「キャンディ!」

「こんにちは」



時折繋がるラビリンスとこちらの時空。
その時だけ、あの人に…キャンディに会える。



「今日のポイントはここだったんだね」

階段を駆け下りて、夕日が差し込む廊下を駆け出す。
近くにいるけど、まだ彼に手は届かない。
目の前にいることを早く感じたくて、急いだのが悪かった。

「うわっ!」

自分の足に躓いて、キャンディのもとへ辿り着く前に躓いてしまった。
反射的に目を閉じて、これから訪れる痛みと情けない体勢に覚悟を決める。
けれど、いつまで経っても痛みも衝撃も訪れない。

「?」

「大丈夫ですか、?」

ゆっくり目を開けると、大好きな人の腕の中…にいた。

「あ、ありがとう、キャンディ」

「どういたしまして。それにしても…」

「?」

「本当にあなたは、目が離せませんね」

くすくすと笑いながら手を引いて立たせてくれるキャンディを、少し頬を膨らませながら睨む。

「だって、久し振りに会えたから嬉しいんだもん」

「この間も、そう言っていましたよね」

「この間はこの間。今日は今日!」

「じゃあ、次も同じように言って貰えるんでしょうか?」

「その時はどうだかわかんない!」

売り言葉に買い言葉。
そのままくるりと背を向けてしまい、すぐに後悔する。



本当は会えて嬉しいのに
少しでも、一緒にいたいのに
手を繋いで、顔を見て…話したいのに…

キャンディの馬鹿…
ううん…違う、あたしの……馬鹿



心で呟きながら、どうやって振り向こうかと思案していると、不意に背中からぎゅっと抱きしめられた。

「すみません…」

「…」

「君があまりにも可愛くて…つい、意地悪を言ってしまいました」

「…意地悪…?」



一体いつ意地悪なことを言われたのだろう?



それが気になって少しだけ自由に動く首を捻ってキャンディの方を振り向く。

「意地悪って?」

「…気づいていなかったんですか?」

「……う、うん」

だってキャンディはいつだって優しい。
転びそうになった時だって、抱きとめてくれるし、今だってあたしが勝手に怒ってるのに、こうして抱きしめてくれてる。

「キャンディはいつも優しいじゃない」

「……そんなことは、ありません」

一瞬細められた瞳が冷たく見えて驚いた。

「僕は…優しくなんて、ありませんよ」

「……」

どこか泣きそうな、悲しげな表情。
キャンディはいつも綺麗に笑うけど、時々こんな風に傷ついたような…痛いような表情を見せる。
それがどうしてか…は、まだ教えてくれないけど…いつか、教えてくれるよね。

もぞもぞと体を動かしてキャンディの方へ向き直ると、自分からぎゅっと彼を抱きしめる。

「キャンディ、大好き!」

「……

「大好きだよ…」

「…僕も、君が…好きです」

少しの間、躊躇っていたキャンディの手が背中に回されて…そっと抱きしめてくれた。
それにどこかホッとした自分がいる。



あたしの好きな人は、この世界の人じゃない。
迷宮にいる、精霊。
だからいつでも一緒にいられるわけではない。

でも、好きになったこの気持ちは…止められない。






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ラブルートゼロを知ったのは…というか、入ったのはキャラソンCDから。
既に入口がおかしいけど、気にせずスルー(笑)
CDの十番勝負で、キャンディってどんなキャラよ!?とか思い、漫画を買ってみた。
一見白黒なのに心に深い傷のある…そんなキャラを、また宮田ッチが上手く料理…じゃなくて、上手く演じていらっしゃいました。

という訳で(どういう訳?)物語とは全く別のとこで話書いてみた。
だって八重子ちゃんや他のキャラ出そうとしても、まだ全然あっちの世界の事分からないし。
分かるのは行き来できるってのと、キャンディの過去だけなのだもの。
甘いけれど、ちょっぴり切ない風味になってしまいましたが、本当に書きたいのはどっぷり甘い話なんです。
…なんでこーなっちゃったかなぁ(苦笑)