コトン、と音を立てて私の机にカップが置かれた。
「飲みたまえ。」
「・・・大佐?」
珍しい・・・いつも人に物を頼むべき人間が、こんな風に相手へ気を使うとは思ってもみなかった。
カップへ視線を向け、そのまま目の前でカップを持っている大佐へ視線を向ける。
「そんなに不審な目をせずとも何も入れていない。」
「・・・」
飲まないほうが身のためかもしれない。
そう思った瞬間、カップへ伸ばし掛けていた手を膝の上に戻してしまった。
それを見た大佐はやれやれと言う風なため息をつくと、私の手にカップを握らせた。
「安心したまえ、これをいれたのは・・・ホークアイ中尉だよ。」
「リザ姉が?」
「・・・あぁ。酷くキミの心配をしていた。」
上官であるヒューズ中佐が何者かによって射殺された。
それを聞いても暫くは何を言われているのか分からず、上の人に命じられるまま家族へ渡すべく中佐の荷物を整理した。
勿論葬儀には立ち会うよう言われたが、どうしてもこの場を動く事が出来ず、空っぽになった中佐の席に座っていたら・・・マスタング大佐がやってきた。
「中尉の好意だ・・・飲みなさい。」
「・・・はい。」
ふと視線をカップの中身へ向けるとそれはコーヒーではなく・・・ココアだった。
「ココア・・・」
「あぁ、疲れている時には甘い物の方がいいと言って私の分までそれだ。」
眉を寄せながらまんざらでもない様子の大佐の声が・・・どんどん遠くなっていく。
ココア・・・これを最近飲んだのは、寒さを感じ始めた頃。
「ただいま戻りました。」
「おーオツカレサン。大佐は元気だったか?」
「・・・いつもどおりです。」
「あー・・・じゃぁいつものとおり、キミにどつかれ、中尉に発砲された・・・と?」
「オマケに今日は私の平手も入りました。」
ポソリと呟いた一言が中佐のツボにはまったのか、声を殺して机を叩きながら笑い出した。
「やっぱりお前さんは凄いなっ・・・くくくっ・・・ロイの野郎にそこまで出来れば大物だ!」
「私は大物ではありません。」
好きな人に笑われるのはあまり心地よいものではない。
中佐へ頼まれた書類を手渡しながら、俯いていると大きな手がポンッと頭に乗せられた。
「いーや、大物だ。それだけの事に巻き込まれながらもキチンとオレの用件を済ませてくれてる。おっそーだ!そんな少尉にイイモンをやろう♪ちょっと待ってろ!」
「ちゅ・・・中佐?」
跳ねる様な足取りで軍法会議所の隅にあるポットの所へ向かうと、鼻歌を歌いながら何かを作り・・・両手にカップを持って戻ってきた。
「ホイ、暖まるぞ。」
「・・・え?」
目の前に差し出されたのは、暖かな湯気を出している・・・ココア。
「ヒューズ中佐・・・」
「ん?嫌いか?」
「いえ・・・そうではなく。ココアなんて置いてありましたか?」
「コレは持参。」
「持参?」
「エリシアが最近お気に入りのココアを見つけてな。」
突然目の前にカップを持った愛娘の写真を出されて一瞬呆気に取られるが、それがいつもの事なので素直に視線を写真に向ける。
可愛らしいクマの絵が描かれたマグカップを持った・・・中佐の子供。
「―――で、箱についてる応募券を5枚集めると抽選でクマのぬいぐるみが貰えるんだよ♪」
「は、はぁ・・・」
「と、言う訳で中身の消費に協力してくれ。」
真面目な顔で肩を力強く叩かれ、その勢いに思わずコクリと頷いてしまった。
それを見て満足げな顔をした中佐は、席につくと再び自分のカップに手を伸ばした。
「それに・・・疲れてる時には甘いモンがいいんだ。」
ニッと笑ってココアを飲む中佐。
その表情には大佐の所から戻った私の労をねぎらう意味合いも含まれていて・・・自然と頬が緩む。
「・・・頂きます。」
「あぁ」
あの時飲んだココアは・・・甘く、でもホンの少し苦く感じた。
「・・・少尉?」
「頂きます。」
カップに口をつけ、ゆっくり中の液体をノドへ通す。
その味はあの時と違ってただ甘いだけだったけれど、冷えた心を包み込むような温かさがあった。
「少尉。」
「はい?」
