「クルーゼ隊所属、認識番号No285002 アスラン・ザラ。ラクス・クライン嬢より荷物が届いている。」

「ありがとうございます。」

敬礼をして数枚の書類にサインをしてからその荷物を受け取る。
ザフトへは数日に一回本部から定期便がやってくる。
それは書類の受け渡しから艦内にいる者への荷物の受け渡し等その用途は様々だ。
以前は俺宛に届く荷物など書類しかなかったが、が俺と同室になってからは定期便がやって来る度必ず俺の元へ小包みが届けられる。
その送り主は・・・俺の婚約者であり、をこの艦へ送った人物であるラクス・クラインである。

「えっと・・・今日の荷物も・・・宛か。」

宛名の部分、俺の名前の横にピンク色のペンで丸が書いてあってそこに目のような点が書いてあるのを確認する。
彼女が言うに、どうやらこれは『ハロ』らしい。
つまりこのマーク・・・『ハロ』が書かれている時は、この中身が宛という事だ。





が女の子の身で男性と性別を偽ってザフト軍に入隊した事を知っているのは俺とラクス、そしてクルーゼ隊長だけだ。
今までは誰にも頼らず一人で頑張ってきただけど、今は俺が側にいる。
そしてを男性として入隊させた張本人でもあるラクスも遠くから応援をしてくれている。
しかし俺としては早々にを説得して安全な場所にいて欲しいと言うのが本音だが・・・の性格上それは受け入れないだろう。
女性には女性の必要物資が色々とあって、今まで性別を隠している事から苦労して入手してきた物も今では俺を通じて堂々とラクスから送ってもらう事が出来るようになっても少しは楽になったらしい。

俺は届けられた荷物をの机の上に置いて何気なく机に置かれている本に目をやった。
机の上には様々な医療の本が積まれていて、彼女がどれだけ努力をしてそれらの知識を身につけたのかが手に取るように分かる。
ふとその中に幾つか付箋が立っている事に気付いて何となくその中の一冊を手に取ってパラパラと中を捲ってみた。

「・・・!!」





「アスランただいま〜」

の声が聞こえたと同時に扉が開いた。
俺は慌てて本を閉じるとそれを平積みになっていた本の一番上に乗せの方を振り返った。

「お、おかえり・・・。」

「どうしたのアスラン?顔赤いよ?」

「いや・・・別に・・・。」

「まさか熱!?」

が慌てて駆け寄ると俺の前髪をかきあげて自分の額をコツンと合わせた。
小さい頃、俺が教えた熱の測り方。

「んー熱は無いね。」

「ちょっと疲れたかな。少し休むから誰か来たら起こしてくれる?」

「うん、わかった。」

「あ、そうそう。ラクスから荷物が届いていたから机に置いておいたからね。」

「え?本当?」

ぱっと表情を変えて机の方へ向うのを見てから俺はに背を向ける形でベッドに潜り込み目を閉じた。

(・・・ラクスの荷物が定期的に届く訳だ。)

俺は他へ意識を変えようとしても、どうしてもあの付箋がついていたページに書いてあった言葉が頭から抜けなかった。

(・・・が・・・もうそんな年になっていたなんて!!)

男の俺には縁遠い言葉・・・しかし母が生きていた頃、毎月青ざめた顔をしてベッドで寝込んでいる時期があったことを不意に思い出す。
そんな時は俺もなるべく静かに過ごして、母の体を気遣っていた事も併せて思い出した。

(もっと、気遣ってやらなきゃ・・・)

昔の母を思い出しながらいつしか俺の意識は夢の中へと沈んで行った。















それから数日経って、再びラクスから荷物が届いた。

「婚約者殿はマメだな。キチンと返事、書いてやれよ?」

「はぁ・・・恐れ入ります。」

からかう様な口調で言われながらもいつものように書類にサインをして荷物を受け取る。
今日は珍しく『ハロ』のマークがない・・・って事は俺宛か?
はクルーゼ隊長の部屋の書類整理でまだ戻っていない。
今のうちに中を開けての物も入っていたら分けておくか。

