「結城さん」

「まったー、どうしてそんな他人行儀な呼び方するかな」

「・・・クセなんです」

「そんなクセ早く治しなさい」

「無理ですよ、ずっと結城さんって呼んでたんですから」

入れてもらったハーブティーのカップを持ったまま頬を膨らませて目の前で今日の売り上げ計算をしている結城さんを睨む。
けれど相手はそんなのなんとも思ってないかのようにペンを揺らしながら視線をチラリとこちらに向けた。

「・・・ま、あの時だけ名前で呼ばれるのも新鮮でいいけどね」

「ゆっ結城さん!」

「俺も試しにやってみようか?」

「やらなくていいです!」

もー、いつもこんな風に話を脱線させちゃうんだから!
頬を膨らませただけじゃ無意味だと思って、椅子ごとそっぽを向くとようやく結城さんが顔をあげた。

「あっはー、ごめんごめん。あんまりちゃんが可愛いからつい・・・ね」

「結城さんこそそのクセ、治して下さい」

「それは無理」

「え?」

「だって俺のひと言ひと言に一喜一憂するちゃんがそりゃもう可愛くて可愛くて!」



・・・拳を握りしめて力説するような事?それって・・・



「出来るならどんなちゃんも他の人間に見せないように、ぎゅーってずっと抱きしめちゃいたいくらい可愛いんだからね!君は!」

「あ・・・あはははは・・・」

「それくらい魅力的だって事、早く自覚して欲しいよ」

はぁ〜っと大きなため息をついた結城さん。
いつもいつもからかわれるのは私だけど、こんな風に自分の気持ちを素直に見せてくれる結城さんって本当に可愛い ――― 言うとまた怒られるだろうケド

「・・・んで、何?」

「え?」

「俺に用じゃないの?」

「あ、大した事じゃないんだけど・・・」

「君の言う事はぜ〜んぶ大切ですよ、俺は」

「あのね、結城さんって血液型、何?」

「知らない」



――― 即答 ―――



「知らないの?」

「ん」

「・・・」

「どしたの?何か困る事でもある?」



・・・言えない。
今日買った雑誌についてた相性占いがしたいから、血液型が知りたかった・・・なんて。




思わず足元に置いていたカバンに視線を落とすと、すぐに何もなかったような顔をした。

「ううん。何でもない」

「何でもないって顔じゃないっしょ・・・ん〜・・・献血にご協力下さい?」

「私、そんなお仕事してません」

「だよねー、白衣のちゃんってのも俺的には見てみたいって言うか、完全看護して貰いたいって感じ?」

「・・・空気の入った注射しますよ?」

「そりゃ勘弁。えっとじゃぁ俺のそっくりさんが現れた時にどっちが本物か判断するのに必要?」

「・・・結城さんみたいな人、世の中に二人もいませんよ」

「あっはー。やっぱり?俺みたいなイイ男が世の中に二人も三人もいたら大変だもんね〜♪」

そうじゃなくて、結城さんみたいに突っ走っちゃう人が世の中にゴロゴロしてたら・・・それに振り回されちゃう人が沢山いて大変な事になっちゃって事です。
思わず額に手を置いてしまうと、不意に耳元で声が聞こえた。

「何?本当に俺みたいないい男に他で出会っちゃった?」

「そっそんな訳ないです!」

「・・・本当?」

「はい!」

「ん〜・・・じゃ、信じたげるから血液型知りたい本当の理由、教えて」

至近距離でにっこり微笑まれて・・・思わず息を飲む。
結城さんって仕事中は帽子をかぶってる事が多いし、プライベートでも前髪で顔が隠れてる事多くてはっきり顔見れないんだけど・・・近くで見るとすっごく綺麗なんだよね。
睫なんて私よりも長くて、瞳なんて見てると吸い込まれちゃいそうに綺麗だし・・・

「・・・お〜い、何処の世界に旅立っちゃってんの?」

「は?」

「それとも、見惚れちゃうほどいい男?」

「・・・そう、かも」

「うわぁお・・・ちょっとキタなぁ、それ」

「え?」

「・・・売り上げ計算してなければ、即イタダキマスって両手合わせちゃいたい」

唇が触れ合いそうな距離でそんな風に囁かれて思わず椅子から立ち上がると、その勢いで結城さんがバランスを崩した。

どわっ!

「も、もう今日は先に帰ります!」

足元に置いてあったカバンを胸に抱えて二階へ続く階段へ向かう。

「ちょっ、ちょっと・・・お嬢さ〜ん!血液型の話は〜?」

「もう知りません!結城さんに何かあったらその辺にある適当な血液輸血して貰います!」

「そりゃないでしょぉ・・・ちゃん〜?」

階下から聞こえるのは情けない声で私の名前を呼ぶ結城さんの声。
でもその声には若干楽しそうな声が含まれているのも気付いてる。





結城さんに何かあったら、ちゃんと正しい血液を輸血して貰いますから・・・今度一緒に調べに行きましょう。
そして血液型が判明したら、その足で一緒に占いに行きましょうね。
両想いだって分かってても、オンナノコは占いが大好きなんですから・・・





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この話を思いついたのは本当に他愛の無い事なんです。
公式サイトで結城さんの血液型が「?」となっていたから・・・それだけ(笑)
私が話を書くキッカケって本当に些細な事ですよね(苦笑)
雑誌に必ずついている占い、きっと恋する乙女ならついついやってしまうモノ。
それをやるのに必要なのは大抵が生年月日、そして血液型。
と言うワケでこんな話が出来ました。
結城さんが好きな人は分かると思いますが、彼の「あっはー」が大好きなんですよ(笑)
困ったような、嬉しいような、からかうような・・・色々な場面で使われるあの言葉が今の私のマイブーム!
・・・本当にこれ以上作品増やしてどうするんでしょうね。しかもこんなこっそりと(苦笑)