前を歩く後姿に見覚えがあり、僕は頬を緩ませて名を呼んだ。
「!何処へ行くんですか?」
振り向くと同時に、は笑顔で僕の方へ走ってきた。
そんなに急ぐとまた転んでしまいますよ?
「うわぁっ!!」
ほらやっぱり。
僕は慌てず騒がずいつものようにの小さな体を受け止めた。
「いつもすみません。」
「気にしないで下さい。僕こそ急に声を掛けちゃってすいません。」
「いえ・・・僕がおっちょこちょいだからいつもニコルさんに迷惑をかけて・・・」
一生懸命男のフリをしているが、実は女性だと言う事を僕が知っているなんて・・・彼女は知らない。
「、前も言いましたけど敬称はいりませんよ?」
「いえ!年上の方を呼び捨てにするなんて出来ません!」
真っ直ぐ僕の目を見つめてくれるの目には・・・今は僕しか映っていない。
そんな小さな事がひどく嬉しい。
「それならば僕もアスランを呼び捨てに出来ませんね。」
「え?」
「僕は彼よりも年下ですから、今度から『アスランさん』と呼ばなければいけないですね。」
真剣に腕組みをして眉を寄せて考えたフリをしながら、をさり気なく横目で見ると・・・思った通り、笑いを堪えるのに必死みたいですね。
それでは・・・
「そうなると他の人達は『イザークさん』『ディアッカさん』になるんですね。」
わざとらしくポンッと手を叩くと、もう耐えられないと言うようにが吹き出した。
「あははははっ!や、止めてくださいよニコルさんっ!似合いませんっっ!!」
笑顔の彼女を可愛いと思ったのは・・・これでもう何度目だろう。
「そうですか?結構似合ってると思いますけど・・・」
「ニコルさんはアスランより年下とは言え立派なMSのパイロットじゃないですか。年齢なんて関係ありませんよ。」
その言葉を待っていました。
「それじゃぁも僕の事を『ニコル』と呼び捨てにして下さい。」
「え?ぼ、僕は・・・」
「もこの艦では医療班のトップクラスの人間で、しかもクルーゼ隊長の秘書も兼ねているじゃないですか。そんな人が僕に『さん』付けしている方が何だかおかしいですよ。」
「でも・・・」
困った顔をして俯いてしまったの頭を見ながら僅かな希望を胸に抱く。
本当はこんなのこじ付けだって分かってる。
でも僕は貴女に名前を呼んで欲しい。
「僕がいいって言っても・・・ダメですか?」
駄目押しとばかりに、にっこり笑って俯き加減のの顔を覗き込むと小さなため息をついてが顔をあげた。
「・・・わかりました、ニコル。」
「これからはそう呼んで下さいね。」
僕の名前が彼女の心に刻まれた・・・ふとそんな感情を持ったのは何故だろう。
「それにしてもニコルがこんなに押しが強いなんて僕、思いませんでしたよ。」
他愛無い話をしながらと一緒に医局までの通路を並んで歩く。
それは貴女だから・・・何て気付いてくれる事はないんでしょうね。
「周りの人達が強いから、僕はそうは見えないんでしょうね・・・あ、そうだ。突然話は変わるんですけど、は甘い物好きですか?」
「甘い物?」
今までのキリリとした表情は一瞬姿を隠し、少女らしい表情が垣間見えた。
・・・本当にどうして皆、が女性だと言う事に気付かないんでしょう。
「えぇ母がクッキーを送ってくれたので、もしこの後時間があれば部屋に持って行きますけど・・・」
「あと一時間、勤務・・・の予定。」
時計を見ながら上目遣いで僕を見るは本当に可愛くて・・・通路じゃなくて何処か人目のつかない所だったら抱きしめてしまいたいくらいです。
「それじゃぁその頃部屋に持って行きますよ。いいですか?」
「うん!お茶用意して待ってるね、ニコル!!」
「・・・?」
その時、ちょうど通路の曲がり角から見慣れた人物が僕らに気付いてやってきた。
「アスラン!!」
僕に向ける笑顔とは明らかに違う・・・本当に貴女はアスランが好きなんですね。
「あのねアスラン、ニコルがあとでクッキーくれるんだって!アスランも一緒に食べようv」
