「お二人でいらっしゃるのは初めてですわね。」
「すみません、先日は突然ご予定をキャンセルしてしまって・・・」
「アスランのお体の方が大切ですもの。お気になさらないで下さい。」
「はぁ・・・」
「様と一緒にいらして頂けて、私もハロもとっても嬉しいですわ。」
ラクスがそう言うと同時に、部屋の中を飛び跳ねていたハロが突然喋りながら縦横無尽に俺の周りに集まってきた。
自分で贈っておいて何だけど・・・ちょっとやりすぎたな。
「ハロもアスランに会えて嬉しいみたいですわね。」
「は、はぁ・・・」
俺は周囲を飛び交うハロを気にしながら、ラクスの入れてくれた紅茶に手を伸ばす。
「アスランは今もお忙しいんですの?」
「えぇ、まぁ・・・」
本当なら今日は実技訓練が入っていたし、情報プログラムの処理も溜まっている・・・なのに何で俺、ラクスの家で暢気にお茶飲んでるんだろう。
お茶を飲みながらチラリと視線を目の前の人物に向けると、いつも街頭で流れている映像を見ているような爽やかな笑顔でにっこり微笑まれて思わず頬を染める。
そんな俺の様子を楽しそうに眺めながら、ラクスがキッチンにいるもう一人の人物の名前を呼んだ。
「様〜、私何かお手伝いする事ありますかしら?」
「大丈夫ですから座っていて下さい!!」
キッチンからは何処と無く必死なの声。
それもその筈、の手伝いをしようとラクスがキッチンに足を踏み入れてキッチリ3分後。
小さな爆発音の後、頭からつま先まで真っ白になったがラクスの背中を半ば無理矢理押しながらキッチンから追い出してひきつった笑顔でこう言った。
「今日は私がアスランとラクスにご馳走しますから、お願いですから座っていて下さい!」
「まぁ・・・そんな悪いですわ。」
「いえ!日頃の感謝の意味も込めて是非作らせて下さい!お願いします!!」
今でもその必死な顔は忘れられない。
俺が見ていないキッチンでの僅か3分の間に何が起きたのか・・・聞きたいような聞きたくないような・・・。
「それにしても・・・キッチンと言うのは不思議な所ですわね。」
「・・・と言うと?」
ラクスは側を飛んでいたハロ達を眺めながらのんびり話し始めた。
「様のお手伝いをしようと言われた通り小麦粉の袋を開けたんですの。」
「はぁ」
「そうしましたら突然袋が破けまして、その中身が全て様に掛かってしまったんですわ。」
「・・・そ、そうですか。」
が真っ白になっていたのは・・・小麦粉の所為だったのか。
「その粉が空気中に舞ってしまったので、このままじゃ様が粉を吸ってしまわれると思って慌てて換気をしようと手近のボタンを押したんですの。そうしましたら・・・」
「そ、そうしたら?」
「ボンっと爆発音がしたんです。」
・・・粉塵爆発でも起こしたんじゃないだろうなぁ。
俺は額から落ちてくる汗を手の甲で拭いながら、の無事を心から祈った。
「本当にキッチンと言うのは危険な場所なんですのねぇ・・・」
本気か?この人・・・。
「人によるかもしれませんね。」
「まぁアスランは大丈夫ですの?」
「えぇ・・・まぁ・・・」
「まぁ・・・まぁまぁ凄いですわ!様もアスランも素晴らしいんですのねv」
・・・一体何が凄くて素晴らしいんだ?相変らずこの人ってどこか普通とずれてる気がする。
さすが『ピンクの妖精』と言われるだけの事はある。
「ラクスもいずれ・・・その、キッチンが危険な場所じゃなくなりますよ・・・多分」
「そうなるよう頑張りたいと思いますわ。」
その時は俺を巻き込まないでくれ・・・と、思うのはやはり婚約者の立場としてはまずいのだろうか。
でも・・・出来るならそれには巻き込まないで欲しい。
「・・・アスラン。」
「は、はい。何でしょうか。」
暫く雨降る庭を眺めていた俺は、ラクスに名前を呼ばれて慌てて振り向いた。
その目からはさっきまでの明るく穏やかな様子はない。
どこか一点を見つめているような視線だった。
「私・・・お二人が大好きですわ。」
「・・・ラ、ラクス?」
「私一人ではなく、アスランも様も・・・皆が幸せでいる事を、心から望んでいます。」
「・・・」
「ですからアスラン。貴方は貴方のお心のままに・・・生きて下さいましね。」
真摯な眼差しで俺を見つめるラクス。
こんな彼女を・・・俺は今まで一度も見た事が無い。
「きゃあっ!」
そんな張り詰めるような空気を破ったのは、キッチンにいたの悲鳴だった。
「!」
「様?」
二人で同時に立ち上がってキッチンに駆け込むと、そこには踏み台に乗って棚の上の方にあるお皿を取ろうとする体勢のまま固まっているがいた。
「まぁっ様!」
「大丈夫か!」
「お・・・落ちる・・・」
俺とラクスが両手を伸ばしたと同時に、がバランスを崩して・・・倒れた。
「あっ・・・あれ?」
「様ご無事ですか?」
「わっラ、ラクス!何であたしの下敷きになってるの!?」
