「それでは皆、いい夢を・・・お相手は“ワーズ・ゲート”の細でした。」
「・・・はい、OKです。細くんお疲れ様。」
「お疲れ様でした。」
ようやく本日のラジオ収録が終わり、たった今読んだばかりのハガキを手に取るとその中の一枚を抜き取った。
気になり始めたのはいつ頃だろう
毎週届く1枚のハガキ
内容は他の人が送ってくる物とそう大差は無い
番組の感想と応援の言葉・・・
ただひとつ違うのは・・・いつでも甘い花の香りを運んでくるという事だけ・・・
「この香りは、鈴蘭・・・かな?」
ハガキに込められている温かな言葉と、甘い花の香り。
それがいつしか・・・俺の心の傷を、癒してくれた。
「・・・会えないだろうか。」
俺はそれをカバンの中へ入れると、様々な音が鳴り響く夜の町へと足を進めた。
翌日、たまたま街で会った姫乃と颯と一緒にカフェに入った。
「えー公開録音!?」
「うん。」
コーヒーを飲みながら小さく頷くと、目の前の姫乃はパフェを食べる為のスプーンをグッと握りしめて何やら嬉しそうだ。
「それってもしかしてFM KADOKAWA50周年記念のヤツ?」
「良く分かったね。」
「だって細くんのラジオ、私毎週聞いてるんだもん♪」
パフェを頬張りながら何処か楽しそうに笑う姫乃へ顔を近づけてそっと囁いた。
「・・・嬉しいな。ありがとう、姫乃。」
「!!」
「おいっ!細!!」
瞬時に隣から鋭い声と共に、姫乃を自分の方に抱き寄せる腕。
全く、姫乃と一緒にいるようになって表情豊かになったね・・・颯。
二人に気付かれないよう小さくため息をついてからもう一度姫乃の方へ視線を向ける。
「冗談だよ。そうだ姫乃、よかったら颯と一緒に公開録音に来ない?」
「え?行ってもいいの?」
「勿論。」
「ダメだ。」
「え?どうしてー?あたし行きたいよ!」
「・・・お前馬鹿か?その日は薫さんの手伝い朝からするって言ってたじゃねぇか。」
「あ゛」
「大体オマエは・・・」
・・・俺の事は全く無視して痴話喧嘩
仲がいいのか悪いのか・・・まぁ犬も食わないヤツだって事は分かっているけどね。
これ以上仲睦まじい姿を見せられるのも独り者としては少しばかりつまらない。
姫乃達の会話のスキをついて、さり気なく声をかける。
「それじゃぁ今度姫乃の都合がいい時、スタジオにご招待するよ。勿論、颯も一緒にね。」
「本当?」
「うん。」
ようやくご機嫌の直った姫乃は再びパフェを食べ始めた。
その時、今まで不機嫌そうな顔をしていた颯が小声で話しかけてきた。
「・・・大丈夫なのか?」
「・・・何?」
「公開なんとかってのは良くわかんねぇけど、人がいっぱい集まるんだろ?その・・・お前は音のナイツだから・・・」
思わず声をあげて笑ってしまいそうになる。
あの颯が人の心配をするようになるなんて・・・少し前の颯だったら考えられない。
――― 本当に姫乃の力は凄いな。
「大丈夫だよ。全ての音を受け取ろうとはしない。・・・それに俺のラジオの公開録音、一番の目玉みたいで断れなかったんだ。」
ずれた眼鏡を直しながらにっこり微笑むと颯が大きなため息をついた。
「・・・ムリすんなよ。」
「ほどほどにするよ。」
「あーっ!颯!映画始まっちゃう!」
「何!?」
「細くんごめん、また今度ゆっくり会おうね!!」
「気をつけて・・・」
先程までの静けさは何処へ行ったのか・・・姫乃の悲鳴の後、二人は慌てて店を飛び出していった。
姫乃の事を想っていた時は二人が一緒にいる所を見るのが辛かった。
でも今は手を繋いで雑踏の中に溶け込んでいく二人の後姿を見ても、もう胸は痛まない。
俺の心は既に別の人に捕らえられてしまっているから・・・
カバンの中に手を差し込んで取り出す1枚のハガキ。
表には番組名とラジオネームの『リリーベル』そして鈴蘭の可愛らしいシール。
『こんばんは』から始まって『これからも頑張って下さい』の言葉で終わるハガキ。
「・・・いつの間にか、俺は貴女に心奪われてしまった。」
「それでは今日はスタジオの皆さんと共に番組を始めたいと思います。細の“ワーズ・ゲート”」
観客としてスタジオにいるのは抽選で選ばれた50人。
番組的に静かに進めたいと初めに言っておいた所為か、予想以上に番組はスムーズに進んだ。
「それでは最後のお葉書です。ラジオネーム・・・リリーベルさん。」
思わず葉書から視線を外してスタジオを見渡す。
今日読む葉書はこのスタジオにいる人の物、とスタッフから聞いている。
・・・という事は、今 ――― 彼女がここにいる?
