「この私が生誕を祝われる日が来るとはな・・・」

艦を代表して女性オペレーターに貰った花束を片手に部屋へ向かう。
普段ならば常に隣を歩くはずの秘書、は至急入用になった書類準備のため一足先に執務室へ戻っているはずだ。

「しかしこんなに平和でいいのか。」

窓の外を眺めれば深淵にばら撒かれた宝石のような星達が瞬いている。
まるで何の苦しみも知らないかのように輝く星・・・だが、今この瞬間もどこかで誰かがその命を落としている。

「・・・その反面、故意に生み出される命もあるがな。」

ぐしゃりと音を立てて花を握りつぶす。
するとその中にあった薔薇の棘で傷ついたのか、手からポタリポタリと赤い鮮血が床にしたたり落ちた。

「私でも赤い血は流れるのだな。」

不意に緩む口元を引き締め、手に持っていた花束の成れの果てをダストシュートに放り込むと何もなかったかのように執務室へと足を進める。

「私には・・・関係ない。」

口内でそう呟きながら慣れた手つきで執務室の複雑なパスワードを入力し、中へ入ろうとした瞬間・・・反射的に銃へ手を伸ばした。





パン パン パパンッ☆



「・・・

「た、隊長・・・」

彼女のこめかみに押し当てていた銃口の向きを反らし、そのまま元のホルダーへしまう。
部屋の中にははらはらと舞い落ちる紙吹雪と、色テープ。
そして彼女の手に握られているひとつの・・・これはクラッカーか?
てっきり侵入者だと思い押し倒した彼女からゆっくり体を起こすと、目を合わせたまま椅子に腰を下ろした。



――― 一体どういうつもりだ。



「・・・説明して貰おうか、。」

腕を組み、押し倒されたままの体勢で起き上がらない彼女を見つめる。

「立ちたまえ、。」

今まで彼女に対して使った事がない強制の意味を含む声。

は・・・い・・・

今まで医療班としてこの艦で働いていた彼女は、どんな流血や惨事にも慣れているようだがこういった事態は初めてなのだろう。
震える手で何とか体を支え、立ち上がった彼女の顔色は目に見えて青い。
それでも彼女はいつものように私の前までゆっくり歩み寄ると、敬礼の形を取った。



さすが私が見込んだ女性だ、その態度はやはり潔い。



けれどこの事態に関しては納得がいくまで説明してもらわねばならないな。

。事と次第によってはキミの降格処分、または配置換えも考えねばならないが?」

「・・・はっ!」

「理由は説明出来るな。」

落ち着くまで少し時間を与えるつもりでいたが、彼女は敬礼をとくと深々と頭を下げた。

「申し訳ありませんでした!」

「・・・謝罪の言葉は必要ない。」

「で、ですが・・・」

「私が今求めているのは、何故キミがそのようなものを私に向けたのか・・・と言う事だ。」

彼女の手にしっかりと握られているクラッカー。
そういった物がこの艦にあること自体謎だが、まぁ今はそれに関しての追及はやめよう。



・・・私はキミを高く買っているのだよ。
そのキミが無意味な行動に出るようでは私のメガネ違いと言う事にもなりかねない。
私が納得するまでしっかり説明・・・してもらうぞ。



「話したまえ。」

椅子の背凭れに体重を預けると、緊張した面持ちのの顔を仮面越しにじっと見つめる。
その瞳からはどこか戸惑った様子が垣間見えたが、やがていつものまっすぐな視線が私を捉えた。

「私が今回の行動を起こした意味は・・・」

「・・・」

「隊長のお誕生日を祝おうと思ったものですから。」

「・・・もう一度言って貰えるか。」

「え?あ、はい。隊長の誕生日を祝おうと・・・」

「・・・キミは他人を祝う際にクラッカーなどの鳴り物を用いて相手を驚かすのか。」

「いいえ!違います!!」

キッパリ言い切るの目は真剣そのもので、いつも任務の報告をする時の態度と全く代わりがない。

「普段であればもっと周到に用意をするのですが、その・・・隊長の誕生日を知ったのが不覚ながら今朝のミーティングの席だったので、
今の自分に出来る事と言えば・・・これくらいしかなく・・・

