「・・・以上で本日の予定は終了です。」

「そうか・・・」

目の前に立っている赤い軍服の上に白い白衣を着た少女・・・否、少年に声をかける。

。」

「はい?」

手に持っていた手帳を丁寧に閉じてペンを胸元へ差しながら顔を上げる。
性別を偽って軍で働くこの少女に興味を抱いたのは何時からだろう・・・。

「キミは明日休暇だったな。」

「はい。」

「もう予定はあるのか。」

「一応、ラクスの家をアスランと二人で訪問する予定ですが・・・」

微かに頬を赤らめて嬉しそうに話す彼女の姿が、何故か胸に残る。

「・・・すまないが、明日キミに会ってもらいたい人物がいる。」

「・・・は?」

「私と懇意な付き合いをしている友人でね、キミの話をしたら是非会いたいと言われたのだよ。」

「で、ですが・・・」

「急な話ですまないが一応私の立場、と言うものもあるのでね。」

彼女がどれだけ仕事熱心な人間か私は良く知っている。
私がこう言えば彼女がどちらを優先させるか、と言う事も分かっている。
やがて小さくため息をつくと彼女は苦笑しながら通信機を指差した。

「申し訳ありませんがプラントのラクスへ連絡を入れても宜しいですか?私から連絡をしないと・・・彼女、怒るんです。」

気付かれないよう口元を緩めると、それを隠すかのように両手を組んでその上に顎を乗せる。

「すまんな、折角の休みを。」

「いいえ・・・ですがその代わり、以前取り下げられた休暇届は受理して頂けますよね?」

にっこり笑顔で通信機の前で笑う彼女に・・・あろう事かこの私が視線を外せない。
最近耳に入ってきた噂が事実だと、やはり認めねばならぬかもしれんな。

「・・・分かった、そちらは受理しよう。」

「ありがとうございます。」

ぺこりと頭を下げると彼女は通信機に向き直り、クライン邸への通信回路を開き明日の予定のキャンセルを告げた。










翌日、彼女が運転する車に乗り込み前もって約束をしていた友人宅を訪問した。
しかしその会談は僅か5分で終了し、不思議そうな顔をした彼女の手を引いて今度は私が運転席へ座るとそのまま車を発進させた。

「・・・隊長?」

「何だ。」

「今日・・・私があの場にいた意味は・・・」

私の友人に会うと言う事でかなり緊張していたのか、いつもは少し緩めている軍服の襟元もキチンと止めていた彼女は思案顔で私の様子を伺った。

「キミを紹介する予定だった友人に急用が入ってしまってね。本当だったらあの場にもう一人いたのだよ。」

「あ、そうだったのですか。」

「折角休暇をキャンセルさせてしまったのに、すまないな。」

視線を前に固定したまま謝罪すると、隣で大げさに両手を降る姿がルームミラーに映った。

「いいえ!気になさらないで下さい。隊長と一緒じゃなければこんな高価な車、滅多に乗れませんし・・・。」

座席に置かれているクッションを撫でながら笑う彼女は気付かないだろう。



これらが全て、私の仕組んだ事だとは・・・。



元々キミを紹介する友人なんてものはいない。
今日キミに会わせた人間も、ただの私の部下の一人に過ぎない。
キミが今日の休暇をクライン邸でアスランと共に過ごす、と言うのを楽しそうに話すのを聞いた時から私の胸の中にはありえない感情が湧き出したのだよ。

それが・・・今日の私の行動の源だ。

私の立場はキミの上官、そしてキミの秘密を知る者。
私がひと言キミの秘密を話せば、キミはヴェサリウスどころかザフトにいる事も出来ない・・・身分詐称と言う罪で即座に拘束されるだろう。
それを恐れて・・・と言う事もあるのだろうが、・・・キミは私の言う事には逆らわない。
私はそれを利用しているのだよ。キミが・・・アスランや、他の同僚と一緒に過ごす姿は私にとってあまり楽しいものではないからな。