「え?」
二人きりでと言うのはまだ無理だったみたいですね。
僕は二人に気付かれないよう小さくため息をつくと、いつものようにアスランに笑顔で話しかけた。
「プラントにいる母が送ってきたんです。あとで部屋に行くので良かったらアスランもいかがですか。」
「それは・・・嬉しいが・・・」
の相手がアスラン・・・貴方じゃなければ、僕はどんな手段を使ってでも彼女を手に入れます。
けれども・・・おかしな事に、僕は貴方も好きみたいなんですよ。
「皆で食べた方が美味しいよ!それにアスランの入れる紅茶はとっても美味しいんだ♪」
「こ〜ら、はそれが狙いだったんだな?」
アスランが苦笑しながらの額を指で小突くと、彼女は額を両手で押さえながら花が咲き誇るような・・・まぶしい笑顔をアスランに向けた。
僕が一度も見た事無いような・・・笑顔。
「当たり!それじゃぁ僕、なるべく早く仕事を片付けて部屋に戻るから!!アスラン、ニコル!また後で。」
それだけ言うと彼女はまるで羽が生えたような足取りで医局へ向かって走って行った。
あとに残されたのは何か考えるような顔をしたアスランと、僕。
僕は母から送られたクッキー以外に何か甘い物は無かったかと、考えながら目の前のアスランに声を掛けた。
「それじゃぁアスラン、1時間後くらいに部屋にお邪魔しますね。」
「あっ、ニコル!」
振り返った僕の目に映ったアスランは・・・ひどく複雑な顔をしていた。
どうしたんですかアスラン?僕、貴方のそんな顔、初めて見ましたよ。
「どうしたんですかアスラン?」
「いや・・・大した事じゃないんだが・・・その、いつから・・・は・・・ニコルの事を、呼び捨てに?」
僕から少し目線をずらして問いかけるアスラン。
それじゃぁまるで心配性なお兄さんか・・・恋人のようですよ。
僕は苦笑してしまいそうな気持ちを抑えて、わざと当たり前のような顔をしてその質問に答えた。
「は年下とは言え今では医局のトップクラスの実力者、その上クルーゼ隊長の秘書でもあるじゃないですか。そんな人に『さん』付けで呼ばれるのがちょっと心苦しくて、僕が呼び捨てにして下さいってお願いしたんです。」
「そ、そうか。忙しい所呼び止めてすまない。」
アスラン、目に見えて安心してますね?
「いいえ。それじゃぁまたあとで。」
「あぁ、待ってる。」
そう言って片手をあげると、アスランは僕と逆方向に向かって歩き出した。
貴方がを大切に思うように、僕もを大切にしたいと思っている。
そして彼女は何よりも誰よりもアスラン、貴方を想っている。
ならば僕はアスラン・・・貴方を決して死なせたりはしない。
たとえ何があっても、の為に、が悲しまないですむように。
初ニコル夢、そして初めての片思い夢・・・そして切ない夢。
これをUPした時点で、まだ私は29話を見ていません。
今までニコル夢を書こうとも思った事無くて、そう言えばそろそろ29話だなぁって思ったら・・・。
最初は普通にヒロインに名前を呼んで貰いたいって言ってるニコルだったんですよ!
あ、ちなみに私の頭の中での彼は、黒又は灰色ニコルです。
(白ニコルも好きですが、アスランがそれに近いので話がかぶるんです。)
それが書いていくにつれイヤ〜な方向に・・・そして最後の台詞。
物凄く自然に出てきた台詞だけに・・・辛かった(TT)本当に。
ニコルが幸せになれるような話を書くつもりが違う方向へ行ってしまいました(TT)
また、何か書きたいなぁと思いつつ・・・今週中には29話を見ようと思います。
暗いまま終わるわけにはいかなかろう!
さて、ここでヒロインのザフト内の地位が確定か!?
医局で仕事をしていてその腕はトップクラス、そしてクルーゼ隊長の秘書もしているらしい。
ニコルより年下なのに?と、お思いの貴女!ザフトは実力主義です(笑)
いいのか?それで?
ちなみにヒロインの男口調手本は、幼い頃のアスラン・ザラくんらしいです(笑)