「・・・軽いな。」

ガムテープを剥がしてフタを開けると中には茶色い紙袋に包まれた物が入っていた。
それを箱から取り出すと、衣類なのかやたら軽かった。

「一体これは・・・」

あて先を再び見直すがやはり名前の横に『ハロ』のマークは無い。
という事はやはり自分宛か。再び茶色い紙袋を開けようとした所で部屋の扉が開く音が聞こえ、一旦手を止めた。

・・・」

「きゃぁぁっっ〜〜〜!!アスランダメ――!!」

扉が閉まると同時にが叫ぶと俺が手にしていた茶色い紙に包まれていたものを奪って背中に隠した。

「どうしたんだ?」

「なっ中っ!」

顔を真っ赤にさせて何か言おうとしているが、動揺のあまり言葉になっていない。

「落ち着いて、何があった?」

の肩を叩いて落ち着くよう深呼吸をさせると、今度はキチンと俺の顔を見て言葉を紡いだ。

「この、袋の、中身・・・見た?」

「いや・・・まだだけど。」

目に見えてホッとしたような顔のがその包みを自分の方へ持って行こうとした手を慌てて止める。

待った!それは俺宛に届いた荷物だぞ?」

「え?嘘!!」

「嘘じゃない、ほら。」

俺はついさっきその荷物が入っていた箱の宛先を見せるとも目を丸くして俺と荷物を交互に見た。

「・・・本当?」

「・・・多分。」

俺も自信は無い。
最近俺宛に届く荷物は殆どが宛だ。
だから周りが思うほど俺とラクスの仲が良いと言う訳ではない。
どちらかと言うととラクスの仲がいいのだ。
だから俺宛に荷物が届くなんて事まず考えられない・・・考えられないが、一緒に決めたマークが書かれていないとあっては他人に見られてはまずいものかもしれない。
思わず二人で茶色い包みを見つめ、どちらとも無く相手を見た。
やがて俺は先程使ったハサミと包みを手にした。

「取り敢えず二人で中身を確かめないか?お互いにとって都合の悪いもの・・・という事はラクスからの荷物にはありえないし・・・」

「そ・・・そう・・・だね。」

の視線はやや戸惑っている、と言うより泳いでいる。
小さい頃から見てきたんだ・・・こんな時、は何か隠している。

「何か都合悪い?」

「ん・・・別に・・・。」

ワザと視線を反らして天井を見ているを見て、俺は自然と頬が緩むのがわかった。



・・・本当に変わらないな、は。



俺はハサミの歯の部分を手にして、もち手の部分をに向けると一緒に包みを渡した。

「はい、が開けていいよ。俺は別に困るものなんて無いから。」

「えっ・・・でも・・・」

「いいから・・・開けて?」

「う・・・うん。」

がハサミを手に包みの止められている部分を切ると、ちょうどそこから何か白いモノがこぼれて来た。
反射的に側に落ちたのを拾おうとしたら、が体全体でそれを防いだ。

!?」

「あーっ!!やっぱりコレ私の!!あのっそのっ・・・医局でコットンが無くなって、えっとそんでラクスに頼んだの!あはははっ!」

「あっ!・・・あぁそうか。それは・・・大変だったな。じゃぁそれはの荷物だったって事で・・・えっと、ちょっとラクスへ荷物届いた連絡・・・してくるから・・・」

「は、は〜い。荷物ありがとうって言っておいてねv」

「あぁ」










俺は半ば逃げるように部屋を出て、通信の出来る部屋へ駆け込んだ。
時刻を確認してラクスが家にいる事を確認すると、すぐに通信回線を開いてラクスの家のコードを入力した。

「クルーゼ隊、認識番号No285002、アスラン・ザラ。至急ラクス・クライン嬢と話がしたい。」

「お待ち下さいませ。」

いつもの機械音がいつもと同じ台詞を言っているだけなのだが、待っている時間がやけに長く感じられる。
わずか数秒が数分にも感じられ、若干乱れる映像の向こうにようやく待ち人が現われた。

