「・・・ちくしょう!」

「そんなに怒んなよ。」

苛立たしそうに壁を叩き続けるイザークの肩をディアッカが軽く叩いた。

「ちくしょう、ちくしょう、
ちくしょう!!

悔しそうに壁を蹴るイザークを止める事は出来ず、ディアッカはため息をつくと壁に寄りかかってイザークが落ち着くのを待った。





イザークのイライラの原因は今日の模擬戦闘にあった。
模擬戦闘の内容はアスランとニコル、イザークとディアッカがそれぞれ攻撃と防御に分かれ、相手チームを攻略するというもの。今回イザークはアスランの戦略にものの見事にはまり、大敗してしまった。

その為・・・かなり、機嫌が悪い。

そんなイライラを前面に押し出しているイザークの目に、何かを持って嬉しそうな顔でこちらへ歩いてくるの姿が映った。

「・・・飛んで火に入る夏の虫。」

そう呟いたディアッカの言葉など聞こえないは、何も知らずこちらへやってきた。





「おやぁそこにいるのは・・・かなぁ?」

艦内でガンダムのパイロット達と遭遇する確率は医局に属している者にとっては殆ど無い。
それなのに今、医局の人間であるの前には二人のガンダムパイロットが立ちはだかっていた。

「こんにちは・・・今日もお元気そうで・・・」

「元気なワケ無いだろう!!」

どう見ても八つ当たりとしか思えない行動を取るイザークを横目にディアッカはが手にしている物に興味深々だ。

「なぁ、何持ってるんだ?」

「えっあの・・・これは・・・」

ハッと気づいてが手にしていたタッパを後ろ手に隠そうとした所をディアッカに遮られ、それはあっという間に彼の手に渡ってしまった。

「返してください!」

慌てて取り返そうとするをイザークがキッと睨み、その眼光にが一歩引いた瞬間ディアッカがタッパの中身を見て口笛を吹いた。

「おい見ろよ、どうやら食いモンらしいぜ。」

「あぁ?」

ディアッカに言われてタッパの中身を覗き込んだイザークは、何か面白い事を思いついたかのように口元を緩め再びの方を向き直った。

「医局のトップエリートとも言われ、今はクルーゼ隊長の秘書までなさっているがどうしてこの様な物をお持ちなのですか?」

口調は丁寧だが、その目は笑っていない。

「それは・・・その・・・」

「食事は決められた場所で決められた物を食すというのはご存知でしょうに・・・どう言う事なんでしょうねぇ?」

「えっと・・・僕は・・・」

「何をしてるんですか!イザーク!ディアッカ!!」

が声のする方へ振り向くと、ニコルが慌てて走ってきて仲裁に入るように二人との間に立った。

「別に何も。」

しれっと言いのけるディアッカ。

「何も無いのにがこんなに困った顔するわけ無いでしょう。」

を背に庇い二人を睨むニコルの視線からは普段の温和な空気は全く感じられない。
一瞬怯みかけたイザークがニコルの方へ一歩踏み出し、その空気を振り払うかのように大声を上げた。

「お前には関係ない!」

「・・・そうですか。」

ヒュッと言う音が聞こえて胸に刺さりそうな程冷たくとがったニコルの声。
しかしそれも一瞬の事で、の方を振り返って発したニコルの声はいつもと同じ、柔らかな声。

「どうしました。大丈夫ですか?」

((こっの二重人格者!))

とイザークとディアッカは思ったが、声に出す事は無かった。

「大丈夫です。何ともありません。ニコルこそ僕に用事ですか?」

「いいえ、の声が聞こえたのでちょっと寄ってみたんです。」

「そうですか・・・そうだ!この間はおいしいお菓子をありがとうございました。」

ペコリと頭を下げてにっこり笑うを見てニコルも嬉しそうに笑った。

「僕もおいしいお茶を頂けて嬉しかったです。またお邪魔してもいいですか?」

「是非!」

談笑している二人を余所に何処かつまらなそうにたたずむ人が約二名。
イザークは目に見えてイライラしているし、ディアッカは手にした物をどうしようかと思案顔。
やがて無視され続ける事に切れたイザークが思い切り壁を叩いた音でとニコルが振り向いた。

「無視するんじゃない!」

「別に無視なんてしていませんよ。イザークは別にと話をしていたワケじゃないでしょう?」

「先に話していたのは俺だ!!」

普段弱く見える人間のはずが、どうしてこんなに強いのか・・・逆に普段強気な人間がどうしてこんなに押されているのか・・・ディアッカは興味深げに二人の様子を眺めていた。

