艦内の厨房でどこから見つけてきたのか、新婚の奥さんが身に着けるような可愛らしいフリルいっぱいのエプロンを身につけてロールキャベツを作るを見ながら、アスランはふと厨房の片隅に置いてある大量のキャベツが入ったダンボールに目を止めた。
「、このキャベツは・・・元々艦内にあったのか?」
「え?」
「いや、こんなに大量のキャベツどうしたのかと思って・・・」
「え・・・えっと、アスランこれ取れる?」
がエプロンのポケットからはみ出ているピンク色の封筒を指で指してピョンピョンその場に飛び跳ねた。
ひき肉を扱っている所為で両手が汚れてしまっていて取れない事に気付いたアスランがそれを取り出してに差し出した。
「これ?」
「うん。ラクスからの手紙。」
「ラクスから?」
「読んでみて。」
「あ・・・あぁ。」
そう言うとは再びロールキャベツの作成に入り、アスランは厨房の隅にある椅子に腰掛けて手紙を開いた。
「何ぃ―――!?」
アスランが読んだラクスからへ当てた手紙の内容は以下の通りである。
様
お久しぶりです。お元気でいらっしゃいますか?
先日ご連絡頂きました[キャベツ]の件ですが、この間外出した折に見かけましたので
そちらへ送って頂けるよう手配いたしました。無事届きましたかしら?
ただ私には[ロールキャベツ]と言う物を作る際に[キャベツ]がどれくらい必要なのか判断がつきませんでしたので、
取り敢えずその場にあった物を全て送らせて頂きました。
もし足りないようでしたら後日お送り致しますので遠慮なく仰って下さいね?
それから私のお古で申し訳ないのですが、様に似合いそうだと思った服を送らせて頂きます。
宜しければアスランとご一緒の際着てみて下さいね。
きっとお似合いだと思いますわv
それでは皆様の御武運をお祈りしております。
ラクス・クライン
「ラ・・・ラクスがこの大量のキャベツを?」
「うん。だから今日、明日の夕食はキャベツ料理になると思うよ・・・多分。」
厨房を冷たい風が流れていく。
どちらともなく引き攣った笑顔を見せると、アスランは着ていた軍服を脱いで椅子に掛けると腕まくりをした。
「アスラン?」
「僕も手伝うよ。多めに作ってニコル達にも配ってやろう。」
「うん!それいいね!!」
「教えてくれる?」
「うん!!中身はいっぱいあるから・・・」
久し振りに笑顔を見せてくれたアスランが嬉しくて、は大はしゃぎでアスランに茹でたキャベツの葉を渡して包み方を教えた。最初は苦労していたアスランだが、元々指先が器用なのであっという間にマスターし、短時間で6人分のロールキャベツを作る事が出来た。
「料理って言うのは結構重労働なんだな。」
「それをお母さん達は家族の人数分作ってるんだよね。」
「女の人は大変だな。」
両手を洗ったアスランが額の汗を拭いながら苦笑した。
それを見てやはり手を洗い終えたが、指を横に振ってアスランの答えを否定した。
「確かに料理を作るのは大変だけど、喜ぶ顔を見せてくれたり美味しいって言ってもらえればその苦労は報われるんだよ?」
「そういうものなのか?」
「うん!だってあたしアスランが美味しいって言ってくれた時、凄く嬉しかった!手、切ったり火傷したりしたけどそんなのぜーんぶ飛んでっちゃうくらい嬉しかったよ!!」
「・・・そうか。」
「だからアスランもちゃんと感想言ってね?美味しくても不味くても・・・そうすればあたしいくらでも何でも作るから!」
棚からお皿を出して並べながら笑うはとても可愛くて、自然とアスランは頬が緩んでしまった。
最近沈んでいた気持ちがあっという間に浮上する。
「は本当に凄いな。」
「何が?」
「俺の知らない事を教えてくれる。」
「そんな事ないよっ!アスランの方がいっぱい知ってるじゃない!」
「・・・そんな事ないよ。」
に近づいてその頭に手を置いて撫でる。
「ありがとう、俺の為に・・・」
「アスラン・・・」
久し振りのアスランの笑顔を見ては目頭が熱くなるのを感じた。
アスランが・・・笑ってる。
しかしその感動も束の間、厨房からの物音を聞きつけたのか匂いを嗅ぎつけたのかは不明だが何時の間にかニコル達が厨房の扉から顔を覗かせていた。
「二人とも何をしてるんですか?」
「「ニコル!」」
慌てて離れるとニコルの後ろからイザークとディアッカの声も聞こえた。
