「あっ・・・」
「どうしたの?」
「ん・・・ちょっとね。」
家の近所の桜並木を母と一緒に歩きながら、ふと舞い散る桜の中ある人達を思い出した。
幼いあの日、桜の木の下で出会った・・・優しい笑顔のあの人達を・・・。
「うわぁっ!ごめんなさい、ごめんなさい!」
よそ見をしていてぶつかったのはあたしなのに、帽子を被ったその人は尻餅をついて転んだままのあたしに手を差し出しながらずっと頭を下げてる。
「昴流〜?何してるの?」
声のする方を振り返ろうとしたら、誰かが座り込んでいたあたしの体をひょいっと持ち上げて起こしてくれた。
「大丈夫ですか?」
桜を背に笑っていたのは眼鏡をかけたおっきなお兄ちゃん。
「本当にごめんね!」
「なぁに?もー昴流ってばまたよそ見してたんでしょ?」
あれ?この人達・・・同じ顔?じっと顔を見比べている間に、帽子を被ってないお姉ちゃんがあたしのスカートについた桜や砂埃を掃ってくれていた。
「あ、あたしが桜に見とれちゃって・・・ぶつかって・・・本当にごめんなさいお姉ちゃん!」
思いっきり帽子を被ったお姉ちゃんに頭を下げたら、大きな笑い声が聞こえた。
「あはははっ!昴流はこれでも男の子なのよvお姉ちゃんはあ・た・し。」
がっくり肩を落としている帽子を被った人と同じ顔をした人が、けらけら笑いながらそう言った。
え?じゃぁこの人は男の子!?
「・・・見えない。」
「昴流くんはとっても可愛らしいですからねぇ。」
「星史郎さんまで、止めてくださいよ!」
真っ赤な顔をして地面に落ちていたあたしのカバンを拾ってゴミを落とすと、私に手渡してくれた。
「はい、カバン。大丈夫?怪我とかしてない?」
「あたしこそお兄ちゃんの事お姉ちゃんと間違えちゃって・・・ごめんなさい。」
「いいんだよ。よく、あることだし・・・」
「でもごめんなさい!」
お互いにぺこぺこ頭を下げあってたら、今までそれを見ていたお姉ちゃんがあたし達の肩を思いっきり叩いた。
突然の衝撃に思わず口を開けたままお姉ちゃんを見つめた。
「はい!そこまでぇー!そんなにぺこぺこ頭下げ続けたら脳みそが液体になっちゃうわ!脳みそが溶けちゃってもいいの?」
「北都ちゃん!!そんな嘘言っちゃ・・・」
「頭を下げるのはコメツキバッタだけで十分、ねぇ貴女これから何処行くの?」
ずいっと顔を覗きこまれて思わず一歩下がりそうになった。
色々気になる事はあるけど、あたしはちらりと街路樹の先に見える白い建物を指差した。
「えっとこの先の病院に入院してるママの所・・・お見舞いに・・・」
「・・・そっか。よし、じゃぁ一緒にそこまで行こう!星ちゃん、この子を肩車!」
「了解しました。」
あたしが何か言うより先に、さっきあたしを抱き起こしてくれた大きなお兄ちゃんがあたしを肩に乗せてゆっくり歩き出した。
「きゃぁっ!!」
「さぁ病院まで皆でレッツゴー!!」
「北都ちゃん、そんな人様をイキナリ・・・」
「あっ、昴流!お姉さまにあそこのお団子を買って来なさい。」
何か言おうとしたお兄ちゃんにお姉ちゃんは道端で売っているお団子を指差した。
「あたしとー星ちゃんとーこの子とー昴流で合計10本ねv」
「10本!?」
「分かったら急ぎなさ〜い!」
「はっはーい!!」
慌てて駆け出していくお兄ちゃんにお姉ちゃんも大きなお兄ちゃんも笑顔で手を振ってる。
あたしは肩車されたままそれをじっと見ていた。
「10本ですか・・・ちょっと多くありませんか?」
「そんな事ないわよvあたしお団子大好きだから♪」
「・・・北都ちゃん、先程いっぱいランチを召し上がりませんでしたか?」
「あら?乙女のデザートは入る所が別なのよvね?」
ね・・・って言ってあたしの顔を覗きこんだお姉ちゃんの目はとっても大きくてキラキラしてた。
思わず小さく頷くとお姉ちゃんはあたしの手を握りながらお名前を教えてくれた。
「さて・・・可愛いお友達に自己紹介。あたしの名前は皇北都、北都ちゃんって呼んでね?で、今お団子買いに行ったのがあたしの双子の弟、昴流。こっちも昴流ちゃんでいいわよv」
「僕は桜塚星史郎といいます。動物病院の先生をやっています。」
「あっあたし、・・・です。」
「・・・ちゃん、そこからの景色はどう?」
「え?」
「さっきまで見上げるだけだった桜がすぐ側にあるでしょ?どう?嬉しい?」