あくまで自分は傍観者に徹するつもりらしい。



しかしそれも僅かの間だけだった。
ニコルとイザークが何やら話をしている間に、は恐る恐るディアッカに近づくと小さな声で話しかけた。

「あの・・・ディアッカ、それを返して頂きたいんですが。」

「ん?あぁこれか。」

手にしていた物の存在をすっかり忘れてニコルの変貌振りを眺めていたディアッカはそれをの手にあっさり返した。

「ほらよ。」

「あ、ありがとう・・・ございます。」

自分の手に戻ってきたタッパとディアッカの顔を交互に眺めていると、ディアッカはため息をついてを見た。

「俺の顔に何かついてる?」

「いえ・・・ただ、すんなり戻ってきたのが不思議で・・・」

「返さない方がよかった?」

「いえ!そんな事は!!」

「ほんじゃ、お礼として今度最新の雑誌でもオレの部屋に届けろよ。」

「雑誌・・・ですか?」

「隊長の秘書だったら多少の融通聞くだろ?」

「・・・わかりました。善処します。」

ディアッカの申し出を苦笑しながら受けたを見たイザークとニコルが二人の間に飛び込んできた。

「何談笑してるんだ!(ですか!)」

「別に大した事話してないぜ、な、?」

「え?あ、はい。」

隊長の秘書と言う肩書きを利用して自分の要求を受け入れさせようとしている事は大した事ではないのかどうかは不明だが、今の彼らにはそんな事関係ないのかもしれない。

「そもそも!お前が規律を乱して食べ物を持ち出しているのが悪い!」

が理由も無くそんな事するはず無いでしょう!何か理由があるに決まってます!!」

「理由があれば何してもいいのか!」

「理由も聞かず怒鳴ればいいというのも筋違いじゃないですか!!」

「で、。ホントの所どうなんだ?」

いい加減この場が面倒臭くなってきたディアッカが、壁に凭れかかりながらの顔をチラリと見た。
ひどく困った顔をしてはいたが、自分が原因と言う事は明白なので諦めたように手にしている物について話し始めた。

「その・・・最近・・・元気なくて、好きな物でも食べれば元気になるかと思って厨房をお借りして僕が・・・その、作りました。」

がですか?」
「男のクセに何をやっている!」
「手先の器用なヤツだな、ホント。」

三者三様の反応の後、気になったのはその手の中の物の行方。
それを問い詰めようとした所に、ザフトのエースパイロットである少年の声が聞こえた。

「皆そんな所で何を・・・?」

「アスラン!」

その時のの表情は普段とは全く違い、男だと分かっていても妙に可愛らしく彼らの目に映った。
手にしたもののフタを開けながら慌ててアスランの方へ駆け寄ろうとしたは、イザークの足に躓いてそのまま転んでしまった。

「「!!」」

慌てて駆け寄ろうとしたニコルとアスランの目に映ったのは・・・床に転がったフタの開いたタッパと零れてしまったその中身。

「あ〜あ」

「お、俺のせいじゃないぞ!コイツが勝手に転んだんだ!!」

イザークはただ通路の真ん中に立っていただけで、が勝手にぶつかって足を絡めて転んだ・・・イザークに非は全くないはずなのだが、場の空気からそう言わずに入られない。
真っ青な顔で床に座り込んだの前に、一足早く我に返ったアスランが声を掛けた。

「怪我は無いか?」

「・・・せっかくアスランの為に作ったのに・・・」

「俺の?」

こくりと頷くとアスランの軍服をしっかり握り締めた。

「アスラン最近元気ないから・・・これ食べて元気になってもらおうと思って・・・」

ニコルが床に落ちてしまったタッパをアスランの前に差し出す。
その中に唯一残っていた物を見てアスランは胸が締め付けられる気がした。



それは・・・ロールキャベツ。



「・・・ニコル、すまないが何処からか清掃用具を借りてきてくれないか?」

「わかりました!」

タッパをアスランの手に渡すと、すぐにニコルは通路を駆け出して行った。

「ごめん、僕・・・いつもアスランに迷惑かけて・・・」

「そんな事ないよ。」

そう言うとアスランはタッパに唯一残っていたロールキャベツをひょいっと手で摘んで口に運んだ。

「アッアスラン!?」

大きな目を更に大きくして目の前の幼馴染であるアスランの顔を凝視する。
床に落ちてはいないが、落ちた物の残りを口にするアスランをその場にいた全員が驚きの表情で見つめる。
そんな周囲の驚きを無視して、アスランはもぐもぐと口を動かすとロールキャベツを飲み込んだ。

