レンズの用意をしていると、遠慮がちな声が聞こえたので顔を上げた。
そこにいたのは今日の主役・・・英二の従妹のちゃん。

「あのぉ・・・」

「待たせてごめんね。用意が終わるまでもう少し待っててくれるかな。」

「はい。・・・で、具体的にどうすればいいんですか?」

「好きに動いて貰って構わないよ。僕が好きな時にシャッターを切るからね。」

「・・・好きに、と言われてもどうしていいか分からないんですけど。」

緊張した面持ちでしゃがみ込み、首を傾げて僕を見上げる姿はどこか小動物に似ている気がする。
出来ればそんな所もフィルムに収めたいな。
そう思いながら一旦カメラを置いて、不安げな彼女の方へ向き直る。

「もしかして、緊張してる?」

「・・・ちょっと。」

「いつも英二と一緒にいる時と同じだと思ってくれればいいよ。」

「そっ、それは無理ですよ!!」

真っ赤になって両手と首を同時に左右に振る彼女を見て、自然と笑みが零れる。

「どうして?」

「だ、だって英兄と不二先輩は違いますもん!!」



――― という事は、一応異性として意識はして貰っているって事かな。



何気なく彼女の口から出た台詞を考えながら、もう片方でどうやって彼女のいい表情を引き出そうかと考える自分がいる。



取り敢えず今は・・・最初の目的を果たそう。



わざと口調を明るくして、周囲を見渡しながら彼女に問いかける。

「ねぇちゃん。いつも英二と公園で何をして遊んでいるの?」

「英兄と?」

「うん。」

「ん〜・・・人数が多かったらフリスビーとかボールで遊んで、二人の時はよく探検したりしてます。」

「・・・探検?」

「はい!初めて来る公園って知らない花がいっぱいあるから、それを探すんです。」

「へぇ〜、楽しそうだね。」

「楽しいですよ!!それから、シロツメ草があったら英兄に花冠作ってあげるの!!」

一瞬脳裏にシロツメ草の花冠をかぶった英二が浮かんだけれど、案外違和感がなかった。

「シロツメ草って・・・あそこにある小さな白い花だよね?」

「うん!」

「じゃぁ今日は英二の代わりに僕に花冠作ってくれるかな。」

「え?」

「それにほら・・・あっちに綺麗な菜の花も咲いてるし、もしかしたら他に綺麗な花があるかもしれないよ?」

僕に指差されてようやく周囲に目をやった彼女は、菜の花がある方向を見た瞬間動きを止めた。

「僕はもう暫くカメラの準備をしてるから、あの辺を探検して時間を潰しててくれるかな。」

「・・・はいっ!!」

ちゃんの興味を引く物があったのか、彼女は立ち上がるとなだらかな坂を駆け下り・・・躓いた。

「ふふっ、ちゃんは本当に可愛いね。」

英二の従妹、というだけあって動きが機敏で表情がコロコロ変わる。
小さな体で精一杯感情を表し、英二に対しては絶対の信頼を寄せている。
そんな一途さを秘めた眼差しの中に、時折キラリと光る何かがある。

「・・・出来ればそれを、撮りたいな。」

とっくに準備の出来ているカメラを持って、菜の花を眺めているちゃんにピントを合わせる。

「やっぱり、自然な笑顔がいいね。」

カメラの前で無理に作られた笑顔なんて似合わない。
だから、スタジオや街中の人目のある場所じゃなく、英二から聞いた彼女が好きそうな場所・・・公園を選んだ。
それもまだ一度も来た事がない場所を。



菜の花を眺め、微笑む彼女。
その横に生えている名もない花を真剣に見つめている彼女。
目の前を横切った蝶に驚いて、一瞬体を硬直させる彼女。
どんな姿をフレームに納めても、自然と手がシャッターを切ってしまう。



「凄いな。こんな風にシャッターチャンスを逃したくないって思える被写体、初めてだよ。」

やがて僕がカメラを構えているのに気づいたのか、ちゃんが大きく手を振って僕の方へ戻ってきた。

「不二先輩、用意出来たんですか?」

「うん、待たせてゴメンね。」

実はさっきから撮ってたんだけど、そういうと君はまた驚いた顔になっちゃうから・・・内緒にしておくね。

「菜の花、凄く綺麗でしたよ!それにその裏にパンジーの花もいっぱい咲いてたんです!」

「へぇ、じゃぁ僕もあとで見に行こうかな。」

「今じゃダメなんですか?」

「うん、今はちゃんの花冠作りの写真撮りたいんだ。ちょうど太陽も出てきたし・・・」

上を見れば、ついさっきまで影を潜めていた太陽が雲間から顔を覗かせていた。

「本当だ・・・」

「じゃぁ、お願いしてもいいかな、ちゃん。」

「はい、分かりました。一生懸命花冠作りますね!」

「うん、よろしく。」

大分緊張が解けたみたいだ。
普段、英二に向ける笑顔とはちょっと違うけれど、彼女らしさが溢れている。
シロツメ草が群生している場所にふわりとスカートを翻して座り、一輪ずつ丁寧に取っては茎の部分を絡めて編んでいく。

「へぇ、そうやって作るんだ。」

「はい。昔は下手だったんですけど、最近ようやく綺麗に作れるようになりました。」

「やっぱり慣れってあるのかな?」

「ある、と思います。」

そんな風に何気ない会話をしながら、僕はレンズ越しに彼女の姿をフィルムに収める。
何枚も、何枚も・・・










「はい!出来上がりです!!」

満足気に出来上がったシロツメ草の花冠を僕の前に差し出した彼女を僕はじっと見つめる。

「・・・あれ?カメラいいんですか?」

「うん、今はいいんだ。」

「?」

「ね、その花冠頭に乗せてくれる?」

「あ、はい!」

戸惑いながらも膝立ちのまま僕の前にやってきて、そっと頭の上に花冠を乗せてくれた。

「・・・どうもありがとう、ちゃん。」

「いいえ、私こそ素敵な公園に連れてきてくれてありがとうございました。」





そう言って笑う彼女の姿を、僕は自分の目に焼き付ける。
レンズ越しじゃなく、フィルムの中でもない。

今、目の前で微笑む彼女を・・・僕のアルバムにだけ、閉じ込めたい。





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えーっと、意外だと思ってる人が何人いるでしょうね?(笑)
普段お庭に笑いの種・・・げほごほ・・・その身を持って話題を振りまいてくれるうっかりさんへ捧ぐテニプリ夢1です。
これを思いついたのは、不二くんのアルバムを某Yさんから借りたからです。
頭に残っている歌は「MY TIME」なんですが、話の内容を思いつかせたのは「シャッターチャンスは一度だけ」のシャッターチャンスという単語です(笑)
白の中にも微妙に黒が入っていて、個人的には気に入っている話です。
あ、ちなみに私のテニプリ知識は・・・殆どありません!氷帝ぐらいで止まってます。
その他情報はファンブックで必要分だけチラチラ見てるくらいですので、イメージ違ったらごめんなさいっ!!