「あの、緒方さん」

「何かな」

「素朴な疑問、聞いてもいいですか?」

「オレに答えられる物ならどうぞ」

「緒方さんってキスしてる時・・・・・・」

緒方さんに後ろから抱きしめられながら首を少し後ろに倒して彼の肩に乗せ、思いついた質問を口に・・・しようとして躊躇う。
別に今更恥ずかしがるような事じゃないんだけど、緒方さんの顔見て話すとなると何だか言い難い。
だって変な言い方すると、緒方さんっていつも私をからかったりエッチな話に持ってっちゃうんだもん。
だけど上手く言わなきゃって思えば思うほど上手い言い方が思い浮かばなくて、一生懸命考えていたら、不意に耳元に緒方さんの艶っぽい声が聞こえた。

「何?ひょっとしてエッチな話?」

「!?」



もーっ!どうして緒方さんの声って耳元で聞くとこんなに心臓に悪いの!?



心拍数の上がった心臓を両手で押さえながら、必死で緒方さんの言葉を否定する。

「ちっ、違いますっ!!

「そりゃ残念。君の口からどんな卑猥な言葉が飛び出すのか楽しみだったのに」

「私は緒方さんじゃないですから、頼まれてもそんな言葉出ませんっ!!」

「イイ台詞が飛び出したら、是非次回作に使わせて貰いたいね」



――― どこまで冗談で、どこからが本気か分からないのが怖い



「普段聞き慣れた言葉でも、君の口から出ると新鮮に聞こえるからね」

「・・・一体どんな言葉ですか、それ」

「興味ある?そうだなぁ、簡単な所だと『イイ』とか『もっと』って台詞だけでも・・・」

「それ以上は結構ですっ!!」

ダメだ、これ以上質問を引き伸ばすと別の方向に進んじゃう。

「はははっ・・・本当にちゃんは可愛いね」

「・・・質問、再開しますよ?」

「あー、はいはい。何かな?」

何とか強制的に軌道修正すると、私は最初に浮かんだ疑問をキチンと口にした。

「緒方さんキスする時、目、どうしてます?」

「・・・随分今更な質問だね」

「まぁその通りなんですけど・・・」

「ちなみに君はどうしてるの?」

「わ、私は・・・閉じてますよ」

「だろうね」



・・・何?何でそんな当たり前って顔して頷いてるの???



「どうしてそんな断定的なんですか?」

「そりゃいつもオレが君の顔見てるからだよ」

「は?」

「何だったら実践、してみせようか」

悪戯っ子のような笑みを浮かべた緒方さんの顔が徐々に近づいて来たので、反射的に目を閉じた。
けれど、唇に吐息は感じるのに、いつまでたっても唇が触れない。
不審に思ってゆっくり目を開けると、そこにあったのは・・・目を開けて私を見ている緒方さんの顔。

「緒方さん?」

「疑問を解消するんだろ?」

「は?」

「目、開けてないと確認できないよ」

「そうでした」

「さて、いつまで耐えられるかな・・・」

「・・・え?」

優しく重なる唇、その甘さに酔ってしまいそうになるけれど・・・今日は、それだけじゃない。



至近距離で視線が絡み合う。



緒方さんの瞳に私が映ってる・・・って事は、私の目にも緒方さんが映ってるんだよね。
そんな当たり前の事を体感しながらも、徐々に緒方さんのキスが深いものに変化していく。

「んっ・・・」

反射的に瞳を閉じると、それを遮るかのように頬を指でつつかれる。
そうしてゆっくり目を開けると、緒方さんの長い睫と整った顔立ちが視界に入る。
チュッと音を立てて唇が外れると、緒方さんが楽しそうにこう言った。

「まだ目を閉じるには早いよ」

口元を緩ませながら再び緒方さんの唇が降りてくる。
瞬きすらせず私を見ている緒方さんの目は、凄く・・・綺麗。
静かな泉のようにも見えるけど、何度もキスを繰り返していくうちにその奥に何か熱い物が揺らいでくる気がする。
唇や頬にキスの雨を降らせながら、緒方さんは苦笑にも似た笑みを浮かべながら私の耳元に言葉を落とした。

「・・・魔性の瞳、だね」

「何・・・ですか?」

ちゃんの目、だよ。見つめられてるだけでイッちまいそうだ」

「・・・嘘」

「嘘じゃないさ」

ベッドに座っていた緒方さんの肩に寄りかかっていたはずの体は、いつの間にかベッドの上に寝かされていて、その上にはしっかり緒方さんが乗っている。

「オレ以外のヤツにそんなイイ顔、見せたくないからね。ちゃんはキスの時、目を閉じててくれると嬉しいな」

「緒方、さんは?」

「オレ?オレは・・・閉じないよ」

「・・・ズルイ」

「君に何て言われようと閉じる気はないね。ちゃんの頬が朱に染まる瞬間も、一生懸命声を我慢する姿も・・・見逃したくないからね」

そう言いながら、緒方さんの大きな手がそっと私の目の上に置かれ、視界が塞がれた。

「あれ?」

「さて、疑問が解決したなら目を閉じて・・・」

「な、何でですか!?」

「言っただろ、魔性の瞳だって。これ以上その瞳で見られたら・・・今夜は寝かせてあげられなくなりそうだ」

「・・・!?」

「ま、暫くは寝かせる暇もあげないけどね」

「ちょっ、待っ・・・」

「あぁ、待ったは聞かないよ。言い出したのは君の方だからね」

「緒方さん!?」

「・・・今夜は優しく出来そうもないな」

ポソリと恐ろしい台詞を口にしながら、抗議のため開かれた私の唇に緒方さんの唇が降りてきた。
軽く触れ合うような物じゃなく、全てを奪うような熱い・・・キス。
おかげで5分もしない内に私の意識は何処か遠くへ飛んでいってしまい、結局その日はそのままベッドで意識を失ってしまった。





ちなみに、翌日私が目を覚めたのは・・・昼食の時間をとっくの昔に過ぎた頃だった。





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キスシリーズ、とでも言いましょうか(苦笑)
コメントに困る話シリーズ、が一番落ち着く気もしますけど(笑)
えーっと、私がぶっ倒れている間に愛しの緒方さんのお誕生日が過ぎてしまったのに気付きました。
大好きなあー様と同じお誕生日なんですよね。
という訳で、お祝いの気持ちをコメントに変えさせて頂きます!!
以上!!(笑)
・・・って言うか、どうしてこの人の話はただのキスでもこんなにエッチくさくなるんだろう(汗)