カップを掴んでいた手を急に大佐に掴まれて、不意に顔を上げる。
「・・・そんな顔をして飲むものではないよ。」
「は?」
「ソレを置きなさい。」
この人の言っている意味が分からない。飲めといったり飲むなといったり・・・一体何がしたいのか。
言われたとおり両手で握り締めるように持っていたカップを机に置こうとしたけれど・・・絡めた指がなぜか石のように固まっていて動かせない。
ただ、あの時と同じようにココアを飲んでいただけのに・・・
「やれやれ・・・それすらも出来ないのか。」
大佐は自分のカップの中身を一気に飲み干すと、私の前にしゃがみ込み一本一本まるで絡みついた糸を解くかのように指を解き私の手からカップを抜き取った。
「キミは自分がどんな顔をしているのか分かっているのか?」
「?」
「ま・・・そんな所も、好きなんだがね。」
一瞬の躊躇いの後、大佐に思い切り強く抱きしめられた。
「――― 誰も見ていない。」
呼吸をするのもままならないほど強く抱きしめられた体。
いつもなら、すぐにでも振り払う所なのに・・・手が動かない。
頬を何かが伝っては落ちていく。
それが何か、私は知らない。
そんなもの、とうの昔に捨ててしまった。
胸にこみ上げて来る熱い物も、皆、みんな捨ててしまったはずなのに・・・
腕の中で真っ赤な目をした少女の身体を横抱きに抱え、扉の脇に立っていた人物に声をかける。
「・・・中尉、いるんだろう?」
「気付いていたんですね。」
「あぁ、殺気が感じられたからね。」
私がココアを手渡してから、ずっと中尉の視線を背中に感じていた。
この人の過保護さも些か問題だと思いながらも、腕の中の少女を離す事は出来ない。
「まさか泣かれるとは思わなかったよ。ヒューズの葬儀でも泣かなかった彼女が・・・」
「私の所為です。」
「キミの?」
「はい。」
言動の意味が分からずじっと彼女の顔を見れば、バツが悪そうに視線をそらしながら小声で応えた。
「彼女に・・・ココアを渡した事です。」
「ココア?」
「少尉にとってココアは・・・中佐が初めてくれたものだったそうですから。」
「・・・」
「中佐にとっては疲れ気味の部下へ渡したただの飲み物でしょうが、彼女にとって・・・そうではなかった。」
あぁそうか。
だからキミは一口飲んだ瞬間、瞳を揺らしたのか。
唇を噛み締め、彼女を腕に抱いたまま軍法会議所を後にする。
「大佐!どちらへ?」
「執務室。」
「は?」
「ここよりは寝心地のいいソファーがあるだろう。私が体験済みだ。」
「・・・同行させて頂いても構いませんか。」
「否、と言っても同行するだろう・・・キミは。」
「はい。」
まっすぐな部下の声にため息をつきながら、私は執務室へ向かった。
初めて見たキミの素顔。
それを引き出すのも・・・やはりヤツなのか?
いつか、心から微笑むキミをみたいと思うのは無理な事なのだろうか・・・少尉。
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・・・100000hit祝いに書いた事のないドリを書いてみようv
と言う訳で、日記で書いていた話の続きかな?
未だに名前を覚えていませんが『鋼の錬金術師』のヒューズ中佐ドリームv(別名:故ヒューズさんを偲ぶ話)
でも実はロイの片思いドリームかもしれない(苦笑)彼が報われる日って来るのかな?(おいっ)
原作途中までしか読んでない身で話を書いていいのか!?
と、思いながら
思いついちゃったんだもんしょうがないよね♪
と、鼻歌を歌いながら書いていたのはこの私!
(こんな風見へのご意見、苦情は柔らかめにヨロシク←おいおい)
書いていて思ったのは、軍人さんって滅多に名前呼ばないよなぁどうすればドリームになるんだ!?と思った事(笑)
だから所々強引に名前が入ってるでしょ?苦肉の策だったみたいです(笑)
本当は日記に書いたのもUPする形にすれば、この話の前にもう2本ロイの片思いドリーム書いたんですけど・・・どうしましょうね(笑)
誰か、読む人います?(聞くなよ(苦笑))