「げほっげほっっ!!」
「少佐・・・風邪ですか?」
「ん〜昨日からちょっとノドが痛くてね。」
ノドを手で押さえながらノイマン少尉にそう言うと同時に、シュンと言う軽い音を立てて扉が開きそこからアークエンジェルの艦長でもあるマリューが現れた。
「少佐がそんな状態では士気に関わりますね。」
「・・・面目ない。」
苦笑しながらも艦長はポケットから何かを取り出すと俺の手にそれを乗せた。
「勤務中ですけどこれくらいは構わないでしょう?」
「こりゃどーも。」
ニッと笑って手を開けば、そこには俺には不似合いとも思われる可愛らしい包みにくるまれた小さな飴があった。
その包み紙がやけに印象深く頭に残っている事に首を傾げながらも、それを開けて口に入れた瞬間 ――― 幼い少女の柔らかな笑顔と言葉が不意に思い出された。
「おめでとうございます、フラガさん。」
数年前、とある中立国に立ち寄った時・・・道で男達に絡まれている少女を見つけた。
男達は少女から取り上げたと見られる何かを高く上の方に持ち、仲間と見られる者達に笑いながら次々と渡していく。
それを男達の腰くらいの身長の少女が一生懸命目で追いながら時折手を伸ばしている。
「返してっ!」
「お前がぶつかったのが悪いんだよ。」
「そうそう。」
「ほーらこっちこっち♪」
男達の笑い声を受けても少女は一生懸命手を伸ばしてそれを取り返そうとしている。
自分がそんなに正義感溢れる人間だなんて思っちゃいないけど、小さな子が苛められてるのを見過ごすほど・・・落ちぶれてるつもりも無い。
「お兄さん達、何やっての?こんな小さい子相手に・・・」
買ったばかりの荷物を肩に担いだまま、一番近くにいた男の肩をぽんと叩くと不機嫌そうな顔で俺の方を振り向いた。
「あぁ?誰だテメェ。」
「たんなる通りすがりの一般人・・・それにしても大人気ないねぇ、あんたら。こんな小さな女の子苛めて何やってんだ?」
「テメェには関係ねェだろうが!!」
「そりゃごもっとも。」
小さく頷いた横では女の子が今にも泣き出しそうな顔で、その男が指にからめて持っているペンダントを見つめていた。
・・・やれやれ。面倒な事は嫌いなんだけどね、俺。
気付かれないよう小さくため息をつくと、素早く男の足を払いその手に持っていたペンダントを奪い取る。
「お嬢チャン、これ以外何か取られた物はあんの?」
「・・・い、いいえ。」
「おいっテメェ!」
転がされた男が立ち上がるよりも早く呆然と立ち尽くしている少女の手を掴むと、俺は買ったばかりの酒を一本男達に向けて放り投げ軽く手をあげた。
「まぁ今回はこれでチャラって事にしてくれ。」
「何だとっ!」
「ほら、行くぞ!」
男達が我に返って追いかけてくるよりも先に、少女の体を引っ張るように思い切り走る。
幾つかの路地を曲がり休む間もなく大通りを通り抜け、ようやく追ってくる気配が無くなった所で立ち止まり側の木箱に座り込んで頭をかく。
「ったく・・・こんな日に何やってんだぁ俺は・・・」
誕生日の日に運良く中立国に入国。
上官が珍しく部下に数時間の休暇を与えてくれたので、自らを祝うべく美味い食べ物と酒を買う為町に出てきた。
貴重な酒と美味いつまみを堪能しながら僅かな休暇を楽しもうとしていたのに・・・。
小さくため息をつきながら紙袋の中身を確認している時、嫌な事に気付いた。
「あーっ!しまった!!一番いい酒やっちまった!」
・・・いざこざを起こした上、一番楽しみにしていたモンを人にやっちまうとは・・・どうかしてるぜ、全く。
「あ・・・あの・・・」
「あ?」
忘れてた。
少女を助ける為手を引いていたのをすっかり忘れ、ブツブツ独り言を呟いていた俺を少女は大きな目を見開いて見つめていた。
