アスランとニコルが今日のシュミレーションについて立ち話をしていた所、その隣を駆け抜けていく小さな影があった。
その人物にすぐに気付いたアスランが声をかける。
「、どうした?」
「ちょっと急用!」
「何処へ行くんです、?」
「隊長の所!!」
「「隊長??」」
一瞬顔を見合わせたニコルとアスランだが、不意にアスランがの手に握られている物に目を止め慌てて手を伸ばした。
「ちょっ・・・!ちょっと待て!」
普段ならばアスランの声にすぐに反応するだが、今は何かに集中しているらしく伸ばされたアスランの手をすり抜けてその場を走り抜けていった。
「一体どうしたんでしょうね・・・。」
「・・・ニコル、今日隊長に何かあったか?」
「え?」
「今朝のミーティング、父上から連絡があって俺いなかったろ?その時何か・・・なかったか?」
真剣な眼差しでニコルに詰め寄るアスラン。
ニコルは今朝のミーティングを回想し、何か思い出したのかポンッと手を叩いた。
「あぁそう言えば今日は隊長のお誕生日らしいです。」
「・・・誕生日?」
「はい、オペレーターの女性が代表で花束を渡していたのを見ましたから・・・」
「そういう事か・・・」
小声でポソリと呟くとアスランは踵を返しの後を追った。
一瞬呆気に取られたニコルだがすぐにアスランの後を追う。
「どうしたんです、アスラン!」
「ニコルはが手に持っていた物を見たか?」
「いいえ・・・何か持っていたんですか?」
「・・・だ。」
「え?」
苦々しそうに呟いたアスランの言葉を聞いてニコルの足がピタリと止まる。
二人はそれを何に使うのか・・・身を持って体験しているだけに肝が冷える。
「・・・まさか、そんな!いくらなんでも相手は隊長ですよ!?」
「にはそんな事関係ないんだ・・・すまないがこのファイルを持って先に談話室へ行っていてくれないか。何とか追いついて止める。」
「分かりました。」
身体能力の高いアスランならばギリギリが執務室へ入る前に止められるかもしれない。
取り敢えずニコルはアスランに言われたとおりファイルを手に談話室へ向かう事にした。
ニコルが談話室に入ると、本を読んでいるイザークと雑誌を顔に乗せソファーで寝そべっているディアッカがいた。
一応今起きている事態を説明しておこうとニコルが簡単に説明するとイザークは驚愕し、ディアッカは頭を抱えた。
「なにぃー!?」
「マジかよ。」
「えぇ・・・今アスランが追いかけているんで、事が起きる前に止められればいいんですが・・・」
「というかニコル!貴様何故足をかけてでもアイツを止めなかった!」
「無茶言わないで下さいよ!僕がにそんな事出来るわけないじゃないですか!!」
「っつーか、マジそれやる気?アイツ・・・」
「僕もアスランにそう言ったんです。相手はあの隊長ですよって・・・そうしたら『にはそんな事関係ない』って言われちゃいました。」
普段なら明るい談笑の声が溢れるはずの談話室の空気が徐々に凍り付いていく。
「で、俺等に話したって事は何か策があるって事か?」
「・・・いいえ、ただこの後事態が悪化してから説明したんじゃ遅いと思ったので先に説明させて貰いました。」
「はぁ?」
あっさりそう言って今まで抱えていたファイルを机に置くと、ニコルはじっと自分が入ってきた扉へ視線を向ける。だがまだその扉が開く気配は・・・ない。
「事態が悪化したらってオレらが何か出来るわけないじゃん。」
「それはそうですが・・・万が一にもがこの艦を降ろされるという事になった時、直訴くらいは出来ますよ。」
「「直訴?」」
「えぇ。」
真剣な眼差しのニコルに思わず言葉を飲む二人。
「折角こうして仲良くなれたんです。最後まで・・・一緒にいたいじゃないですか。」
そう言ってニッコリ微笑むニコルの背後から若干黒い気配を感じ、二人は思わず視線を逸らした。
数分後、談話室の扉が開き中に入ってきたのは・・・アスランただ1人だった。
「アスラン!貴様はどうした!!」
「え?」
「え?じゃない!貴様1人でここに来てどうする!!」
「落ち着けってイザーク!」
アスランの襟首を掴んで今にも殴りそうな勢いのイザークをディアッカが押さえ、二人の間にニコルが入った。
そして一呼吸置いてからニコルがアスランに尋ねる。
「アスラン、追いついたんですか?」
「追いつくには追いついたんだが・・・」
