今では既に見慣れた乗客となった彼女が、今日もミラクルトレインへやって来た。

「…お前、その格好は…」

「あ、都庁さん…Trick or treat!

「は…」

突然の事態に、大抵、人は動揺するものである。
しかも、その相手の格好が…明らかに、普段と180度違う格好をしていれば、ほぼ98%の可能性で動揺する。

「とり…なんだって?」

「Trick or treat…ですよ、都庁さん」

黒装束で身を固めてはいるが、胸元や足元は露わ…結ばれていることが多い髪は下ろされ、彼女が動くたびに白い肌の上で揺れている。

「なっ、わ、私は…」

ぶぶー、時間切れです」

真っ赤になった都庁の前に、紙袋が突きつけられた。

「都庁さんはこれ、着てくださいね。えーと、汐留くーん」

スカートの裾が翻っても一向に気にせず、揺れる電車の中でも器用にバランスをとって汐留へ向かっていった。
残されたのは、現状に対応仕切れなかった都庁のみ。

「…時間、切れ…」

「都庁さん…」

「六本木」

「………ドンマイ

ぽんっと、励ましのつもりなのか都庁の肩を叩く六本木。



それを見て、いつものようにぼやく黒い影。

「意味わかんねぇよ」



「えー、ぼ、ぼく…」

ぶー、汐留くんも時間切れ。じゃあ、はいこれ」

「え、これ、なんですか???」

「月島さーん、Trick or treat〜!」

「あぁ、では…」



じゅぅ〜〜…

大江戸線内に、空腹を刺激するもんじゃの香り。



「これをどうぞ」

「わぁ、美味しそう…で、も…お菓子じゃないから、ぶーです」

「それは残念です」

「では、こちらをどうぞ」

「なんでしょう?」

「開けてみてのお楽しみです…えーと」

「討ち入りでござるー!」

次の標的は、この騒動の中でも忠臣蔵を車内で見ていた両国。

「両国さん」

「おぉ、殿ぉぉぉぉおお!?

ようやくこの騒動に参加。
見慣れた乗客の見慣れない格好に、やはり戸惑う両国。

「一体どうしたでござるか?あ、足がっ…足が!!

「Trick or treat?」

「と……なんでござるか?」

「Trick or treat…です」

隣にしゃがみ込まれ、にっこり微笑まれる。

「いや、拙者…そのような言葉は…」

ぶー両国さんもダメです」

「だ、だめ…でござるか」

「はい、だめでございます」



テレビ画面に短い足を、だらりと伸ばしてひと言。

「だめでございますって…それ、日本語としてもだめだろ」



「六本木さん」

「うん」

「Trick or treat」

「飴とチョコ、どっちがいい?」

にっこり笑顔でポケットからお菓子を出され、苦笑しつつチョコを示す。

「やっぱり六本木さんは知ってましたか」

「今日はハロウィンだよね。でも、ちゃんのその格好は驚いたよ」

「似合いません?」

早速チョコを食べながら、自らの格好を指差す。

「似合ってるよ、可愛い」

「…あ、ありがとうございます」

自分で言っておいてなんだが、六本木の爽やかな笑顔を正面で受けると…つい照れてしまうだった。

「きゃっ!」

大江戸線は、一番新しい路線なので他の線を避けて作られているため、カーブが多い。
既に常連となっているも、慣れてはいたものの、油断するとこのようによろけてしまう。

「おっと…大丈夫かい、子猫ちゃん」

「新宿さん」

すぐそばにいた六本木よりも、素早く手を伸ばした新宿。
女性であれば、動きも手も早い。

「つり革に掴まれないなら、オレにしがみついても構わないぜ、

甘い台詞と共に、露わになった肩を抱き寄せ手を滑らせた瞬間、腕の中の魔女の目が光った。

「Trick or treat……あ、滑った
「だぁっ!!」



網棚から、あくびしながらその様子を眺めていた影がひと言。

「…滑ってねぇよ。明らかに故意じゃん」



魔女の踵が、見事、新宿の足にクリーンヒット。

「っつー…お前、ヒールで踏むなよ」

「時間切れだったから」

「答える間もなかっただろ…」

支えていたをつり革に掴まらせ、押し付けられる前に紙袋を受取り座る。

「えーと、あとは…」

駅たち全員にイタズラは終わった。
あと残っているのは、誰だろう…そう考えたの背後から、聞き慣れた声。

「いらっしゃい、さん」

「車掌さん、こんにちは…あの、と…」
「少々お待ち下さい」

何事か口にしようとした彼女の言葉を遮り、すたすたと歩を進める。

「月島くん」

「はい?」

「片付けて」

「もう一枚焼いてからじゃダメですか?」

「駄目」

車内の、というより乗客のいつもと違う様子よりも、月島の持ち込んだ鉄板の方が気になるのか…それにはさすがのとくがわも突っ込む前に、でかいため息をつくだけに終わった。



「はぁ………」



がたがたと駅たちが皆で鉄板を(何処かへ)片付けている間、の隣へ立つ。

「本日は、変わった装いですね」

「はい。今日は…」
「…Trick or treat?」

「え゛」
「「「「「「え?」」」」」」

仕掛けていた側に、先制するかのように車掌が言葉を発した。

「あ、あの…」

「Trick or treat…ですよ、さん」

「え、えっと」

ポケットを探ろうにも、さっき六本木に貰ったチョコは食べてしまった。
足元の紙袋の中には、イタズラ用の荷しか入っていないのは、持ってきた彼女が一番良くわかっている。

「あの、車掌さん…」

「残念ですが、時間切れです」

そのまま、とくがわや他の駅たちが見ているのにも関わらず、流れるような仕草で魔女の頬に軽く口づけた。

「貴女に悪戯は出来そうにないので、これで我慢します」

「…………」

「それでは、失礼します」

何事もなかったかのように一礼して去っていく車掌。



あとに残されたのは、なんともいえない顔をした駅と…

「充分イタズラだろ」

コウモリの羽を背中に背負ったとくがわが、魔女の足元にあった紙袋から顔を出していたとか。





Trick or treat…
電車の中、とはいえ…
ハロウィンの日には、ご注意を。





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あははははは、面白かった(笑)
ついにやっちゃいましたよってか、手を出しちゃったよミラクル☆トレイン。
中央線よりも大江戸線の方が絵が好みです。
案外面白くつくってある割に、深い言葉がポツリと出たりするのですよ。

ま、一番はとくがわですけどね★

これも一応最初の話は考えてるんだけど、書くには至ってません。

ヒロインはミラ☆トレのパスを持ってるんです。
とくがわのICカード乗車券専用パスケースに入れていると、自然とミラ☆トレに好きな時に乗れると言う(笑)

…あ・り・が・ち。

今のとこ1にとくがわ、2に車掌。
3以下が駅たちって位置づけなので、こんな話になりました。
打たれ弱い都庁とか、六本木の謎の"ドンマイ"(全く励ましてるように見えない(笑))
もてるハズがしょっぱなのお当番回で散々だった新宿…等、使ってみた。
ヒロインは黒魔女(ミニスカ)で乗車ってことで。←てきとー
駅たちはこの後、ハロウィンの格好をすることとなります。
とくがわの背中にはコウモリ羽がついてる以外、あとは考えてませんのでご自由にどうぞ〜(投げやりすぎ)