「アスラン、お久しぶりですわね。お荷物は届きまして?」

「お久しぶりです、荷物は無事届いたんですが・・・その・・・今回『ハロ』を・・・」

相手が男であったなら怒鳴りつける所だが、女性で尚且つ婚約者でもあるラクスに対しては強く出る事が出来ない。
俺は叫びそうになる気持ちを抑えながらラクス嬢の次の台詞を待った。
しかし当のラクスの口調はいつもと変わらぬ穏やかなものだった。

「あら?私書いていませんでしたか?」

「・・・えぇ、書かれていませんでした。」

危うく叫びそうになる声を必死で飲み込み、拳を握り締める事で何とか平静を保つ。

「あぁ!そうですわ。ちょうどハロを書こうとしたらいつも使っているペンが無かったんです。それで後で書こうと思っていた所お父様からお声を掛けられて・・・そのまま忘れてしまったんですわ。」

俺はモニターの前でガックリ肩を落とした。
この人はどうしてこんなに・・・まぁいい。

「何か困った事が起きまして?」

「・・・起きたと言いましょうか、何と言いましょうか・・・。」

アレを俺が見てしまったのは多分まずい事なんだろう。
のあの慌てようからして知られたくなかったと言う事は明白。
だがそれをラクスに言った所でどうなるものでもない。
俺は小さくため息をつくと冷静さを取り戻し、画面向こうのラクスに向っての伝言を告げた。

「すみません取り乱してしまって。こちらは大丈夫です。がいつも荷物ありがとうございますと貴女に伝えて下さいと言っていました。」

画面の中のラクスはいつもと同じ笑顔でにっこり微笑むと小さく首を振った。

「私こそ、こんな事しかできなくて申し訳ないですわ。様に何か不足しているものがあればまたお手紙下さいとお伝え下さい。そしてアスラン?貴方もお体ご自愛下さいね?」

「ありがとうございます・・・それでは、また・・・」

そう言って通信を切ろうとした俺にラクスがニュートロン・ジャマーに匹敵する核弾頭を落としてきた。

「あ、アスラン?毎月初め頃は様を労わって差し上げてくださいね?あの方は結構重いみたいですよ?」

「・・・は?」

思わず口を開いたまま先程と変わらぬ笑顔で手を振るラクスを見つめる。

「その時は体を温めてあげて下さいね?決して腰を冷やさないように・・・とお伝え下さい。それではアスラン、またお荷物送りますわねv」

「ラクス?」

「それでは様にもよろしく。」

「ラクス!!」

俺が呼びかけた声もむなしく通信は強制切断された。
向こう側から切られたので、再び掛け直すのは失礼に当たる。
そのまま力が抜けたように通信室の椅子に座り込むと強制的にラクスによって詰め込まれた情報をまとめ、呼吸を整えてながらこれからどうするかを暫くその場で考えた。

「・・・俺が知っていてもいい事なのか?」

誰に言うでもなくポツリと呟いた言葉は、当ても無く通信室の中に響くとそのまま壁の中へと吸い込まれていった。





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スミマセンごめんなさい!遊びました(笑)
以前に書いていた話なんですが、この話の目的はラクスの誤送(笑)
男装して生活をしているヒロインの為に色々な物を送ってくれるラクス。
しかし彼女の天然が時に事件を巻き起こすって事で・・・一応ラクスとヒロインが友人と言うのは秘密ですから・・・多分(苦笑)今後毎月初め頃、やたらヒロインの体を気遣うアスランが見られる事でしょう♪
つくづく私って苦悩する(しかも他愛無い事)アスランが好きなんだなぁと思っちゃいました(笑)
あ、いつもの通りザフト内の通信手段等は捏造ですよ!信じちゃいけません!!
(そう簡単に通信できたらおかしいだろ!と言う突っ込みは心の中だけでヨロシク(苦笑))

付箋が立っている所に書いてある言葉は・・・まぁ、腐女子の方はお分かりでしょうって事で(苦笑)
お馬鹿なネタでどうもスミマセン(TT)
暗い話(別に暗くは無い筈なんだけど・・・気分的にね)が続いていたので、眠っていたこの作品を掘り起こしてみました。