その顔は今までに見た事がないくらい沈んでいて、いきり立っていたイザークが思わず声をかけるほどだった。
「・・・間に合わなかったのか?」
「いや、執務室に隊長は不在だったので間に合ったんだが・・・」
「・・・だが?」
「・・・」
「おいっアスラン!どうした!!」
急に黙り込んだアスランに苛立ちを隠せないイザークが再び暴れだした瞬間、全員の目の前にある物が差し出された。
それは、各自の誕生日を祝う時にが使用した・・・クラッカー。
「・・・取り返せたんですね。」
「じゃぁ問題ねぇじゃん。」
「ふん、取り越し苦労か。」
それぞれが内心ホッとしている所へアスランがポツリと呟いた。
「・・・あと1つをが持っている。」
一瞬の沈黙の後、それぞれが驚愕の声をあげた。
「貴様!なぜ全部取り上げなかった!!」
「取り上げようとしたさ!全部俺に渡せと!」
珍しく声を荒げるアスランにディアッカが苦笑しつつ、再び掴みかかったイザークを押さえに回った。
「コイツが言っても渡さないって事はアイツ随分やる気だな。」
「・・・本当にやるんでしょうか、は・・・」
全員が自分の誕生日の事を思い出す。
は自分に出来る範囲で相手を喜ばせようといつも一生懸命だ。
だが今回は相手が悪い・・・の上官であり、自分達の上官でもあるクルーゼ隊長。
仮面の下に隠された素顔は誰も見た事がなく、無礼を働いた部下や周囲の人間はことごとく何らかの罰を与えられている。
「・・・唯一の救いはが隊長のお気にだってコトじゃん。」
今まで黙っていたディアッカがイザークの手を離し、アスランの手にあったクラッカーを1つ取った。
「よっぽどな事やらない限り、あの隊長がを手離すとは考えらんねぇよ。」
「そう言えばそうですね。」
「普段はドジでバカでマヌケで救いようのないおっちょこちょいだが、アイツの記憶能力と応急処置の正確さは目を見張るものがあるからな。」
そんな事を言いながらイザークもアスランの手にあったクラッカーを受け取り、扉の横に背をつけ大きくため息をついた。
「・・・を信じましょう。きっと大丈夫ですよ、アスラン。」
先程までの黒い気配は何処へやら・・・ニコルも笑顔でアスランの手からクラッカーを受け取り扉のすぐ脇に立った。
「そう、だな。」
きっと今ここにいるのが自分ひとりであれば、誰もが最悪の事態を考えたであろう。
の降格、艦の配置換え、そして ――― との別れ
誰もがそんな事を望んではいない。
希望的観測だが、この場にいる全員が同じ考えを持っていると思うと心強いのは確かだ。
「それはともかく、どうしてクラッカーを扉に向けているんだ?」
「あのバカにやるに決まってるだろう。」
「はぁ?」
「もこれの威力を少しは知っといた方がいいってコト。」
ニヤリと笑いながらクラッカーを扉に向けるディアッカ。
「たまには逆の立場って言うのもいいんじゃないかなぁと思いまして・・・」
先程と変わらぬ笑顔だが、その手に持っているクラッカーはキチンと扉に向いている。
「おい、アスラン!貴様も構えろ!」
「は?」
「オマエもやらなきゃそこがアイツの逃げ場になるじゃん。」
「そうですよ、アスラン。ほらほら早く!」
「・・・」
何故自分がそういう事に巻き込まれているんだろうと思いながらも一人だけ断る事も出来ず、他の3人と同じようにクラッカーを扉に向けるアスラン。
アスランが構えたと同時に、タイミングよく軽やかな足音が談話室に向かって近づいてきた。
「・・・おい、来たぞ。」
「本当にか?」
「だと思いますけど、どうですアスラン?」
じぃーっと3人の目がアスランに向けられ、小さくため息をついたアスランが小声で呟いた。
「この足音は間違いなくだ。」
この後、クラッカーの襲撃をされたは耳を押さえながら全員に怒鳴られる事が確実となる。
ちなみにの罰則は・・・やはりなかった。
ファイルを整理していたら、こんなに可愛らしい赤服の皆様が出てきました(笑)
想像すると可愛くありません?
ドアに向かってクラッカーを構える赤服4名
ほーら、可愛い♪←馬鹿がいる
隊長の誕生日のおまけというか、前説というか…そんな感じです。
ちなみに私は突発的事項に弱いので、こーいう形でクラッカーとかやられると腰を抜かすか固まります。
小心者の固まりみたいなもんですから、私(苦笑)