「美味しかったよ。ご馳走様。」

そう言っての頭を撫でている所へモップとバケツを持ったニコルが戻ってきた。
俺達は関係ないからな!と言って去って行ったイザークとその後を追ったディアッカ以外の三人も手早くその場を片付けるとそれぞれの部屋に戻った。















アスラン&部屋



「相変らず何もない所で転ぶんだな、は。」

「だって早くアスランに食べて貰いたくて急いだんだもん。」

フグのように頬を膨らませているの膝にアスランは絆創膏を貼った。

「本当に美味しかったよ。何だか・・・懐かしい味がした。」

「ホント?それじゃあまた今度作ってあげる!」

そう言ってガッツポーズをしたの手には小さな切り傷がいっぱいあって・・・そんなが愛しくてアスランはそっとその体を抱きしめた。

「・・・楽しみにしているよ。」















ニコル部屋



の手料理・・・食べ損ねちゃいましたね。」

部屋に戻ってベッドに寝転がりながら、が手にしていたタッパの中身を思い出す。

「あれは・・・以前アスランが言っていたロールキャベツと言うものでしょうか。」

ヘリオポリスからガンダム奪取の任務を受けてからアスランの様子がおかしい。
僕が気付くくらいだからはとっくに気付いていたに違いない。
そんなアスランを元気付ける為に作った物を分けて貰おう何て言うのはずうずうしいかもしれないけれど・・・。

「好きな人の手作りの物を欲しがるのは・・・しょうがないですよね。」

今度アスラン達の部屋へ行った時ににお願いしてみましょうか・・・アスランと一緒で構わないから僕にも食べさせて欲しい・・・と。















イザーク部屋



「くそっ!」

何であの時俺はアイツの事を可愛いなんて思ったんだ!
アイツはあのアスランの幼馴染で、家柄でいえば全く釣り合いの取れないヤツなんだ!
まぁ別に俺はそんな事気にはしないが・・・って・・・

「違う!!」

アイツは男なんだ!男で、医療班のエリート・・・手際も良く、頭の回転も速い。
記憶力に関しちゃヘタすると俺達よりもいいかもしれない・・・そしてそれを見込まれて今は隊長の秘書も兼務している・・・案外出来るヤツで、笑顔が可愛い・・・

「だから違う!!断じてそんな事は思ってない!!」

アイツは男なんだ!そんなヤツを可愛いなんて、思ってなんて・・・

「俺は何を考えてる!!」

その日一日、イザークの部屋からは壁を殴りつける音と、奇声が絶えなかったそうだ。















ディアッカ部屋



「本当にあいつ等は分かりやすいな。」

が女だなんて、その体に触れてみりゃ一目瞭然。
だからって他のヤツに教える義理は無い。例えそれがイザークだとしてもな。

「隊長は気付いてるとして、他に気付いてるとすりゃ・・・アスランか?」

ラスティが戦死して暫く一人部屋だったアイツが急に同室者にを迎えた辺りが怪しい。
恐らくが女だって事を知ったアスランが隊長に進言して同室になったんだろう。

「そうじゃなきゃアスランがヘンなかかわり持つはずないだろうな。」

枕元にあった雑誌を何気に手に取るとページをめくった。
あるページで一瞬手を止め、そこに写っている写真をじっと眺める。

「アイツも軍服じゃなくてこう言うの着たら結構いいオンナの部類に入るんじゃねぇの?」

誰に言うでもなく呟くと、ディアッカはそのまま雑誌を床に投げ捨てた。

「ま、俺には関係ない・・・か。」





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スーツCDでアスランがロールキャベツが好きと言うのを聞いた時から決まっていたタイトル。
いつか書いてやる!と思っていました・・・が、タイトル通り内容はギャグ(笑)
今の所、ヒロインの性別を自他共に知っているのは隊長とアスランです。
ニコルとディアッカは気付いているけど口にしていません。
イザークは・・・見ての通り気付いていません(笑)彼だけ気付いていない為苦悩しています。
ザフトパイロットの4人を一緒に、しかも全員台詞有で書くのは初めてです。
おかしな所があったら・・・海のように広い心でお許し下さい(おいっ)
ちなみにこの話には後日談がつきます(笑)
そっちにはチラリと隊長もでますので、もう暫くお待ち下さい。