「・・・?」
久し振りに人間界へやってきたので、仕事をすぐに片付けて町外れに住んでいるの家へ来たんですが。
「留守、でしょうか。」
何度扉を叩いても返答がないので、また以前のように倒れてるんじゃないかと思い慌てて窓から家の中を覗きこむ。
「・・・さすがにそれはないですね。」
ホッと胸を撫で下ろし、もう一度正面に回って扉に寄り掛かろうとするとあろう事かその扉は僕の体重を受けて静かに開いてしまった。
「・・・。」
頭を抱えながらポツリと愛しい人の名を呟く。
どうして貴女はこう・・・いや、何を言っても無駄ですよね。
貴女の中に『警戒心』なんて言葉ないんですもんね。
――――― 魔族である僕を家に招き入れるほどのお人良しですから・・・。
「それじゃぁ、彼女が帰るまでのお留守番と言う事で、お邪魔してましょうかね。」
足を進めて家に入るとそんなに長い間留守にしたワケではないのに、妙に懐かしい気分になる。
取り敢えず僕の席とされているソファーに座ってキョロキョロ周りを見ていると、流しに使用済みの皿が詰まれているのが目に入った。
「あーあ・・・また溜め込んで・・・きっとキルト作りに夢中になっちゃったんですね。」
最近の彼女のお気に入りはキルト作り。
小さな一枚の布キレを器用に縫い合わせていく事で色々な物を作り出す。
ついこの間も僕専用の布団カバーを作るんだってそのデザインに付き合わされましたっけ?
「は一度凝り出すと大変ですから・・・」
誰に言うでもなくそう言うと、僕は手にしていた杖を流しに向けて・・・その手を下ろし、右手の小指に目をやった。
「・・・はいはい、分かりました。」
苦笑しながら手に持っていた杖をソファーに置いて、僕は洋服の袖をまくると流しの前に立った。
以前来た時にと一つの約束をした。
それは・・・むやみに魔力を使わない事。
「普段からそんなに魔力を使ってていざって時使えなかったら困るでしょ?」
「使えなくなるなんて事ありませんよ。」
「でも!万が一って事もあるでしょ?」
「・・・さぁそれはどうでしょう。」
使えなくなるのは僕自身が使いすぎると言うよりは、その場に問題がある事が多いんですけどね。
アメリアさんの実家、セイルーンがそのいい例です。
「ゼロスに何かあった時に魔力が使えないのは・・・嫌なの。」
「え?」
ポツリと呟いたの言葉を思わず聞き返す。
「ゼロスに何かあった時、魔力が使えないのは・・・嫌。」
「・・・」
「だから約束!せめて家にいる間だけは魔力を使わないって約束して!」
真剣な眼差しで右手の小指を差し出す貴女は・・・どうしてそんなに愛らしいんでしょうね。
今すぐ抱きしめたい衝動に駆られながらも、今は彼女が望むように僕も右手の小指を差し出した。
「・・・分かりました。非常事態以外ここでは魔力を使わないとに約束します。」
「本当!?」
「はい。」
指切りをしながら何度も何度も確認するに僕も何度も頷きましたっけ。
貴女はあの時非常事態について何も聞かなかったから言いませんでしたけど、もしに何かあれば僕は容赦なく魔力を使いますよ。
そんな事を思い出しながら皿洗いをしていたら、ツルリと手が滑って・・・皿が一枚流しに落ちた。
「あー・・・やっぱり僕、肉体労働には向いてませんねぇ・・・」
目の前には綺麗に割れてしまった大皿が一枚。
それに当たったのか縁が欠けてしまった硝子のコップが二つ。
そして流しの中に飛び散った硝子の破片。
「・・・人間って本当に、大変ですね。」
はぁぁっと大きなため息をつきながら、綺麗に割れてしまった大皿を手に首を捻っていると扉が開く音がして反射的に振り返る。
「ただい・・・ゼロス!来てたの?」
「お邪魔してます。」
満面の笑みを浮かべて手に持っていたカゴを机に置いて駆け寄ろうとするへたった今割れたばかりの皿を差し出す。
「・・・お皿?」
「帰った早々なんですけど・・・やっちゃいました、これ。」
手に持っていた皿以外にも流しに散乱した硝子の破片を見ての顔が若干ゆがむ。
もしかして・・・お気に入りだったとか!?
