「…これは一体何事?」
「あ、プリンセス!プリンセスからも言って下さい!!」
「いやぁっ!次はあたしの番でしょ!」
「…邪魔したわね」
「邪魔じゃありません!とにかく、プリンセスからも言って下さい!」
ベッドに座っているの膝に頭を乗せて、ラブラブ膝枕状態…幸せそうで、良かったわね。
…なんてことを言うよりも、必死で立ち上がろうとしているの膝を抱え込んで立ち上がれないようにしている男なんて、そのまま頭部を殴って殺ってしまえって言って欲しいってことよね。
――― 寧ろ、叫んでしまいたい…
「約束したでしょ!?次はあたしが耳かきしてもらう番だって!」
「膝枕で耳かきは男のロマンであって、俺は絶対やらないっ!」
「あたしだって膝枕して貰いたい!」
「こんなゴツゴツした膝、枕にしたっていいわけないだろ?」
「やった事もないくせに!」
「当たり前。俺が男の膝枕借りたりしたら変態だ!」
――― これって、アレでしょ…いわゆる犬も食わないなんとかってヤツ
戸口に寄りかかり、その様子をため息をつきながら見ていると、不意に背後に人の気配を感じた。
「えぇそうですよ、お嬢様。あんな馬鹿ップルは無視して行きましょう」
「そうね、代わりに同行してくれるかしら?ライル」
「構いませんよ。貴女の腕がどれほど実践で使えるようになったか、見せて頂きましょう」
「望む所よ」
「ちょ、プリンセス〜?」
「じゃぁね、ロベルト。を泣かせたら承知しないわよ?」
「いや、それは絶対間違ってもありえませんけど…って、同行の申し出じゃなかったんすか?」
「いいわ、ライルと行くから」
「お前は様と遊んでいなさい。心行くまで」
パタン、と音を立てて扉が閉まり、残されたのはが立ち上がらないよう全体重をかけて膝を押さえつけている俺と抵抗しているだけ。
――― 作戦成功ってね
「ローベールートォ〜!!」
「…よし、これで今日は出掛けなくて済む」
「…ほぇ?」
「悪かったな、無理矢理押さえつけて…痛かったろ」
押さえつけていた膝を解放してやると、は押さえつけられていたバネのように勢い良く立ち上がった。
「ライルが来てくれて助かったぜ」
「えっと…」
「…あれ?分からない?」
「…うん」
「ひでぇなぁ、あんたといる為に一芝居うったってのに気付かないなんて」
「えー!?」
本当は昨日、プリンセスから同行の申し出を受けていた。
けど、今朝になって急にが顔出すもんだから…気が変わった。
「いいの?」
「いいも何も、同行者がライルになったの見たろ?」
「うん」
「だから、今日はあんたといるよ…」
大好きなロマンス小説に登場しそうな綿菓子みたいな笑顔で笑う女。
この国に、こんな真っ白な女がいて、その女に出会えた俺は…やっぱ強運の持ち主だな。
「膝枕でも抱擁でも、なんでもしてやるよ」
「ホント?」
「その代わり、俺との賭けに勝ったらな?」
「またぁ?」
「表か裏か、さぁ…どっち?」
指で弾いたコインを手の甲に乗せてへ差し出す。
「ん〜…裏!!」
「残念、表。じゃあ俺の願い聞いて貰おうか」
「えーー!!」
ホントあんたって馬鹿だね。
この国がどんな国か知ってるだろ?
それに、この俺が誰だか…忘れたわけじゃないよな?
イカサマギャンブラーだって知ってるのに、毎回同じ賭けに乗ってくれる…可愛いカモ。
「まずは、さっきの続きから」
「耳かき?」
「それは終わり。次は…」
立ち上がったの肩を軽く押すと、そのまま柔らかなベッドに体が沈みこむ。
「わっ」
「朝っぱらから叩き起こされたんだ…次は、あんたの胸で眠らせて」
犯罪大国であるギルカタールで出会った天使。
ロマンス小説では最後に結ばれる相手はお姫様だったけど、たまには天使ってのがあってもいいよな?
ロベルトは可愛い。
直ちゃんがやってるから、更に可愛い。
イカサマギャンブラーなのにロマンス小説大好きなロマンチストとか、可愛くてしょうがない。
そんな彼は絶対ベタなことが大好きに違いない!
膝枕とか、耳かきとか、手作り弁当とか、あ〜んとか食べさせあうとか!
プリンセスはそれを見たら、どんどん普通の結婚なんて甘ったるくてやってけないとか思えばいい(笑)
…ってか、そんなの毎日間近で見てたらそう思う気がするのは気のせいだろうか?(苦笑)
綿菓子みたいな天使みたいなヒロインが、どうやってギルカタールで生きてたかは…ま、ほら、世の中運がいい人っているんだよ!(強引にもほどがある)