「それ、なんだい?」

部屋の隅でごそごそしていたマクモに声をかけると、びくっと大きく身体を震わせて背に隠した。

「なっ、なんでもねぇよ!!」

「・・・へぇ〜」

大げさとも思えるほどの大声
その上、見るからに挙動不審

「なんでもないなら見ても構わないよね」

「まっ、待てキリク!」

マクモの背後に回りこみ、あっという間に隠していた物を手にしたキリクは思わず息を飲んだ。

「・・・・・・」

見事な装飾が施された可憐・・・という言葉が似合う花のブローチ

「返せよっ!!」

真っ赤になったマクモがキリクの手からそれを奪い取った瞬間、キリクは真っ青な顔で彼の肩を掴んだ。

「熱でもあるのかい」

「はぁ!?」

「そうじゃなければ、ここはジャンクの本の・・・いや、そんな馬鹿なことはない。ジャンクとは昨日から顔を合わせていないし・・・」

「何言ってんだよ、キリク」

ぶつぶつ呟きつつ、もう一度彼の手の中にあるブローチに目を向ける。



――― 普通だ



いや、普通というより・・・素晴らしい出来の装飾品だ。
全て布で作られているのに、まるで最高級の宝石を使用したかのように輝いて見える。

あの、マクモがそんな物を作り出すなんて・・・

「・・・父さん、母さん・・・敵も討てずに、ごめん・・・」

「どうしたんだよ、急に!?」

「ボクの命も明日まで・・・いや、これまでかと思うと・・・案外色んな思い出が浮かんでくるね」

「何不吉な事言ってんだよ!」

「世界の滅亡でもない限り、君がこんな美しい装飾品を作り出す事ないだろう?」

「はぁ?オレは今までもこれからも最高の品を作るぜ?」

ほら、こんな風に・・・と、言ってあっという間に作り出したのは・・・今にも毒を吐き出しそうな、幼虫にも似た塊。

「・・・毒虫」

「違うって!これは旅立ちの刻ってタイトルの若々しい蛹をイメージしたブローチだ!」

そう、これが普段のマクモだ。
命名だけは立派だが、出来上がった品に関しては、どう考えても身につけたら呪われるとしか思えない物を作り出す。

全ては彼のセンスの問題なのだろうが・・・

「これでも文句を言うなら次は・・・」

再び呪いの道具を作り出そうとしたマクモだったが、軽いノックの音を聞いた瞬間その手が止まった。

「・・・・・・」

「はい」

それに答えたのは、キリク。
硬直して動かないマクモを怪しみつつ扉を開けると、そこにいたのはこの街に来た時に知り合った少女だった。

「こんにちは、キリク」

「こんにちは、。どうしたんだい?」

「マクモが渡したい物があるから今日来て欲しいって・・・」

「へぇ〜・・・」

「マクモは?」

「・・・彼に似た化石なら部屋にあるけど?」

「化石?」

ひょいっと、キリクの肩口に部屋を覗き込むと、確かに部屋の中央でこちらに背を向けているマクモの姿が見えた。
何かに集中しているのかピクリとも動かないその姿は、確かに化石に見えなくもない。

「・・・忙しいの、かな?」

「そんな事ないと思うよ。ちょっと待ってね。」

にっこり笑顔でに背を向けると、気付かれないようため息をつく。



――― そういう事か・・・



彼女に見えないよう自らの身体でマクモを隠し、首元に素早く手刀を振り下ろす。

うぎゃぁっ!

「彼女来てるよ」

「え、え、あぁっ!

戸口を指差せば、マクモは転がるようにの元へと走っていく。
彼女に渡すはずの、ブローチを残して・・・

「全く、何をしてるんだろうね・・・」

相手を想って、いつも服を作っている彼。
けれど一方的な想いであればあるほど、マスターピースの力では補えない彼のセンスが表に現れ、この世の物とは思えない物を世に生み出す。
だが、一途な彼が相手を想う気持ちを込めて作り出したからこそ・・・これは宝石のように輝いて見えるのだろう。

このブローチが彼女の胸元につけられた時・・・
きっと、彼の気持ちも届くはず

Mac-modeが進化する日も ――― 近い



彼女の胸元につけられたブローチは、手の中にある時より一層輝きを増した。

「本当にいいの?」

「あぁ、モチロン!」

「ありがとう、マクモ!凄く素敵・・・」

嬉しそうにそれを見つめながら礼を言うを見て、マクモはずっと考えていた言葉を伝えようと彼女の手を取った。

「そ、それはっ・・・の・・・た・・・」

「え?なぁに?」

にっこり笑顔で首を傾げるを見て、マクモの頭から湯気が上がる。

「あ、あ・・・っ!」

「うん?」

「・・・そのっ・・・ぉ!」

「うん」

途中、あまりにイライラさせられたので、キリクが何度か頭だけでなく全身を凍らせたがあっという間に氷は解けてしまい役に立たない。










そのまま1時間が過ぎ、3時間が過ぎ・・・半日経って、日も沈んだ。

「ふわぁ・・・ボク、先に休ませて貰うよ」

「オ、オ、オレッ・・・」

「うん?」

真っ暗になった部屋の中、輝くブローチだけが彼らがその場にいる事を示す灯りとなった。

「一生やってなよ・・・」





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仕立屋工房のイベントに参加したのなら、マクモ夢の1つや2つあってもいいだろう!と。
あの!あの、どうやっても何があっても素敵デザインになるマクモがまともなモノを作るとなると、他の事で頭がいっぱいになるしかないだろう。
でもって単純なマクモが洋服以外で頭いっぱいになるなんて、好きな人しかないだろう!
…というわけで、出来上がった話でございます。
っていうか、一番すごいのは半日経ってもマクモの話を聞こうとしてくれるヒロインだと思うのは私だけでしょうか?(苦笑)
普通だったら、帰ります!!もしくはキリクのように寝ます!(おい)

Σはっ!もしかしてマクモのブローチに帰っちゃ駄目!という何かがこめられていたりして!!
(ありえるかもしれない(笑))