バシンと乾いた音が軍の廊下に響いた。

「・・・っつー」

「セクハラです。」

頬を押さえながら目の前にいる女性から一歩下がる。

「相変わらず手厳しいね・・・少尉。」

「大佐も懲りませんね。」

本来であれば上官に対して手をあげたり暴言を吐いたりすれば最低でも減法、最悪の場合首が飛ぶ事もあるが・・・彼女に対してそれは適用されない。



チラリとこちらへ向けられる、全てを射抜いてしまいそうなまっすぐな眼差し。
彼女の燃えるような瞳に、私は抗う事が出来ない。



「それにしても肩についていたゴミを取るだけでこの仕打ちはないんじゃないのかな?」

「大佐が身体に触れれば速やかに処理するよう教えられましたから。」

抱えていた書類の枚数を数えながらそう応える彼女・・・その姿すら神聖な物に見えるのだが、それに反して今不穏な言葉を発しなかったか?

「・・・処理する?」

「はい。」

「一体誰が・・・」

と、問いかけるよりも先に私の足元に数発の銃弾が打ち込まれた。

「少尉から離れてください、大佐。」

「・・・中尉。」

ため息をつきながら視線を向けると、直属の部下である中尉がこめかみを引き攣らせながら銃口をこちらへ向けていた。



全く・・・どうして私の周りにいる女性は皆気が強いのだろうな。



「離れてください、大佐。」

「分かったよ。」

どうやって手を伸ばしても少尉に届かない位置まで来ると、中尉はようやく銃を下ろしこちらへ近づいてきた。

「中尉、お久し振りです!」

「お元気そうですね、少尉。」

・・・中尉の笑顔と言うのは今まで数えるほどしか見た事がないが、少尉の前だと笑顔でない時を数える方が早いな。
どれだけ彼女が少尉の事を気にかけているのかと言う現われ・・・なのだろう。

「不自由はありませんか?」

「はい。皆さん良い方ばかりで色々勉強になります。」

「それは結構。」

彼女が少尉を気にかけるのには理由がある。
大切な親友が亡くなり、その忘れ形見でもある妹が軍に入隊すると知ってから中尉は時間があれば少尉の元を訪れいろいろ面倒を見ているらしい。
だが、少尉に近づく男性を端から片付けるのはどうかと思うのだがね、中尉。
不意に頭の中を嫌な考えが通り抜け、今だ談笑している女性達に声をかけた。

「ひょっとして彼女に教育を施したのは・・・中尉なのか?」

言うと同時に中尉の厳しい視線がこちらに向けられ、まるで少尉を守るかのようにその前に立った。

「親友の妹を危険に晒すわけには行きませんから。」

「危険・・・」

「貴方が半径5メートル内に入ればすぐに戦闘態勢に入り、身体に手が触れたら容赦なく攻撃するよう私が言いました。」

仮にも直属の上官である私をなんだと思っているんだ・・・この人は。
私は軽く眩暈を覚えつつも、チラリと中尉の後ろに隠れてしまった少尉の方へ視線を向けた。
すると・・・彼女の眼差しが、まっすぐこちらに向いているのに気付いた。



――― 思わず見惚れてしまうような瞳 ―――



しかし、燃えるようなその目が見ていたのは・・・

「おーっ、こんなトコにいたのか♪」

俺の後ろからやってきた少尉の直属の上官・・・ヒューズ。

「大佐を探しておられたのですか、ヒューズ中佐。」

「いや、俺が探してたのはオマエさんの後ろに隠れちまってる少尉だ。」

「私ですか?」

名前を呼ばれた事に気付いた少尉がヒューズの前に出てくると、ヤツはすぐに彼女の肩にポンッと手を置いた。
その手は・・・払われる事無く、何も無いように会話は進んでいる。

「さっき頼んだ書類はそれか?」

「あ、はい。中佐の所へ届けに行く所だったんですが、不測の事態が起きまして遅くなってしまい申し訳ありません。」



・・・不測の事態とは私の事か?



言葉にしなくとも中尉と中佐の視線が私の方へ向いていることで全て肯定されてしまった。

ヒューズのヤツが妙に楽しそうに笑っているのが・・・ムカつくな。

無意識に発火布を使ってしまいそうになり、慌てて動きそうになった手を制する。
今この場で焔を使えば彼女まで巻き込んでしまう。
その間にヒューズは彼女から書類を受け取り軽く目を通すと満足げに頷いた。

「やっぱお前さんは出来る嬢ちゃんだな♪」

「そんな・・・」

「オレは立派な部下を持って幸せだ♪」

満面の笑みを浮かべながら部下である少尉の頭をまるで子供のように撫でるヒューズ。
その顔は愛妻や愛娘を褒める時のようなだらしない笑顔と全く同じだ。

コイツののろけは身内だけでとどまる事はないのか!?

「じゃ、詳しい話は軍法会議所でするか。大佐、中尉、あとでこの書類お届けしますんで。」

「わかりました。少尉を宜しくお願いします、ヒューズ中佐。」

「任せとけって♪」

ニッと笑いながら踵を返して歩き出すヤツの後を、少尉がついていく。
その表情はさっきまでの固い表情と違い、微かな恥じらいと嬉しさが溢れている。



・・・何だか、ムカつく。




いらいらした表情のままその姿を見ていると、不意にこめかみに冷たい銃器が当てられたことに気付いた。

「・・・中尉。」

「大佐、少尉に手を出したら何を敵に回しても私が貴方を殺します。」

「笑えない冗談だな。」

「えぇ。」

緊迫した空気の中、私は小声で呟いた。

「・・・ヒューズなら構わないと言うのか。」

「は?」

「いや、何でもない。戻るぞ、中尉。」

「・・・はっ!」

私の声の変化に気付き、すぐに態度を改める中尉を後ろに従え部屋に向かう。



ヒューズならば身体に触れても構わない。
ヤツに対してはその強固な表情も崩れる。
そしてヤツに対してのみ向けられるその眼差しは、他を見る事はないのだろうか。

私が唯一苦手とするもの、そして唯一欲する物
それは・・・決して叶う事のない想いを抱いている可憐な、少尉。





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え〜・・・お蔵入りされていた品でございます。
ロイ夢(しかも片想い)が読みたい方いますかぁ〜?と呼びかけた所、ご指名がありましたので引っ張り出してきました。
以前日記で書いてこっそり載せた物が風見初、鋼夢です。
そしてサイトにUPされてるのが風見第三弾、鋼夢。
でもってこれがお蔵入りになっていた第二弾、鋼夢でした!
・・・全部が全部お相手ヒューズさんで、ロイの片想いってどういう事でしょう(笑)
しかも本当に大佐にこんな事リザ姉がやってたら・・・ヤバイっすよね!?

――― 間 ―――

ま、気にしないって事で!!
さてさて、今後ロイの思いは報われるのかどうか・・・それは私も知りません(おいっ)
さぁ〜て、また時間ある時に鋼のDVD見ようかな♪←実は溜まってる(汗)