「英兄遅いなぁ〜・・・」

寒々しい空を見上げながら、1人の少女が昇降口に立っていた。
まだ新しい制服が新入生だという事を示している。

「・・・、か。」

不意に名前を呼ばれて振り返ると、そこにいたのは青学の部長・・・手塚だった。

「手塚部長・・・お、お疲れ様です!!」

まだマネージャーとして日が浅いは深々と頭を下げ、ゆっくり顔を上げた。

「今は部活動の時間じゃない。そんなに固くなる事はない。」

「は、はい。」

とは言え、一年生から見れば三年生はかなり落ち着いて見える。
しかも青学テニス部の部長といえば、誰もが知っている人物だ。
緊張するな、というのも無理な話である。
取り敢えず挨拶を済ませたは、チラリと下駄箱の方を振り返って目的の人物の姿がないのを確認すると再び空を見上げ始めた。

「・・・」

「・・・」

「・・・あの、手塚部長?」

「何だ。」

「帰らないんですか?」

「君こそ帰らないのか?」

質問したつもりが逆に質問されて、一瞬躊躇したが別に隠す事でもないので素直に口を開く。

「英兄・・・じゃなくて、英・・・二先輩を待ってるんです。」

「菊丸を?」

「はい。」

「・・・おかしいな。」

「え?」

「確か菊丸は今日、補習でまだ暫く学校に残っているはずだ。」

「えぇ!?」

驚きのあまり持っていたカバンを落としてしまい、慌てて拾う。

「そっそっ・・・それ、本当ですか!?」

「あぁ。」

「・・・ど、どうしよぅ。」

しょんぼりと肩を落としてしまったを見て、手塚が気遣って声をかける。

「何か用事でもあったのか?」

「いえ、用事って程でもないんですけど・・・駅前の本屋さんに入荷してる本を取ってくるようお父さんに頼まれたんですが、傘を・・・」

「傘?」

見れば自分達の横を通り過ぎる生徒は皆傘を広げているが、はカバンを持っているだけだ。

「・・・忘れた、のか。」

「はい。だから英兄の傘に入れて貰おうと思って待ってたんです。」

「菊丸はその事を知っているのか。」

「いいえ!あたしが勝手に待ってるだけなので、英兄は知りません。」

ブンブンと首を振る姿を見て、手塚が持っていた傘を広げに声をかけた。

「よければ駅まで送ろう。」

「・・・え?」

「俺も本屋に用がある。」

「部長・・・」

「それともここで菊丸を待つか?」

そう言われて一瞬後ろを振り向くが、手塚のいう事が本当ならまだ暫くはかかるだろう。
はぎゅっと拳を握り締めて決意を固めると、手塚の制服の袖を掴んだ。

「ほ、本屋までご一緒させて下さい!!」















「それで全部か。」

「は・・・はい。」

「随分重そうだが、大丈夫か。」

「・・・はい。」

一応頷いてはいるが、どう見てもの細い腕ではこれらの本を持って帰る事は不可能だろう。
店の店員も一応持ちやすいようにしてくれてはいるが、見ている方が不安でしょうがない。
手塚は自分の持っていた本をカバンの中に押し込むと、が両手で抱えていた本の入った袋をひとつ小脇に抱えた。

「部長!?」

「危なっかしくて見てられん。」

「・・・すみません。じゃぁそれを抱えて、こっちの小さい本を手に持ちますから貸して下さい。」

そう言って荷物を持ち替えて手を差し出したを見て、手塚が僅かに表情を緩めた。

「君の家は確か菊丸の家の側だったな。」

「は、はい?そうですけど・・・」

突然の質問の意図が分からなくて、思わず首を傾げるの空いた手に店先に置いておいた傘を渡す。

「雨も上がったようだし、家まで送ろう。」

「えー!?」

「何か問題でもあるのか。」

「も、問題っていうか、その・・・部長にそこまでして貰っちゃ申し訳ないです!!」

の声を背に受けながら、先に店を出て歩いていく手塚の後をが小走りで追いかける。
やがて店の入口から離れた場所で立ち止まると、手塚はの方を向いてこう言った。

「いつもコートで俺達部員を支えてくれるマネージャーを助けるのは当然だ。」

「手塚部長・・・」

「だから、あまり気にするな。」

「でも・・・」

未だに遠慮するを見て、手塚が僅かに声色を下げる。



「はっはい!!」

コートの中で呼ばれたように姿勢を正し、顔を上げたの前にあったのは・・・意外にも僅かに頬を染めて視線を逸らす手塚の姿だった。

「・・・」

「学校を出れば部長も何もない。その・・・俺が、君を家まで送ると言うのは迷惑・・・か。」

「・・・め、迷惑なんて!!」

「そうか・・・では、帰ろう。」

「はい。」

に背を向けて再び歩き出した手塚の耳が、僅かに赤くなっているのに気づいたが笑顔で手塚の後を追う。

「部長!」

「何だ。」

「家についたら、お茶ご馳走させて下さい!」

「いや、俺は・・・」

「家まで本を運ぶの手伝って貰って、お礼をしなかったらあたしが怒られます!」

「・・・誰も怒りはしないだろう。」

「お母さんに怒られます!」

僅かに息を切らしながら早足で横に並んだを見て、手塚が一瞬足を止めた。
その隙に前に回りこむと、これでどうだ!とでも言わんばかりに、が必殺の一言を口にした。

「梅昆布茶入れますっ!!」

一瞬シンと静まり返った雨上がりの空に、の声が響く。
手塚が僅かに肩を震わし、頬を緩め・・・小さく頷くのを確認すると、二人は並んで歩き出した。



雨上がりの空が、二人の行く先を明るく照らす・・・そんな放課後





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えーっと、意外だと思ってる人が何人いるでしょうね?(笑)
普段お庭に笑いの種・・・げほごほ・・・その身を持って話題を振りまいてくれるうっかりさんへ捧ぐテニプリ夢2です。
確かこれは不二くん夢をRさんへ見せて「これ不二くんになってる?」と聞いた所「手塚は!?」と言われて頑張った結果がこうなったんだと思います。
甘みが足りなくてごめんね?だって相手があの部長なんだもん!!
しかも相手が英二の従妹でしょ?後輩でしょ?マネージャーでしょ?
それならあの部長はこれが精一杯でしょう!(それは私の思い込み?(汗))
あ、ちなみに私のテニプリ知識は・・・殆どありません!氷帝ぐらいで止まってます。
その他情報はファンブックで必要分だけチラチラ見てるくらいですので、イメージ違ったらごめんなさいっ!!