「邪魔だぞニコル!」
「おっ美味そうな匂いじゃん。」
「「イザーク?ディアッカ?!」」
雪崩のように中へ入ってきた三人を見てとアスランが同時に吹き出した。
「何を笑っている!」
「いや、ちょうどイザーク達を呼びに行こうと思っていた所だったんだ。」
「そうなんです。ちょうど出来上がった所なんですけど、宜しかったら召し上がりませんか?」
は口調をいつものような男性口調に素早く戻すと、目元を拭いながら席を勧めた。
「なっ何故俺達が・・・」
エプロン姿のを見て少し頬を染めたイザークが踵を翻そうとした横をニコルとディアッカが通り過ぎて行った。
「ちょうど腹減ってたんだ。サンキュー」
「僕も手伝いますよ、これ運べばいいんですね。うわぁ〜手料理なんて久し振りです。」
「練習したから味は大丈夫だと思うんだけど・・・」
「の作った物がまずい訳ないですよ。」
にっこり微笑みながらお皿をテーブルへと運んでいく。
全員が席に着くとただひとり入り口に立ち尽くしていたイザークへと視線が集まる。
「イザーク?」
「無理にとは言わないが、折角が作ったんだ・・・一緒に食べないか?」
「食わねぇのか?美味そうだぜ?」
「いらないんなら僕お腹空いているのでイザークの分も食べますよ?」
「・・・誰が食べないと言った!」
ずかずか音を立てて歩いてきたかと思うと勢い良くディアッカの隣の席に腰を下ろした。
「それじゃぁいただきます。」
「「いただきます」」
「・・・挨拶、必要か?」
「知るか!」
目の前で揃って挨拶をして頭を下げるアスラン達の様子を見たディアッカがポツリと呟き、イザークは皿を持って以前横を向いたまま正面を見ようとしない。
彼の正面に座っているのは他の誰でもない。
ロールキャベツを作ってくれた・だったのだ。
皆が賞賛して食べてくれたロールキャベツの最後の一人分を再度温め直すと、は洗い物をアスランとニコルに任せて調理場を出た。
そのまま廊下を進んである部屋の前に着くとエプロンからカードキーを取り出して差し込み、ゆっくりと部屋の中へ足を進めた。
「失礼します、隊長。」
「・・・君か。どうした、急用か?」
書類を書いていた手を止めて顔をあげると、いつもの軍服の上に可愛らしいフリルのエプロンを身に着けた自分の秘書がトレイの上に何か食べ物を持って立っていた。
「本日はお休みを頂きましてありがとうございました。」
「無事に任務は果せたのか?」
「はい。納得のいく物が出来ましたので是非隊長にも味わって頂けたらと思いお持ちしました。」
「・・・そうか。ではそこへ置いておいてくれ、この書類がひと段落次第頂こう。」
「はい。」
は言われた場所へトレイを置くと、再び気をつけの姿勢を取って隊長へ礼をした。
「それでは失礼致します。」
「。」
「は!」
「・・・それは役立ったかね?」
楽しそうに口元を緩めて笑うクルーゼを見て、は僅かに苦笑した。
「服を汚さず助かりました・・・が、できればもう少し機能性のある物をお借りしたかったです。」
「仕方なかろう。急に必要と言われて用意できるものではない。また何かあれば言いたまえ。」
「はい、それでは失礼致します。」
今度こそキチンと礼をし、はそのまま隊長の部屋を後にした。
書きかけの書類を机に置いて、が置いて行ったトレイに近づきフタを開けるとまだ温かい湯気の立つロールキャベツが中から出てきた。
「・・・たまにはいい。」
部屋の鍵をロックすると、仮面を外してスープを一口口に含んだクルーゼが優しい笑みを浮かべた事は誰も知らない。
後日談と言うタイトルのわりに長い(笑)
ラクスが送ってくれた大量のキャベツvって事を言いたかったのに何時の間にかこんなになってしまいました!!
えっと本当は皆がロールキャベツを食べるシーンも書きたかったんですが、長くなりそうだったので挫折(TT)
ここでの問題は隊長は何処からフリルのエプロンを入手したのか・・・に尽きるでしょう(笑)
自分で書いてて何ですが、首捻ってます。
あーでも最後の隊長の台詞も実は謎です(おいっ!)
さて、彼は何を思って「・・・たまにはいい」と言ったのでしょう?
@温かい食事
A女性の手料理
B秘書の新妻エプロン姿(笑)
正解は・・・分かりません(おいおい)貴女なりの回答思ってお楽しみ下さい(逃)