「なぁリナ。あそこにいるのゼロスじゃないか?」
「えっ?あ、本当だ!ゼロスー!」
両手に食べ物を抱えつつ目的の人物に向かって走る。
するとその人物はこちらを確認した瞬間気まずそうに視線を逸らし、人ごみに姿を隠してしまった。
「なーにあれ!ゼロスの分際で許せない!!」
「見えなかったんじゃないのか?」
ばきっという音の後に頭を抱えたガウリィの姿があった。
「アイツは大事なトコでは姿を消すけど、何にも無い余計なトコではすーぐ首突っ込むのよ!そのアイツがアタシを見て逃げるなんて…ドラグスレイブものよね(怒)」
リナの怒りはゼロスに向いている様思われるが、実際機嫌が悪いのは先程買った名物の食べ物が予想外に不味かった事が原因のひとつと思われる。
要するにゼロスは八つ当たりの的にされてしまったのだ。
追いつく事は不可能に思われたが、ゼロスは町外れの茶屋にてあっさりと見つかった。
肩で息するリナ達とは裏腹にゼロスはお茶を飲みながらリナに向けてにこやかに手を振った。
「お久しぶりです。リナさん♪」
「ゼ〜ロォ〜ス〜」
「おや?どうしたんですか?息が乱れてますよ?」
リナの神経が何本か切れる音が聞こえた。(ガウリィ談)
「アンタのせいに決まってんでしょうが!!」
「まぁまぁ落ちつけよリナ。ゼロスもわざとやってるわけじゃないんだし…」
「そうですよ。むやみにリナさんを怒らせるような危険な事、僕がするわけないじゃないですか。」
いつもと何ら変わらないその笑顔。
リナは大きく溜息をついてゼロスの目の前にあった団子の皿を抱えて横に座った。
「で?何でここにいるの?」
「待ち合わせをしてるんですv」
「誰とだ?」
ゼロスは人差し指を立てて口元へ持っていくと、お決まりの台詞を口にした。
「それは秘密です♪」
「かー!やっぱりコイツいっぺん死なす!!」
そんな3人の騒ぎを何処からか聞きつけたのか、アメリアとゼルガディスがやってきた。
「リナさん何騒いでるんですか?近所迷惑ですよ。」
「…またコイツか。」
「お…お久しぶりです。」
リナに首をしめられながらゼロスは片手を上げてアメリア達に挨拶をした。
周囲の人間達がその様子を遠巻きに見ていると、一人の少女が輪の中へと飛びこんできた。
「ゼロス!ここに居たの?」
少女はゼロスの姿を見ると親しげに声をかけた。
ゼロスは今までと表情を一変させ、満面の笑みでその少女を出迎えた。
「すみません。人垣で分かり辛かったでしょう。」
ゼロスがリナを放り投げその少女の前へと歩いて行った。
「誰ですか?」
「さぁ。」
「見ない顔だな…。」
少女はゼロスと二言三言話すとリナ達の方へ視線を向けにっこり微笑んだ。
笑顔が印象に残る可憐な少女だった。
しかし笑顔の少女が目にしたのは青筋を立てて何やら呟いている妖しい目をしたリナだった。
いち早くその異変に気付いたアメリアとゼルガディスが慌ててリナの口を押さえる。
「何考えてるんですかリナさん!?こんな所でドラグスレイブなんて!!」
「時と場所を考えろ!」
「ゼロスの分際であたしを投げ飛ばすとはイイ度胸じゃないの!!ぜ〜ったい許さないんだからぁー!!」
リナの言葉を聞いた少女が険しい表情でゼロスを見つめた。
「ゼロス!女の人を投げたりしちゃダメでしょ!謝って!」
「…ですが向こうも…」
「謝るの!」
少女の厳しい口調に、あのゼロスが肩を落としリナに向かって頭を下げた。
「すみませんでした。」
ひゅ〜っと寒風が辺りを駆け抜け、その後には慌てふためくリナ達がいた。
「ゼロスさん!熱あるんじゃありませんか!」
「なんか悪いもん食ったか?」
「魔族も病気にかかるのか!?」
「アンタどうしたの!?」
アメリアに熱を測られリナに首元を締め上げられたまま、ゼロスは営業スマイルと言うに相応しい笑顔をリナ達に向けた。
「僕、魔族休業中なんです♪」
「「「「はっ?」」」」
口が塞がらないリナ達に構わずゼロスはしゃべり続ける。
「有休が余っていたので暫らくこっちに居ようかなぁ…って、そう言う訳で皆さんの邪魔はしませんので僕の邪魔もしないで下さいね♪」
そう言うと固まったリナ達をその場に残し、ゼロスは先程迎えに来た少女とともにその場を後にした。
「お待たせしました。さ、行きましょうか?」
少女の持っていた籠を受け取り空いた手で少女の手を握る。
握り返される人の温もりにゼロスは一種の安らぎを覚えた。
「さっきの人達はゼロスのお友達?」
少女は大きな目をゼロスへ向け首を傾げる。
「お友達と言うよりはどちらかと言うと腐れ縁…ってトコですかね。」
「それなら家に来てもらえば良かったのに…ゆっくりお話したいでしょ?」
少女が歩みを止め、今来た道を戻ろうと踵を返した。
