…うぅ…気持ち悪い…
やっぱり、無理しなければ良かった…

「……さん」

でも、欠席するわけにはいかないし…式の間は平気だったもんなぁ…
乾杯のお酒がまずかった、か…
三次会キャンセルして大正解


…ぇーさん

でも、本気でヤバい…カモ…

くらりと倒れこみそうになった瞬間、声が届いた。

「お姉さん、大丈夫」

「………」

「って、ヤバいな。おい、平…」



…ダレ?



目を開けたけれど、視界が狭まっていて側にいる人が誰なのかわからない。

「とりあえず、水。あと、薬局があれば…」

「オッケー!行って来る!」

「ほら、財布」

「っと…ありがと、万里!!」

声からして…男の子と、女の子。
もしかしたらデート中だったりするのかな。

うっすら目を開ければ、通りを走っていく小さな背中が見えた。

「歩ける?」

「…え?」

「そのまま座り込みそうなら、すぐそこにベンチがあるんで、そっちに座った方がいいよ」

示された方へ顔を向ければ、確かにベンチがある。
でも、今、そこまで歩いて行けるか…と言われると、自信がない。

「大丈夫です、から…」

「…そうは見えないんだけど…っと、ちょっと失礼」

「え……」

なに?と思う間もなく、身体がふわりと宙に浮いた。

「きっ、きゃぁ!?

「バッグだけしっかり持っててくれる?こっちはオレが持つから」

バッグがとか、荷物がとか…
そんなのよりも、な、な、なんであたし…見ず知らずの人に、こんな事されてるの!?



今日、式場で新郎が新婦を抱き上げた…お姫様抱っこっ!!



「離してっ!おろしてーっ!!」

ばしばしとバッグで相手を叩いたり、髪を引っ張ったりしてもおろしてくれない。

「うわっ、た…す、すぐだから…」

「すぐって、すぐって…」

「すぐだって…ほら、着いた」

足を止めると同時に、ベンチに下ろしてくれた。

「あ…」

「バッグはお姉さんが持ってるのと、足元にあったこの紙袋だけでオッケー?」

「う、うん…どうも、ありがとう」

「どういたしまして」

良く見ればベンチには彼の物だろうか…パーカーが敷いてある。
身体が冷えないように、だろうか。

「あの、これ」

「あぁ、折角の服、汚れちゃマズイと思ったから…オレので申し訳ないんだけど」

「それぐらい大丈夫よ。もう用事は終わっているし…」

立ち上がって服を返そうとしたけれど、やんわりと肩を押されて立ち上がるのを止められた。

「無理しない方がいいよ。顔色悪い」

「…え?」

ひょいっと顔を覗きこまれて、思わず息を飲む。

やだ…この男の子、凄い…カッコイイ。
…高校生ぐらい、かな。

「貧血かな…」

「ひゃっ」

ぼんやり眺めていたせいで、彼の手が頬に触れた瞬間、思わず間抜けな声をあげてしまった。



…あたしの、馬鹿



「ご、ごめん…なさいっ!ごめんなさい!!」

「オレの方こそ、いきなりごめん」

…笑ってる顔、凄い魅力的。
少し幼く見える表情が、余計彼を魅力的にしてる。

「んー…少し冷たいかな。良かったら肩貸すから、休む?」

隣に腰を下ろしてぽんぽんと肩を叩いているけど、見知らぬ男の子にそこまでして貰うわけにはいかない。
そもそもお姫様抱っこでベンチまで運んで貰ったことすら、申し訳ないんだから。

「だ、大丈夫!ありがとう」

「万里ーー!!」

「おー」

ばたばたと元気良く走って来たのは、彼の…彼女、かな。
声は聞こえないけど、凄い…仲良さそう。

あたしが学生の時は、あんなカップルに憧れたもんだったなぁ。
そんな走馬灯じみた物をくるくる頭で回していたら、いつの間にか彼だけがこちらへやって来た。

「一応水と、薬。アレルギーとかないなら、飲んだ方が少し楽かも」

「ありがとう…じゃあ、お金…」

「オレのついでだから」

「そんなわけにはいかないよ」

「オレが勝手に買って来た物にお金払わせるわけにいかないって」

街灯の下で、微笑まれて…こんな時、あたしはどうすればいいの!?
そもそもナンパなんてされたこともないし、こんな風に扱われたこともないんだもんっ!



