「・・・またいる。」
靴を履き替え校門へ向けて歩きだして数メートル。
そこには遠目から見ても分かる派手なアロハシャツを着て、サングラスをかけたひとりの男が立っていた。
「よぉ。来てやったぞ〜」
学校の校門の前で・・・しかも、何で今日もまたバイクで来てるのよ!!
「加賀っ!もう学校には来ないでって言ったでしょ!!」
「卒業生の俺が来ちゃ行けねぇって言うのか?」
「ダメ!!」
本当だったら卒業生が母校に訪ねてくるのはおかしな事じゃないけど、加賀にとってはおかしな話。
だってこの人が愛校心なんてもの持ってるとは思えないんだもん。
「相変らず鼻っぱしの強いオンナだな、お前は。」
「別に加賀に迷惑かけてる訳じゃないからいいでしょ。」
「そりゃそーだ。」
くくくっといつものように笑う加賀を見て、あたしの胸は小さく高鳴った。
それはまるであの日、加賀があたしを見つけてくれた時と同じ様に・・・。
卒業式の日、沢山の女の子に囲まれた加賀先輩を遠くから見ていた。
上級生で、部活は将棋部、生活指導のカツマタ先生にいつも追いかけられていて・・・一度だけ匿った事がある、ただそれだけの関係。
きっと先輩はあたしの名前も知らない。
あぁ今日で加賀先輩の姿を見れるのも最後なんだって思いながらいつものように眺めていたら・・・何かの弾みで、運命の歯車が大きく回った。
大勢の人がいる中、加賀先輩があたしを見つけてくれて・・・それだけで嬉しかったのに、先輩はそのままこっちに向かって歩いてきたかと思うと最後まで取ってあったガクランの第二ボタンを引きちぎるとあたしの手に押し込んでこう言った。
「なぁ、お前・・・俺のオンナにならねぇか?」
そんな台詞を夢見てないとは言わないけど、突然の事に天邪鬼なあたしが頷くはずは無い。
反射的に手が出て、それは見事に先輩の頬にヒットしてしまった。
「い、いやです―――!!」
そのまま踵を返してその日は家に帰ったんだけど、その日から・・・ほぼ数日置きに加賀先輩はあたしの家や行く先々に現れて・・・現在に至る。
加賀先輩・・・何て呟いて頬を染めていたあたしはどこへやら。
今やすっかり先輩を“加賀”と呼びすて状態。
はぁぁ〜っと大きなため息をつくあたしの横を、最近買ったと言う愛車カブを引きながら加賀がついてくる。
「おい、。」
無視、無視・・・そのうち飽きて帰るよね。
「っ!」
無視・・・無視よ、あたし。
「何だよ、俺の美声にそんなに聞き惚れてぇのか?」
「誰がそんな事言った!!」
あ゛、つい突っ込んじゃった。
「聞こえてんじゃねぇかよ。」
またいつものように意地悪そうな顔してこっち見て・・・どうせあたしは単純ですよぉだ!
心の中で「加賀の馬鹿」と何十回も呪文のように繰り返していると、加賀が手に持っていた銀色のメットをあたしに放り投げた。
「ほらよっ」
「?・・・何?コレ。」
「何だよ、お前メットも知らねぇのか?」
「それくらい知ってるよ!だから、それを何であたしに渡すのって言ってんの!!」
受け取ったメットの紐の部分を指で持ちながらそれを加賀の目の前でブンブン振り回して見せると、さっきのあたしに負けないくらい大きなため息を加賀がついた。
「・・・この間、お前をバイクに乗せようとしたらメットが無きゃイヤだって言ったろうが。」
「え?」
「だから、今日はこうして俺様が直々に新しいメットを持ってきてやったんだ。」
目の前で揺らしていたメットを加賀が奪うとそれをあたしの頭に無理矢理被せ、顎にあった紐をキュッと締めた。
「ちょっ・・・」
「今日は付き合えよ、。」
「ちょっ!加賀っ!!」
「黙ってねぇと舌噛むぜ!!」
強引に手を引かれ、カブに乗せられるとそのまま加賀はバイクを走らせた。
学校を出て数メートルの所でバイクに乗せられて・・・もし、誰かに見られたら明日先生に怒られるな。
しかもこのカブ、二人乗りしてもいいものなの?
警察に見つかったらまずいんじゃない?
そんな事考えているくらいなら、今すぐ暴れて下りればいい。
スピードもそんなに出ていないし、加賀も今は運転に集中している。
でも・・・本当は、加賀のこう言う強引な所も、嫌じゃない。
「・・・ここ。」
「お前の家からチャリで10分の・・・公園。」
加賀の事だから絶対に何処かの繁華街にでも連れてかれるんだと思った。
でも実際に連れて来られたのは、あたしのお気に入りの場所・・・小さな植物園のある公園。
ちょっと入り組んだ所にあるからひと気があまり無くて、でもこの静けさがあたしはとても気に入っている。
メットを外してシートの下にしまうと、加賀はポケットから小銭を取り出して側の自販機でジュースを買った。
「ほらよ、ノド渇いたろ。」
「あ、うん。」
手渡してくれたのはやっぱりあたしが好きなメーカーの紅茶。
どうして加賀はこんなにあたしの好きな場所、好きな物を知ってるの?