「リリーベルさん、今日スタジオにいらして下さっていますね。いつもお葉書ありがとうございます。」
俺は耳を済ませて心の音を探った。
俺の言葉に少しでも反応してくれれば彼女が ――― 分かる
「『こんばんは細さん。“ワーズ・ゲート”で公開録音がある事を知って悩みましたが、思い切って応募してみました・・・』」
その後の言葉は自分がどれだけこの番組の事が大切か、どれだけ心を救われたかという事がとても丁寧に書いてあった。
「『・・・当選するかどうか分かりませんが、もし当選したらその時は直接この言葉を言いたいです。これからも頑張って下さい』リリーベルさん素敵な感想をどうもありがとう。」
もっと上手く彼女の言葉を受け止めて、返したいのに・・・何故か上手く言葉が出ない。
彼女がこのスタジオにいると思うだけで、胸の鼓動が高鳴る。
「楽しい時間は過ぎるのが早すぎて少し残念だけど、君たちと繋がっている音は永遠だから・・・。それでは皆、いい夢を・・・お相手は“ワーズ・ゲート”の細でした。」
収録が終わった瞬間、大きな音が耳に飛び込んできた。
それはスタジオにいた50人の心の声が一気に流れ込んできたからだ。
予定ではこの後、参加してくれた人達を見送る事になっていたけど・・・大丈夫だろうか。
それでも仕事を休むわけにも行かず、スタッフに言われるまま別室に移り、スタジオから出てくる数人ずつやって来る人と握手を交わして見送った。
「細くん、顔色悪いけど大丈夫?」
「大丈夫ですよ。」
「次のグループで最後だから・・・」
スタッフから渡された水を一口飲んで最後の数名を出迎える。
一人、また一人と俺の前を通り過ぎ、最後の一人となったその瞬間・・・あの葉書と同じ香りが僕を包み込んだ。
「こ、こんばんは、細さん。」
小さな声は微かに震えていて、握っている手は緊張しているのか冷たい。
「あの・・・これからも頑張って下さい。」
そう言って引きつった笑みを浮かべた彼女からは、やっぱり葉書と同じ甘い花の香り。
もう、微笑むことすら出来ないと思えるほど疲れていた身体が、嘘のように軽くなる。
そして自然と口元が緩み、自然とあの名を口にしていた。
「どうもありがとう、リリーベルさん。」
「・・・え?ど、どうして!?」
慌てて後ろに下がろうとした彼女の手をギュッと握ると、俺は顔を上げて笑顔で彼女を見つめた。
「ハガキと同じ香りがしましたから。」
「・・・気付いて、くれたんですか?」
「はい。いつも君のハガキが届くのを楽しみにしていました。実は、君のハガキは全部僕が持っているんです。」
「ええっっ!?」
目の前で表情をコロコロ変える彼女はもうハガキの中の“リリーベル”ではない。
現実にいる、一人の・・・女性。
「良かったら名前、教えてくれませんか?」
「、です。・・・。」
俺の心を掴んで離さない・・・強い声。
「・・・、いい名前ですね。」
ようやく見つけた・・・
俺の耳に届いた綺麗な鐘の音。
それはまるで小さな鈴蘭の花が揺れて奏でるような、優しい音色。
これからはラジオを通さずに君の声、想い・・・その全てを聴きたい。
だから、俺の・・・側に。
ドリームなのか!?と疑うような話(苦笑)しかも意味不明(TT)
細を幸せにしたくて、ラジオに送られてくるハガキから想いの音を感じ取って好きになってしまうと言う無茶苦茶な事をしてしまいました(笑)
そして公録はそのハガキの彼女と会わせるために無理矢理作ったもの!
リリーベルはすずらんの事で、彼女がハガキにつけていた香水はクリスチャンディオールのディオリッシモです。
すずらんの香り・・・らしいです(らしいって(苦笑))
見も知らない人に恋してしまった人は大変ですね・・・って話か!?
それよりも・・・細、偽者だーっ!しかも友情出演(?)の姫乃と颯が場所とりすぎた!
はぁ・・・今度は細と二人だけの話にしよう。絶対!
新白雪姫伝説プリーティア・・・音のナイツである細が好きですv何気なくアニメを見たんですが、声がいいんですよ!繊細な感じで優しく包み込むような!(ちなみに櫻井さんでした)原作もアニメもどっちも好きです。
アニメは細に号泣させられましたっ!可愛らしい絵で好きです♪
興味をもたれた方は・・・レンタルビデオ屋へレッツゴー(笑)