その目は光の反射によって海の青にも、空の青にも見える珍しい青色をしていて思わずじーっと覗き込むように目を見つめた。
すると少女の顔が徐々に赤くなり俯いてしまった。
おー・・・照れてるよ。小さくてもやっぱオンナだねぇ。
「そっその・・・助けてくれて、ありがとうございました。」
「いや、俺が勝手にやった事だから・・・っと、これ返しとかなきゃな。」
手にかけていた銀色のチェーンの先に黒い・・・ねこ?の様なものがついたペンダントを返すと、少女はほころぶような笑顔を見せてくれた。
「・・・大切な物、なんだな。」
「はい!大好きな人に貰った大切な物なんです!」
「じゃぁ今度は悪い人に取られないようにちゃーんと持ってないとな?」
軽くウィンクをして少女の頭を撫でてやると、嬉しそうに何度も何度も頷いた。
それから思い出したようにポケットの中に手を入れ何かを取り出すと、おずおずと俺の方に差し出した。
「ん?何かな?」
「その、今日お誕生日・・・なんですよね?」
どうして知って・・・って俺さっき自分で呟いてたか。
「あー、まぁ一応。」
「だから、お礼とお誕生日プレゼントに・・・」
そう言って少女の小さな手から俺の手に渡されたのは・・・可愛らしい包みに包まれたキャンディ。
「お誕生日おめでとうございます・・・えっと・・・」
「・・・ムウ・ラ・フラガだよ、お嬢ちゃん。」
「おめでとうございます、フラガさん。」
そう言ってニッコリ笑った少女の笑顔は、一人ぼっちの誕生日が馬鹿らしく思えていた俺の心をほのかに照らしてくれた。
いつもは行かない町
二度と訪れないかもしれない・・・町。
小さな偶然から起きたこの小さなプレゼントは、数年たった今でも色褪せる事無く俺の胸の中に息づいている。
それだけ印象的な女の子だった、って事なんだろう。
「・・・あれから何年経ったかなぁ、随分綺麗に成長してんだろうな。あのコ。」
結局あの後、少女が慌ててその場を去ってしまったので名前を聞くことも出来なかった。
せめて名前だけでも聞いときゃ軍のマザーコンピューターで今どうしてるか確認できたんだけど・・・失敗したな。
こんな時代、こんな戦況、こんな中にいたら・・・何故かもう一度あの子の温かい笑顔が見てみたいと思うのも当然かも知れない。
愛情とか好意とかそう言うもんじゃない。
幸せそうな笑顔を見たい・・・ただそれだけ。
「だーっ!諦めるなっ!俺は不可能を可能にする男だろう!!」
「はぁ?」
「どうしたんですか?少佐?」
「絶対今どうしてるか突き止めてやるからなっ!待ってろぉー!!」
そう叫びながら部屋を出て行った俺の背を見ているアークエンジェルの艦長が、無言で明日の俺の勤務表に『欠勤』と書いたのを知るのは翌日の事となる。
★ Happy Birthday ★
ムウ・ラ・フラガ
この人が、三蔵と同じ誕生日だと知ってビックリしたのは私だけでしょうか?
それにフラガさんドリーム書きたいと散々言ってて初書きがこれ!
・・・ヒロインの名前はど〜こぉ〜(笑)ごめんよ、もし次回があれば次こそ名前、だすからさ(苦笑)
最初頭に浮かんだのは幼い頃のヒロインとフラガさんがばったり出会って、そこでアメを渡すと言うシーンだけ。
いや・・・何となく可愛いかなぁって(苦笑)
ちなみに当時のヒロインは大体・・・プラントに移住してきて医療の専門学校に移る前か移ってすぐかな?
買出しに出掛けた時にペンダントのチェーンが切れて、それを取ろうとした時にお兄さん達にぶつかった・・・って事でv
最初どうやってアークエンジェルに乗ってる人とザフトのヒロインを絡めようかと思った時にふっと浮かんだこの話(笑)
案外上手く絡んだ気もするんですが・・・如何でしょ?
にしても三蔵よりも先にフラガさんBDが書きあがるってのもどうよ(苦笑)