お姉ちゃんに言われて今まで下しか見ていなかったから気付かなかったけど、あたしが手を伸ばせばすぐそこに・・・桜があった。
「キレイ・・・」
「いいなぁ〜あたしも小さければよかった。」
「僕で宜しければ北都ちゃんも肩車しましょうか?」
「んー止めとくわ、昴流に怒られちゃうもん。」
「僕が怒るわけ無いだろ、北都ちゃん!!」
お兄ちゃん両手にお団子の乗ったお皿を持って戻ってきた。
あたしは星ちゃんと呼ばれたお兄ちゃんの肩から降りると目の前にお団子を差し出された。
「はい、これ。」
「でも知らない人から貰っちゃダメって・・・ママが・・・」
「あら、知らない人じゃないわよ?」
「え?」
お姉ちゃんが指をちっちっちと言って横に振ってからにっこり笑った。
「さっきちゃんと自己紹介したでしょ?だからもうあたし達お友達よv」
「お友・・・達?」
「みたらし団子としょうゆ、どちらがお好きですか?」
おっきなお兄ちゃんが二つのお団子を差し出してくれて、あたしは躊躇いながらもみたらし団子を指差した。
ぎゅっとお団子の串を握り締めて食べる前にお礼を言った。
「ありがとう、お兄ちゃん、お姉ちゃん。」
「北都ちゃん、星ちゃん!で、こっちは昴流ちゃん!」
「す、昴流ちゃんって北都ちゃん!?」
慌てるお兄ちゃんを無視して、お姉ちゃんはすっごく真面目な顔をしてる。
何だかおかしくなって声を上げて笑った。
ママが入院してから・・・初めて笑った気がする。
改めてお姉ちゃんとお兄ちゃんの方を向いてしっかり名前を呼びながら御礼を言った。
「ありがとう北都ちゃん、ありがとう星ちゃん・・・ありがとう、昴流ちゃん。」
「うーんvやっぱり女の子は可愛いわねv星ちゃん!最初の子は女の子にして頂戴!」
「善処します。」
「星史郎さん!!」
「昴流?アンタ細いんだからしっかり食べていい子を産むのよ?」
「僕が無理させないから大丈夫ですよ。」
「二人とも!ちゃんがビックリしちゃうよ!!」
「昴流ちゃん・・・やっぱり女の子なの?」
真剣に聞いたつもりだったのに、北都ちゃんと星ちゃんは口元を押さえて笑ってるし、昴流ちゃんは顔を真っ赤にして一生懸命何か言おうとしてる。
それからお団子を皆で食べながら桜並木の端っこまでだったはずなのに、病院の入り口まで一緒に来てくれた。
星ちゃんと昴流ちゃんに手を繋いでもらって歩いてたら、北都ちゃんが「新婚みたいね」って昴流ちゃんに言ったらまた昴流ちゃんは顔を真っ赤にして困ってた。
あれから何度もそこを通ったけど、あの日以来お友達には会えていない。
「またあのお友達を思い出していたの?」
「・・・うん。皆元気なのかなって・・・」
またいつか会えるかな・・・
そんな事を思いながら私は母さんと一緒に桜並木を通り抜けた。
あの頃は高くて届かなかった枝にも手が届く。
・・・きっと彼らは今でもどこかで楽しく過ごしてるんだろうと思いながら・・・
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ふと思いついて書くことの多い私、そしてジャンルは無節操(苦笑)
これはケーブルで放送していた「X」を見ていて思いつきました。
皇VS桜塚護の戦いを見た後、ぼろぼろ泣きながら「幸せな3人のシーン」が書きたくて書きたくて、この中(桜色の風景)だけでも幸せな3人がいてくれれば・・・そう思って書きました。
星史郎さん!と真っ赤になりながら戸惑う昴流。
それをからかいながら星ちゃんをけしかける北都ちゃん。
笑顔で北都ちゃん、昴流くん・・・と語りかける、星史郎さんこと星ちゃん。
・・・全てが今はないもの。でも今この時だけは幸せな彼らの時間。
全っ然ドリームじゃなくてごめんなさい!でも・・・彼らの雰囲気が伝われば嬉しいです。
東京BABYLON・・・私はこの作品は高校時代、人に借りて読んだんですけど今は文庫で持ってます。
皇北都こと北都ちゃんが大好きです。CLAMP作品で好きなキャラはいっぱいいますが、女性キャラのダントツ1位は北都ちゃんです!
彼女の強さ、優しさ、考え・・・全てに惹かれ、憧れました。上手く言えませんが彼女が大好きです!
最終的に彼女は帰らぬ人となってしまいましたが、せめてこの『桜色の風景』の中だけでも精一杯生きていて欲しい・・・なんて事を思ってしまいました。
幸せ空気な作品ですが、個人的にはちょっとしんみりしてしまいます(苦笑)