次第に声が細くなり、しどろもどろになるを見つめながら口元に手を当てる。

「ほぉ・・・では、先程の行為は善意で行った・・・と言う事かな。」

「はい・・・ですが、上官に対して軽率な行動を取ってしまった事に変わりはありません。本当に申し訳ありませんでし・・・」
「全くだ。」

彼女が再び頭を下げようとしたのを言葉で遮る。

「私の秘書になって随分たつが、キミはまだ私の望む物が分からないのか?」

「・・・私にご用意できる物ですか?」

椅子から立ち上がると、驚愕の表情を見せる彼女の前に立ち、肩に手を置く。

「キミにしか用意出来ない物だ。」

「え?な、何ですか!?私だけ!?」

先程まで上官に対して軽率な行為をとったと顔を青白くしていたの頬に赤みが差す。
そしていつものようにくるくると表情を変え、必死で私の望む物を膨大なデータの詰まった記憶から引き出そうとしている。



やれやれ、その様子では・・・もう少し待たねばならないか。



フッと口元を緩め、そっと彼女の体を抱きしめる。

「隊長?」

「・・・ありがとう。」

「は?な、何がですか?」

「キミは既に素敵な物を私に贈ってくれているのだよ。」

「あの、申し訳ありませんが私は何も・・・」

「この艦で私が仕事をこなす部屋をいつも片付け、手早く資料を準備し、一人で二人分の仕事をしてくれている。」

「・・・」

「そして、ヘタをすれば降格もありえないと分かっていながら・・・自分の出来る範囲で上官である私の誕生日を祝おうとしてくれた。」

「・・・隊長。」

「そんな優秀で思いやりのある秘書を持てた事、それが私にとって一番のプレゼントにならないかな?」

顎に指をかけて上を向かせる・・・その瞳は、感激のあまり涙で微かに潤んでいた。



――― 抱きしめた、とは思っていないのだな、この顔は。



彼女は上官からの賛辞の言葉で胸がいっぱいになっているようだ。
ならば仕方がない。幼い彼女の前では、あともう少し良き上官でいるとするか。

「今後も今まで以上に職務に励み、私の手助けをして欲しい。」

「・・・はっ!!」

「では、キミはここを片付けたら部屋に戻りたまえ。私個人で片付けねばならない仕事がいくつかあるのでね。」

「分かりました!!」

「では行きたまえ。」

「はっ!ですが、その前に失礼致します。」

彼女は手早く自分の机から医療箱を取り出すと、その中から薬品と包帯を取り出した。
そして私が何か言うよりも早く、部屋に入る前に薔薇の棘で傷つけた手を消毒し包帯を巻いた。

「小さな傷でも命取りになりかねません。隊長お一人の体ではないのですから。」

「・・・そうだな。」

「では、私はこれで失礼致します。」

医療道具と散らばった紙吹雪を手早く片付けた彼女は、最敬礼すると今度は振り返る事無く部屋を出て行った。










「全く、私とした事がたったこれしきの事で驚かされるとは・・・」

手元に残った一枚の紙吹雪。

「今まで誰に言われても何も思わなかったのだがね。」



――― お誕生日おめでとうございます。



いつか、キミにも話さなければならないだろう。
私がこの世に生を受けたワケを・・・




「だが、それはキミを私の物にしてからだ。」

手の平の紙吹雪をギュッと握りしめ、視線を外へ向ける。





何の苦しみもなく瞬く星から、ひとつの命が生まれた。





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★ Happy Birthday ★

ラウ・ル・クルーゼ

SEEDが終わってから隊長のお誕生日を祝うってもどうかと思いますが、まぁその辺は気にしない気にしない(笑)
えー、改めましてお誕生日おめでとうございます!隊長!!
結局正確なお誕生日が分からず、どうしようどうしようと思っていたら・・・こんな時期になってしまいました(笑)
だってこれ、書いたのは多分種放送してた頃だもんね(苦笑)
一応種キャラ誕生日には「クラッカーを使う」と言うお約束があったので隊長にも使いました。
今考えると・・・なんて恐ろしい事してるんでしょうね、この人(汗)
今だったら多分、隊長の誕生日話だけクラッカーの存在を無かった事にすると思います。

珍しく隊長がヒロインに対して厳しく出ています。
・・・まぁその気持ちも分からないでもないですが(苦笑)
前半、ちょっと緊迫した空気を感じ取りつつ、行動の意味を知った後、隊長が僅かながらでも喜んでるのが伝われば嬉しいですw
多分、何年か越しの隊長誕生日祝い?ですが、心よりお祝い申し上げます♪
やったー、これで種主要キャラの誕生日話終わったぞーっ!
何となくコンプリートした気分♪
(誰ですか、そこでラスティとミゲルは?とか言ってるのは(笑))