「だぁ〜っっ!もう一回!!」
「・・・まだやるんですか?」
「やる!君に勝つまでね!!」
はぁ〜と大きなため息をつきながら、私はカップを机に置いて手を空けた。
「もぅ、これで最後ですからね?」
「・・・・・・」
私の言葉なんて聞こえてないんだろうな、結城さん。
一生懸命両手を合わせて、まるで神様にでもお願いしているみたい。
「じゃぁ行きますよ?・・・じゃんけん」
「ぽん!!」
机の上に出された手は私がパー、結城さんがグー。
「だぁーっっまた負けたっ!しかもまたグーで・・・」
「結城さんの場合、グーが悪いんじゃなくてじゃんけんに弱いのが問題じゃないんですか?」
「・・・冷静に分析されると、切ないな。あーっでも悔しい!」
まるで子どものように悔しそうに机に突っ伏しちゃった結城さん。
こんな姿滅多に見れないから少しだけ笑いそうになる。
「いいじゃないですか、ジャンケンに弱くても別に困りませんし」
「いや、困る。会社の社長の座を押し付けあった時以外にも、大学時代出席を取ったりレポートを書いたりする時も、いっつも俺が負けてたんだ」
「・・・」
「他にも宴会の幹事とか、企画書の作成とか・・・」
「・・・あの」
「そう言えば今度あるパーティーの出席を決めるジャンケンでも負けたなぁ・・・あー俺ってば不幸ぉ〜」
「結城さん」
「ん〜?」
「・・・昔からジャンケンで色々な物事決めてたんですか?」
「そだよ」
あっさり言われて開いた口が塞がらない。
「ジャンケン弱いって、分かってるんですよね?結城さん」
「あー・・・まぁね」
「それなのにどうして何か決める時、ジャンケンするんですか?」
ジャンケンが弱いって分かってるなら別の勝負で決めればいいのに、どうしてそこまでジャンケンにこだわるんだろう?
「ま、一番手軽な方法って言われちゃそこまでだけど、男としては引けない所でもあるんですよ」
「引けない所?」
「そ、勝負を持ちかけられて「僕、ジャンケン弱いから嫌なんです!」なぁんて言えないでしょ」
「・・・」
「・・・今、子どもみたいって思ったでしょ」
「思ってませんよ・・・ただ・・・」
「ただ?」
「・・・可愛いなぁって」
「それ、男に対する褒め言葉じゃないって・・・」
ガックリ肩を落とした結城さんを見て、堪え切れなかった笑いが漏れる。
「あー、楽しそうに笑ってくれてありがとね!俺の方は至って真面目なのに!」
「ご、ごめんなさいっ!」
「こうなったら俺が勝つまでジャンケンやるぞ!」
「えぇ!?」
「で、俺が勝ったらご褒美頂戴♪」
「ご褒美って・・・それこそ子供じゃないですか」
「男はいつだって少年のような心を持っているものだよ」
軽くウィンクをして私の手をとる結城さんの表情は、何だかとても楽しそうで・・・つられるように私も笑顔になった。
「子供のような心と、子供みたいっていうのは違いますよね?」
「あっはー、そりゃそうだろうね。だって子供はこんな事しないしね」
掴んでいた手の甲に唇を当てて、音を立ててキスをする結城さん。
慌てて手を引っ込めようとしたけれど、指をしっかり掴まれている所為で離せない。
「ちょっ、結城さん!?」
「ん〜?」
「手、離して下さい!」
「いいじゃない、別に。急ぎの用があるわけじゃないでしょ?」
「ジャンケンできませんよ!」
「もう片方の手があればいいでしょ?」
「で、でも・・・」
「別にこのまま食べようって訳でもないんだからさ・・・あ、それとも食べて欲しい?」
にっこり優しく微笑みながら、私の手を食べようと大きく口を開けた結城さんの頭を空いている方の手で叩く。
「馬鹿な事しないで下さい!」
「あいた〜・・・君ってホント容赦ないよね。」
「結城さん相手に容赦してたら身が持ちませんから」
「あらま、そんな事ないのに」
「それより、ジャンケンいいんですか?」
「おっとそうだった。じゃぁ最後はちゃんの体を賭けて勝負だ!」
「はぁ!?」
「俺が勝ったら、手を繋いだまま2階のベッドに直行ね♪」
「・・・私が勝ったら?」
「君が勝ったら、抱き上げて2階のベッドに直行」
「・・・どっちにしろベッドなんですか?」
「そう」
真顔で頷かれたけど、まだ休日の昼間なんですけど・・・。
「君は俺に抱かれるの、嫌?」
じっと目を見つめて、囁くような声でそんな事言う結城さんは・・・卑怯だ。
「・・・」
「俺はいつでもちゃんを抱きたいな」
「・・・馬鹿」
「そうだね、馬鹿かもしれない。でもそれくらいちゃんの事愛しちゃってるんだ」
にっこり笑って、繋いでいない方の手を前に出した。
「勝っても負けてもラスト勝負」
子供みたいだけど、子供じゃない。
大人のくせに、大人じゃない。
そんな二面性を持ってる結城さんを愛している自分がここにいる。
「グーだけは出さないで下さいね」
「あら〜心理戦?」
「さぁ、どうでしょう?」
「・・・了解、じゃぁいくよ?」
勝負の行方は、ベッドの中で繋がれた手だけが知っている。
グーを出してジャンケンに負けた結城さんから思いついたネタ。
お友達は結城さんがジャンケンに弱いのを知っていて、いつも何か決める時には言葉巧みにジャンケンを持ちかけてるのではなかろうか・・・と(笑)
それに毎回上手く乗せられて、悔しがる結城一臣・・・可愛いな、と思ってしまって出来た小話でした(笑)
最後のジャンケンは、結城さんが勝ちました・・・と言うか、こっちが負けてあげたって言うのが正しいかもしれません。え?どうしてそれが分かるかって?最後にベッドで手を繋いでるって言うのがその回答です。
繋いだまま上に上がって、手を離そうとしたら結城さんが「手を離しちゃダメだよ」って言って指絡めたまんまなんです(爆笑)
あははははっこ〜のイタズラ好きめっ!!
こんな結城一臣、大好きな私です(本気(笑))