「えっと・・・?」
「怪我はない?」
「はい?」
「手とか切ってない?」
「えっ・・・えぇまぁ・・・」
怪我した所であっという間に治せますから、僕の場合。
でもは自分で確認しないと気がすまないようで、手に持っていた皿を側にあった袋へ放り込むと僕の手を隅から隅まで眺めてようやくホッと息をついた。
「うん!怪我はないね。」
「だからそう言ってるじゃないですか、疑い深いですねぇ・・・」
「心配してるだけです!じゃぁそこ片付けるから座って待っててね。」
「はいはい。」
はぁ・・・結局の役には立てませんでしたね。
気付かれないようため息をついてソファーの置いた杖を手に持ってじっと見つめる。
中々・・・上手くいかないものですね、色々と。
思うように行かない事がこんなにはがゆい物だと思わなかった。
ひとつひとつを地道にこなす事がこんなに大変だとは・・・。
そんな風に自責の念なんてらしくもない事を思っている僕の前に、温かそうな飲み物が置かれて顔を上げた。
「洗い物、ありがとう。」
「・・・割っちゃいましたけどね。」
「あのお皿古かったから、全然気にしないで。」
そう言って僕の隣に腰を下ろして持っていた飲み物を口にする。
「それに、ゼロスに怪我がなかったから・・・いいの。」
「・・・そう、ですか。」
苦笑しながらが入れてくれた飲み物に手を伸ばす。
見慣れない柄のカップを思わず目の高さで回してしまった。
「新しいカップ買ったんですか?」
「うん。それゼロスの。」
「・・・僕の!?」
突然の申し出に危うくカップを落としかけて、慌てて机に戻しての方を向く。
「ほら夏用のグラスはこの間お揃いの買ったでしょ?だから、これは冬用のカップ。」
「・・・」
「あと・・・約束を守ってくれたから。」
「約・・・束?」
「・・・お皿、魔力使わないで洗ってくれたんでしょ?それに割れたお皿、素直に言ってくれて凄く嬉しかった。」
「・・・」
「私、ゼロスのそう言う所大好き。」
そう言って照れたように笑いながら持っているココアを飲む彼女の肩にそっと手を置いて抱きしめる。
「ちょっゼロス!?こぼれちゃうっ!」
「どうしてこんなに可愛いんでしょうね、は。」
貴女の言う事なら何でも聞いてしまいたくなる。
貴女のする事なら何でも許してしまいたくなる。
貴女の望みなら・・・何を犠牲にしても叶えたくなる。
「僕もが好きですよ。」
「・・・うん!」
カップを机に置いたを思う存分抱きしめて、その後は二人だけの甘い時間。
はぁ・・・もう少し長い休み、欲しいものですねぇ。
100のお題からこっそり移行させましたが、コメントは殆ど弄ってません。
恐らくキャラレスの影響でしょう。
突然頭の中にゼロスが現れて魔力を使わず何かをすると言うネタがでてきました。
何をするか・・・と言うので候補に上がったのが、洗濯物を取り込む(風に煽られて地面に落ちる)か
洗い物をする(手が滑って皿を割る)でした。
つまりどっちでも失敗すると言う事。
魔力を使えば失敗はないけれど、ヒロインと約束したから使わない・・・それが嬉しくてヒロインが褒めるって言うネタ。
・・・ベタだ、物凄く。
でも・・・ほらっ!たまにはこんな風に素直な!?ゼロスも宜しいのでは?(ちょっと逃げ腰(笑))