「ただいま〜・・・」

「おかえりっ、マイハニ〜♪」

「あ、あははは・・・」

作りかけの花束を片手に持ったまま両手を広げる結城さんの横をスルリとすり抜ける。

「あっら〜、いつもながらつれない人」

「お仕事中じゃないんですか?」

「っと、そうだった!!」

我に返って手に持っていた花束作りを再開させる。
何処にでもある真っ赤な薔薇が、結城さんの手にかかると世界に1つだけの綺麗な薔薇の花束に変わるから不思議だ。
出来上がったそれをレジ横にあった椅子に座っていた私に見せる。

「ど?」

「凄く綺麗です」

「あっはー、珍しく素直じゃない」

「結城さんが口を開かなければもっと綺麗です」

「・・・いつも鋭い突っ込みありがとね」

若干肩を落としたけれど、めげずに出来上がった花束を空調の利いたケースの中へ入れ、また別の花を手に取ると同じようにまとめ始めた。

「いくつ作るんですか?」

「ん〜・・・ここにある花全部、かな」

「えーっ!?」

結城さんの足元には赤とピンクと黄色の薔薇の花が沢山詰まっている。
それを全部・・・花束にするの!?

「この近くにある舞台の楽日でね。出演者の方全員に花束を贈りたいってお客さんがいてさ」

「・・・一体何人いるんですか?」

「さぁ〜・・・聞かなかったな」

それじゃぁいくつ作るかわからないじゃないですか。
思わず頭を抱えてため息をついたけど、それでも結城さんは楽しそうに鼻歌を歌いながら花束を手早く作っていく。

「疲れないんですか?」

「ん〜?ぜーんぜん」

にっこり笑顔で首を横に振る姿を見て、私は思わず持っていた荷物をキャッシャーの下に置いて予備のエプロンに手を伸ばした。

「・・・お手伝いしましょうか?」

「いいよ、いいよ。ちゃんも仕事で疲れてるだろ?」

「明日はお休みですし、私に何か手伝える事があれば・・・ですけど」

エプロンを身につけ結城さんの側に行くと、何故か彼の手がピタリと止まってその視線が私の足元から上へとあがっていった。

「結城さん?」

「やっぱ可愛い子が着ると一味違うなぁ、それ」

「は?」

「ね、やっぱさ。家で使うエプロンは真っ白なのにしない?」

「あのぉ何の話を・・・」

「新婚さんが良く着るようなフリルがい〜っぱいついたエプロン!
『お帰りなさい一臣さん♪』って言いながらお帰りなさいの・・・」

「私の手は必要ないみたいですね」

いつものように妄想に走り出した結城さんを無視して、結んだばかりのエプロンの紐を解こうとすると結城さんが慌てて声を上げた。

わーっ!わーっ!!もうしません!もうしませんから、手伝って下さい!」

「・・・本当ですか?」

「これ以上ないくらいホント!実はちょっと急ぎなのよ、これ」

「何をすればいいですか?」

もう一度向き直ると、今度はちゃんと指示を出してくれた。

「俺が花をまとめるから、それにレースの模様が入ってるセロファン巻いて花と同色のリボン結んでくれるかな」

「はい」

「このお礼はベッドでちゃーんと返すからね」

結城さんって、彼氏じゃなくて上司だったら絶対いつかセクハラで訴えられるよね。
ロール上のセロファンをサイズに合わせて切りながら、いつものように軽くあしらう。

「・・・結構です」

「あれぇ?本当に?」

「本当に」

「ちぇ〜・・・ベッドの中だと素直で可愛いのになぁ・・・」

「なっ!!」

「昨日だって・・・」

「ゆっ結城さん!!」

「涙浮かべちゃってさぁ・・・」

「それ以上喋るとガムテープで口止めますよ!」

「あ〜・・・それは困るな」

「だったら口より手、動かしてください!」

「はいはい、良く出来た彼女ですことー」

拗ねたような口調でようやく作業を開始した結城さんの背中を見ながら、私は赤くなった頬を手で撫でる。



いつもいつも、結城さんにこんな風に動揺させられる。
それがちょっと・・・悔しい。




セロファンを薔薇の花に巻きつけ、リボンを結びながらふとある事を思いつく。
花束を作るのに椅子に座って両手がふさがっている結城さん。
音を立てないように背後に近づいて、ちょんちょんっと指で肩を叩く。

「ん〜・・・っ!?

何気なく振り向いた結城さんの唇に、軽く触れるだけのキスをした。

「頑張ってるご褒美です」

にっこり笑顔で一歩後ろに下がると同時に、結城さんが綺麗にまとめていた薔薇が床に落ちた。

「あ゛」

「あーあ、やり直しですね」

クスクス笑いながら2個目の薔薇の花束を手にとると、結城さんがやや苦笑しながら床に落ちた薔薇に手を伸ばした。

「なかなかやるじゃない」

「結城さんの彼女ですから」

「あっはー・・・君のそういう所、好きだよ」

「本当?」

「もっちろん。ただ可愛いだけじゃなく、小悪魔的な所がまた可愛い!」

「・・・それ、褒めてるんですか?」

「あれ?そう聞こえない?」

「あんまり」

「笑顔が天使で、行動が小悪魔・・・これでベッドの中で魔性の女になれれば、も、サイッコー!」

「どうしてそっち方面に行っちゃうんですか!!」

「男だからねぇ〜♪」

やられてやり返して、でもやっぱり勝てない。
だけど、そんな結城さんが・・・私は好き、みたい。

「さーて、真面目に花束作ってとっととCLOSEしますか」

「え?」

「・・・早く君と二人っきりの甘い時間を、OPENさせたいんでね」

そう言ってウィンクした結城さんの手には、床に落ちたはずの薔薇が・・・また綺麗な花束に形を変えていた。





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あああっついにやっちゃいました。
デザートラブの特別仕様版でのみクリアできるお花屋さんです。
・・・もぉだいっっすきです!(笑)
そのあっかるい言動から、軽い口調まで!
そして困った時には必ずタイミングよく現れ、優しく慰めてくれるその温かさ!
いつもの軽い告白と違う、告白には眩暈がしますね(笑)
そして彼のまとうオーデトワレ!これを読んでる人は知ってますよね?
くちなしのオードトワレ(爆笑)
自分のサイト名に使われてる花をまさか彼が纏っているとは思いませんでしたよ。
しかも花言葉まで私が選んだ理由と一緒なんだもん!あぁもう、運命を感じました(笑)