「・・・何驚いた顔してんだよ。」
「どうして・・・加賀は、この場所を知ってるの?」
「あ?」
「だって・・・誰にも言った事、ないよ。」
手にした紅茶を開けて飲む事も出来ずそのまま手の中で転がしていると、その手に加賀の手が重ねられて思わず鼓動が高まる。
「お前の好きなモンなら何だって知ってる。」
「え?」
「昼休み、購買で買うのは必ずロイヤルミルクティーとツナサンド。それが無ければストレートの紅茶。好きな色は青とか水色とかの落ち着いた色。性格は明るく誰とでも仲良くなれる・・・が、実は寂しがり屋で静かな場所が好き・・・他にも言ってやろうか?」
コンっと言う音がして、手に持っていた紅茶の缶が地面に落ちた。
どうして・・・どうしてこの人はそんな事まで知ってるの?
「んで、カツマタに追っかけられてた俺を調理室で庇ってくれたよな?」
「だ、だって・・・」
「煙草の火、お前が隠してくれたおかげで助かった。」
ちょうど調理当番に当たって、片づけをしている時に窓から入ってきた憧れの先輩。
ちょっと怖い、不良っぽいって言われてたけど王将の扇子を持って将棋の駒を持っている姿はまるで獲物を狙った豹のようにしなやかで・・・。
偶然その姿を廊下から垣間見た時、カッコよくって目が離せなかった。
その日から・・・ずっとずっと好きだった。
「が望むモンなら何でもやる。が欲しいモンなら何でも手に入れてやる。」
「加賀・・・」
「だから、俺のモンになれ・・・。」
学校で言われていた加賀の行動とは全然違う。
そっと抱き寄せてくれた腕は優しくて、頭を撫でてくれる手は・・・大きくて温かい。
でも・・・天邪鬼なあたしはそんな事じゃまだ納得しない。
だから・・・最強のひと言を、加賀の声で言ってよ。
「ねぇ・・・欲しいもの、何でもくれるの?」
「あぁ、お前が望むもん全部くれてやる。」
「じゃぁ・・・――――― 好きって、言って。」
耳まで真っ赤になったけど、でもどうしても加賀の口から聞きたいの。
あたしが自信を持って加賀に愛されてるって思えるように、そして加賀を好きになっていいんだって証拠に・・・。
「いくらでも言ってやるよ・・・」
普段器用に将棋の駒を操る加賀の指が耳にかかった髪をゆっくりはらう。
耳に触れた指に体を震わせると、そこに加賀の唇が近づいた。
「好きだぜ、。」
「・・・ホント?」
「俺様にここまでさせたオンナは、てめぇだけだ。」
「・・・加賀。顔赤い。」
「てめぇほどじゃねぇよ。」
嬉しさのあまり半泣き状態で赤くなった鼻をニヤニヤ笑っている加賀につままれた。
鼻をつままれた手を両手でバシバシ叩くと、加賀は声を上げてその手を離してくれた。
ようやく安心して顔を上げれば、ついさっき迄少し照れたような様子だった加賀は何処にもいなくて、いつも学校で見せていた俺様状態に戻っていた。
「さぁ〜て、これでもうお前は俺のモンだ、これからは遠慮なんかしねぇからな。」
「・・・え、遠慮!?」
加賀の不吉な言葉に思わず動きが止まる。
「安心しろ、お前が嫌がる事 今 は しねぇから。」
「い・・・今、は?」
「いずれお前の方からするようになるかもしんねぇケド?」
楽しそうにこっちを見て笑った加賀を取り敢えず一発殴ろうと振り上げたその手をあっさり取られてそのまま引き寄せられた。
微かに重なった唇は・・・さっき加賀が飲んでいた、コーヒーの味がした。
バシッと言う音と同時に加賀の手を振り解いて再び距離をあける。
「か、加賀の馬鹿っ!!嫌いぃぃ〜〜」
「あーそーかい、でも俺はが好きだぜ。」
「馬鹿―!!」
「はいはい、馬鹿で結構。」
何を言っても上機嫌の加賀と対照的に嬉しさと恥ずかしさでいっぱいのあたし。
そして翌日から当たり前のように学校の前にカブが止まっていて、そこには銀色のメットを抱えたアロハシャツの男が・・・立っていた。
100のお題からこっそり移行させましたが、コメントは殆ど弄ってません。
祝!加賀鉄男キャラクターソング発売!!・・・好きなんです、この俺様な加賀が!!!
ヒカルの碁でホンの僅かしか登場しなかったのに、バッチリ私の心を掴んで行った加賀。
今回キャラソンを聞いて再加熱(笑)
とにかく相手に対して押して押して押しまくる加賀v
たまにはこんなに押しが強い相手って言うのもいいじゃないでしょうか?
・・・でも頭の中で時折カフェ吉の真希ちゃんが駆け巡ったりもして、ちょっと複雑(苦笑)
※加賀鉄男=大久保真希=伊藤健太郎サンなのですよ♪あ、NARUTOのチョージもだねv
どんどんどんどん・・・私の趣味で埋まって行くこのサイト(笑)私の好みのタイプ、バレバレじゃん(苦笑)
あれ?・・・そう言えば、こんなに押しの強いドリーム書いたの初じゃないか?(今更・・・)