「隊長?軍へ帰る道と違いますが・・・」

本当にキミの記憶力は大したものだな、随分道筋を変えたつもりだがやはり気付いたか。
ならば私も別の手段に出るまでだ。

「折角の休暇を無駄にさせてしまったからな。さえ良ければ食事でもどうかな?」

「た、隊長とですか!?」

「何か問題があるのか?」

急にオロオロし始めたを見て、運転を手動から自動運転に切り替える。

「それとも私と共に・・・と言うのが気に入らないのかな?」

「そ、そうじゃないんです!!」

「ではどう言う理由か説明してもらおうか。」

視線をさ迷わせていた彼女が、諦めたようにため息をつくと自分が身につけている軍服を指差した。

「隊長がどちらへお食事に行かれるかわかりませんが、私服の隊長と軍服の私では・・・その・・・」

「・・・?」

「・・・つり合いがとれません。」

頬を赤らめて俯いた彼女を見て、自分の甘さを知った。
私とした事が・・・大切な事を忘れていたよ。
キミがれっきとしたレディーだったのだと言う事を・・・。

「・・・隊長、笑ってますね。」

「いや・・・」

「秘書の目は誤魔化せません!隊長が私から視線を逸らす時は大抵笑っている時です!!」

「ほぉー・・・良く見ているのだな、私の事を。」

「そ、それは・・・その・・・・・・本業は医者ですから。人間観察は仕事です!」

握り拳を持って力説するその言葉が妙に言い訳のように聞こえるのは、私がキミに惑わされていると言う証拠かな。

・・・それならば今は騙されておこう。

「では、私が今からキミの服を見立てよう。」

「え?」

「普段頑張っている褒美・・・とでも思いたまえ。」

「ええー!?」

「そこで着替えて食事に行くのならば問題は無かろう?」

「え?いや・・・その・・・でも・・・」

困ったような嬉しいような・・・表情豊かな秘書を持てて本当に私は幸せだな。
軍に流れている私が秘書に甘いと言う噂はどうやら真実になりそうだ。

「だからキミも食事が終わるまで私を隊長と呼ぶのを止めてくれまいか?」

「は?」

「私も久し振りの休日だ。に隊長と呼ばれるとどうも仕事をしている気になってしまってね。」

「で、では何と呼べば?」

キミは本当に私の思い通りに動いてくれるのだな。
そう言う所が・・・私の気に入っている所でもあるのだよ。

「ラウ・・・と言うのはどうだ?」

ニヤリと口元を緩めて隣を見れば、口を開けたまま顔を赤くした秘書・・・ではない、素顔のがいる。

「私もキミの事をと呼べば同じだろう。」

「同じじゃありません!!」

「同じファーストネームではないか。」

「それはそうですけど持ってる意味の重さが違います!!」

赤面したまま必死で抵抗するに苦笑しつつもこの思惑を変える気が無い私は最後の手段に出た。

「それではこうしよう。」

私はいつも執務室で彼女に命令を出す時と同様に彼女の名を力強く呼んだ。

。」

「・・・はっ!」

慣れ親しんだ空気に自然と彼女が反応し、私に向かって姿勢を正し敬礼をした。

「本日20:00まで、私の事を隊長と呼ぶ事を禁ずる。」

「・・・は?」

「返事はどうした。」

「・・・」

「キミは命令に背くつもりか?」

「・・・いいえ!」

「では、これより任務を遂行したまえ。」

自動運転から手動運転に切り替え、少しだけ窓を開けて車内へ新しい空気を入れる。
車内の空気が新しい物に変わったと同時に隣からポツリと呟く声が聞こえた。

・・・ずるいです、隊長。

「それは誰の事かな、?」

「・・・ラウの事です。」

初めてキミの口から聞いた私の名前は、何処か恥ずかしそうな怒ったような感じで・・・とても新鮮な気がしたよ。





さて、次のキミの休暇願いはいつだったかな?





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100のお題からこっそり移行させましたが、コメントは殆ど弄ってません。

あはははっ!権力使いまくり隊長(笑)
アスランに嫉妬して休暇略奪してるよこの人(笑)
あー・・・大人気ない!でもこんな可愛い隊長もいてもいいじゃん!本編腹黒だから(笑)
ちなみにこの後、彼らは高級ブティックで買い物をしてその足で高級店へお食事に行きました。
あ〜いいなぁ私も隊長もとい、ラウと食事に行ってみたいv
人気投票において、隊長ドリが少ないと言うさり気ないコメントで浮かんだ話でした♪