――― ど、ど、どうすればいいんだ…!?



…ぷっ

「え…」

「あ、や…なんでもない

…なんでもないってわりには、物凄い笑ってるけど。
背中向けて笑い声我慢してるんだろうけど、肩…震えてるよ。

「あ、あのぉ…」

「あ、ごめんごめん…」

振り向いた彼は、目元を拭っていたけれど、あたしの顔を見たらもう一度吹きだした。



――― どうしろっていうのさ



「お金はいいよ。その代わり、今度…会ったら、あそこの店のアイスご馳走して」

「え?」

あそこ…と指差されたのは自分の背後。
それを確認するため振り向く。

「…それぐらい、今でも構わないけど……って、あ、あれ!?」

店を確認してから、彼に視線を戻せば…そこにはもう誰もいなかった。
周囲を見回しても、どこにも彼らしき人物はいない。

「え?え?えーーー!?

手元にあるのは、薬局で買ったと思われる…薬と水。

「これじゃあ、お礼…出来ないじゃ……」

そう思った時、手に柔らかなものが触れた。
それは、彼がベンチに敷いてくれた…パーカー。
座ったままでもポケットに手が届いたので、申し訳なく思いながらも何かないかと探ってみる。

「………え」

手に当ったものを取り出して、思わず声を失くす。
そこにあったのは、生徒手帳。
中を見る前に、学校名を見て…動揺を隠せない

「ちゅう…がく、せい…?」



――― 中学生っ!?



うっそ…あんな大人びた男の子が、中学生!?
中学生の男の子が、あんな風に大人の…っていうか、お姫様抱っこしたり、救護してくれたり出来るもの?
しかも、あたしよりも余裕綽々って感じで!!??

動揺しつつも、もしかしたら弟さんの手帳かもしれない…と考え、思い切って手帳を開く。
けれど、そこに貼られていた写真は、先ほどの彼よりも些か幼く見えるが…間違いなく、ついさっきまでここにいた彼の写真だった。

「…うっそ…」

愕然としつつも、写真の横にある名前を読み上げる。

「くさ…か、まり……?」

日下万里…と書かれた名前を口にしてから、彼が彼女に「バンリ」と呼ばれていたのを思いだす。

「…万里…」



結婚式の帰りに出会った素敵だなと思った男の子は…なんと中学生。
これ以上驚くことなんてないだろうって思ったのに、手帳を返す時、あたしはもう一度驚くこととなる。

まさか、彼女だと思っていた子が…男の子で、しかも万里と同い年だったなんて、誰も想像出来ない…でしょ?





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久し振りに"っポイ!"を読んだら、万里の男らしさにキュンとしたので書いてみた別バージョン。
…いや、さすがにもう中学生の気持ちはわかりかねます。
高校生もどうよって思いますが、ま、それはほら…気にするなってことで。
万里は老若男女優しいですよね…へーちゃんもですが。
目の前で具合悪そうにしてたら、お姫様抱っこも薬を買うのも躊躇う事無くするでしょう。
貧血だったら服を緩めるのすら、手早くやってくれそうです。

…お、恐るべき中学生(笑)

"っポイ!"は和くんが好きです、浪人しちゃう話とか好き。
へーちゃんとこのお母さんとお父さんの出会いの話とかも好き。
…でも数年も経つと、和くんはおとーさんみたいになってしまうのでしょうか。
万ちゃんは、チトセさんにもかーちゃんにも似てるなら、いつまでもあのままでしょう(笑)←それもどうよ
それにしても…っポイ!も長いですよね。
知ってる人いるんかな(苦笑)