飲むほど神聖な気を放っていた。





の目には魔石が埋まっている。
それはオレの魔力が絡んでいるから、はオレから一定距離離れると目に激痛が走る。
だから怪盗ダークとして盗みに入る時は必ず一緒に行動する。

「・・・抱きしめたくなる、ね。」

「うん・・・ちょっと総司令殿に感じる気持ちと同じかな。」



照れたように指で頬を掻く姿は、いつもと同じ手のかかる相棒。
それがいっちょ前のオンナみたいな口聞いて・・・。
何だか胸がムカムカし始めた。
それが何かって分からないオレじゃないけれど、今は取り敢えず無視!!



持っていたタオルを放り投げてウィズを呼ぶと、ベンチに座っていたをひょいっと抱き上げた。

「ダッダーク!」

「子供の話はベッドで聞いてやるから、帰るぞ!」

「ベッドでって・・・一緒に寝る気?」

「おう、お前時々大助と一緒に寝てるだろ。」

「それは大助だからに決まってるでしょ!!」

ついさっきまで見せていた大人びたオンナの表情が消え、いつもの手のかかる相棒の顔に変わる。
そうそう、お前はまだこっちでいいんだよ。

「だ〜から、家に帰ってお前を寝かしつけたら大助と変わってやるって♪」

「それじゃぁダークと一緒に寝るのと変わりないじゃない!」

「ま、そうとも言うか♪」

ジタバタ暴れるの額に軽くキスをしてその目を見れば、ピタリと動きを止める代わりに困ったような恥ずかしいような複雑な顔をしたがオレの顔をじっと見つめる。

クラッドが見惚れたのも・・・分かる気がする。
最初は仕方なくつれて来たはずのを手放せなくなっているのは・・・オレの方だ。
こうしてくだらない話をしたり、ちょっとした事をしてものオレを見る目は変わらない。
いつでもまっすぐ相手を見つめる。
本来なら綺麗な翡翠の瞳のはずが、片目が魔石の所為で赤くにごってしまっている。

「・・・ダークの、馬鹿。」

額を手で押さえながら頬を膨らませる、そんなお前が最近ちょっと可愛く思えるんだよな・・・オレも。
そんな思いを抱いているのがオレと総司令殿、大助・・・そしてクラッド。
これ以上敵を増やすのはゴメンだな。

「馬鹿で結構。家に帰ったら英子にキチンと手当てしてもらえよ。一応オンナなんだから傷跡なんか残すんじゃねぇぞ。」

「残ったらダークに責任取らせる!」

「あぁ?」

「女の子の身体に傷つけてほったらかすなんて大怪盗ダーク・マウジーの名が泣くよ!」





・・・だからお前を手放せねぇんだよ。
まっすぐ想いを伝えるお前は、オレには眩しすぎる。
側に置きたいのに、眩しすぎて距離を開けちまう。

距離をあけて気付いたのはお前の想いが別の方向を向き始めた事だけ。
それがどんなに難しい事でも、最後は絶対ソイツにお前を預けてやる。

だから・・・それまではオレの側で、いつものように笑っててくれ。





「バーカ。お前を嫁になんてゴメンだね。」

「あーっひっどい!最近家事も上達したんだからね!」

「はいはい。」

「掃除だって、洗濯だって英子が褒めてくれるんだから!」

「そーですか♪」





クラッド、に惚れてたのは・・・オレも同じだ。
想いを伝えられなかったってトコまで同じってのは笑えねぇな。





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あははははははっついにこの二人も参戦しちゃったよ(爆笑)
何処まで行けばいいんだ!?この捏造D・N・ANGELドリームは(笑)
クラッドの口調なんて実は全然良く分かってません(キッパリ)
たまたま買ったCDで草尾さんと置鮎さんが早口言葉の対決をするのを聞きながら書いたんですもの、この話v
えーちなみに、この話はダークとクラッドがそれぞれのテイマーの体から抜け出た後と思って下さい。
彼らがテイマーの体を抜けてどうなるのか知りません。
私の中では何処かに二人はいるんだろうなぁ、決して触れ合えない場所に、と思ってます。
だってあの二人が手の届く所にお互いいたらくだらない事で喧嘩してそうなんだもん(笑)

でも何気に皆に愛されているヒロイン・・・やべぇ、スッゲー楽しいかも(笑)