「それは様を助けるためですわv」
「それは・・・いいから・・・二人とも・・・早くお、下りて・・・お、重いぃ。」
「「え?」」
気付くの遅いよ、二人とも・・・。
バランスを崩したに最初に手を伸ばしたのは・・・実はラクスだった。
しかし勢いのついた人間をラクスのような細い女性が支えられるはずも無く、その後ろにいた俺が二人を支えるべく手を広げたけど・・・流石に、無理。
俺に出来たのは二人が床に衝突しないようにクッションの役割をする事だけ。
それなのに二人はその俺の上に乗ったまま普通に会話してるんだから・・・天然もここまで来たらどうにも出来ないよ。
「ゴメンねアスラン!」
俺の体を踏まないよう気遣って下りる。
「助かりましたわアスラン。」
にっこり笑顔で静かに俺から下りるラクス。
ようやく自由になった体を起こして自分も怪我をしていない事を確認すると、側にいたに声を掛けた。
「こ〜ら、また無理しようとしただろう!」
「ご、ごめんなさい・・・」
が背中を丸めてさり気なくラクスの背に隠れた。
「あんまり無茶するなって何度言ったら分かるんだ。」
「だってアスラン、ラクスとお話中だったし・・・」
「声かければいいだろ?」
「う〜・・・」
あ〜・・・また泣きそうな顔して、もう一回くらい強く言うと・・・泣くな、これは。
何て言ってこの場を済ませようかと思っていたら、ラクスの感嘆の声が聞こえた。
「まぁ何て美味しそうなんですの!これが『ロールキャベツ』ですのね?」
「ロールキャベツ・・・って、もしかして作ってたの・・・これ?」
「・・・だってあたしが作れるのってこれ位しかないんだもん。」
「私がお願いしましたのよ。アスランの好きなロールキャベツを一度食べさせて下さいなって・・・お願いが叶って私とっても嬉しいですわv」
ラクスは終始笑顔で後ろにいたの体を嬉しそうに抱きしめている。
はラクスに抱きしめられて少し嬉しそうだが、今だ眉を寄せている俺の視線を感じているのか若干その表情は微妙だ。
「アスランは如何ですか?」
「は?」
「アスランはロールキャベツ、お嫌いですか?」
「いや・・・俺は・・・その・・・好きですが。」
俺の答えを聞くとラクスは今まで以上に満面の笑みを浮かべ、の体を抱きしめていた手を緩めて俺の方へ近づいてきた。
「・・・怒ってばかりでは嫌われてしまいますわよ。」
「え?」
先程垣間見た、真摯な眼差しのラクスが俺の耳にそっと囁いたひと言がやけに心に残る。
「それでは様vお食事にいたしましょうv」
「あ、はい!」
「お皿はどちらになさいますか?」
「じゃぁ・・・その白いお皿で・・・」
「まぁ私、このお皿大好きですわv」
二人が楽しそうに食事の準備を始めたので、俺は無言でキッチンを出てテーブルについた。
「怒ってばかりでは嫌われる・・・か。」
別に怒ってる訳じゃない・・・ただ、が危ない事をして怪我をするのが嫌なだけ。
俺が出来る事なら何だってやってやるって事なんだけど・・・それが上手く伝わってないって事なのか?
「・・・女の人って難しいな。」
「あら?男の方も同じですわよ。」
「ラッラクス!!」
頭で考えていた事をどうやら口にしていたらしい。
顔を真っ赤にして口元を片手で押さえると、ラクスがクスクス笑いながら口元へ人差し指を当てて内緒のポーズをとった。
「アスランがのんびりしてますと、私が様を攫ってしまいますわよ?」
「は?」
今、何て言ったんだこの人は・・・。
「だって様って本当に可愛らしいんですもの。」
「ラクス?」
「是非私の妹になって頂きたいですわv」
この人・・・本気か!?
「ラクス!!」
「油断してはいけませんわよ?敵は他にも沢山いるのですから・・・うふふふっ.」
この日、ラクスとと俺で食事を済ませてすぐの手を掴んで軍に戻ったのは言うまでも無い。
あの家に・・・いや、正しくはラクスの側に長時間いるのは危険だ!
それにしても敵が沢山いるって・・・ラクスは何を言っているんだ?
ザフトの敵は地球軍以外にもいると言う事だろうか?
『敵』と言うのがを狙っている人間を示している事に俺が気付くのは、もう暫く後の事となる。
100のお題からこっそり移行させましたが、コメントは殆ど弄ってません。
でもって、ラクスもヒロイン争奪戦に参戦(大爆笑)
ごめんなさい!私がラクス好きなもので、どうしても書きたくなっちゃったんですよ…この3人。
ほのぼのしてて私は楽しいんですが…皆様はいかがでしょう!?
元々はこの台詞だけがあったのよ。
「私お二人が大好きですわ。私一人ではなくて様もアスランも皆が幸せでいられる事を心から望んでいます。」
多分この話を書いたのは、アスランと最後に話をしていた時のラクスの真っ直ぐな視線を受けて上記のセリフを思いついたのですよ。
それで書いたら…こうなったと(笑)
でもどうしてだろう…微妙に黒く感じるのは……(苦笑)