ゼロスはゆっくりと手を伸ばし少女の進行を妨げる。
「ゼロス?」
少女が進行を妨げられた手を掴みゼロスの方を見ると、アメジストの瞳が少女の瞳をじっと見つめていた。
「いいんですよ、あの人達とはいつでも話せます。僕にとってはと過ごす時間の方が大切なんですから。」
頬を桃色に染めた少女は暫らくした後、ゼロスの腕に自分の腕を絡めにっこり笑った。
二人は寄り添い、再び家路へと向かった。
少女の名は。
なんて事は無いただの娘で町外れの家に一人で住んでいる人間。
こんなに人間に心惹かれるとは思わなかった。
短い生涯を足掻く様に生き続ける人間に…。
初めて出会った時、は盲目だった。
崖から足を踏み外し、転落しそうになったを通りがかりに助けた。
それからもが危ない目にあっている所に遭遇することが多く、条件反射とでも言うように手を貸してしまった。
手を貸す度、少し照れたように笑うが忘れられなくて・・・用も無いのにの家の周辺をうろつく回数が増えた。
それをに気付かれてしまったが、そんな僕をは怪しみもせずいつも笑顔で迎えてくれた。
迎え入れている者が魔族だとも知らずに…。
僕が魔族だと知ったら・・・はどんな反応を示すだろうか。
驚愕するだろうか、それとも恐怖に怯えるだろうか・・・少なくとも笑顔で迎え入れられる事はないだろう・・・。
気がつくと何時もの事を考えている。
今何をしているのか。
出かけているのだろうか。
怪我をしてはいないだろうか。
・・・少しは僕が来る事を期待しているだろうか・・・?
そんな馬鹿な事を考えている自分に苛立ち、暫らく人間界へ行くのを止めた。
空に雪が舞い始めた頃、上司の使いで久し振りに人間界へ向かった。
用事が済んだ後、足は自然との家に向かっていた。
その足取りは妙に軽い。
自分でも信じられないくらい、心が弾んでいた。
しかしいくら外で待っていても、は一歩も家から出てこなかった。
妙な胸騒ぎを感じて窓から家の中を覗くと・・・が床に倒れていた。
慌てて家に飛び込むと床に倒れていたを抱き上げ寝室へ運んだ。
常備されている薬草を煎じて飲ませたが、の熱は一向に下がる気配を見せない。
自分の魔力を使えばこれくらいの熱を下げる事など造作もない・・・だがその代わり人間であるの体にどんな影響が現れるのか・・・それが分からなかった。
・・・それでもこの人間を、この女性を助けたかった。
彼女の為ではなく・・・自分の為に・・・。
そして今のがいる。
魔力の影響は良い方向へ働き、盲目だった目は光を取り戻し初めて見たの瞳の色は、空の青と同じ位澄んだ色をしていた。
その瞳は魔族である僕を見ても何も変わらず、以前にも増して眩しい笑顔を僕に向けてくれた。
だから僕は彼女の側にいる。
「さぁ早く帰りましょう。今日はパンを焼いてくれるんですよね?」
「うん、ゼロス焼き立てのパン食べた事無いんでしょ?ぜーったいに美味しいから!」
得意げに微笑むがとても愛しい。
「の作る物は全部美味しいです。」
そう言うとは照れた様に笑う。
その笑顔をいつまでも見ていたい…そう、いつまでも…。
町外れの茶屋でリナ達は遠い目をしながら団子を口に運んでいた。
「なぁリナ。魔族ってやめられるのか?」
「そんな事あるか!このクラゲ!」
リナがガウリイの脳天を側にある棒で叩く。
アメリアはお茶をすすり、その横でゼルガディスが神妙な顔つきで腕を組んでいた。
「ゼロスさん…有休ってあるんですね。」
「魔族の給料…か…」
「二人とも真面目に考えるなぁ!!」
その背後ではせっせと団子を作る老夫婦がいたとかいないとか…。
駄文…。
なんでこんな事思い付いてしまったんだ!?しかも相手がゼロス…。
これは石田さんの影響だろうけど、ゼロスが人間に興味を持つ話を書きたくて書いた話です。
正しくは石田さんが歌っている歌の影響と言うのが正しい。
歌詞を見てたらこんな話ができちゃいました♪(にっこり)
最終的にヒロインはゼロスの魔力が原因で死んでしまうのです。
(多分書かないけど…というか、書けないが正しい(汗))
私はスレイヤーズ・・・アニメしか知らないんですよね。
知っている人から見ると小説とアニメではかなりキャラの性格が違うとか・・・。
ドタバタなアニメを見るのは大好きなので、楽しく笑ってみていた記憶があります。
ゼロスのやる事なす事笑ってた気が・・・いや、と言うか・・・おいおいって突っ込みいれてた記憶が・・・。
ちなみに魔族の給与体系については良く分かりません。
ただ、記憶の片隅にゼロスが中間管理職・・・と言っていた記憶があって
それならば有給があってもよかろう、そう思っただけですので・・・(ご都合主義なんです)