「。」
「アスラン!」
書類を抱えてカガリの部屋へ向かおうとしていたあたしの前にアスランが立っていた。
「戻ってたの?」
「あぁ・・・それ、カガリの所に持っていくの?」
「うん。代表のサインが必要なんだ。」
「持つよ。」
そう言うとアスランが何も言わずに書類の束を半分持ってくれた。
「ありがとう。」
笑顔でお礼を言ったのに、アスランは何も言わずにスタスタと先に歩いて行ってしまった。
何か急ぎの用事でもあるのかと思って慌てて後をついていくと、既にアスランは部屋の扉を開けて待っていてくれた。
「ご、ごめんなさい。」
「・・・いや。」
部屋に入るとカガリの姿は無く、ただアスランが半分持ってくれていた書類がデスクに置かれていただけだった。
「あれ?カガリ・・・じゃなくて代表は?」
一緒に帰ってきたのなら部屋にいると思ったのに、どこに行ってるんだろう?
それを尋ねようと振り返った瞬間、強引に腕を掴まれ体が反転した。
「!?」
そしてそのまま両肩を掴まれ、カガリの机に押し倒される。
「ちょっ・・・」
「・・・これ、本当?」
「は?」
そう言ってあたしの体を押さえつけたままアスランが示した物に視線を向ける。
それはオーブで発行されている大衆週刊誌のページを破いた物。
「何?それ。」
「オレがカガリに付き添ってオーブを離れてる間、誰と会ってた?」
「会う?」
普段滅多に聞く事のない、アスランの怒りを必死で抑えるような低い声。
知らないうちに背中を冷たい汗が流れる。
けれどアスランは強張った表情のまま、机に押し倒されたままのあたしの耳元にそっと囁いた。
「・・・議員の息子に、声かけられて嬉しかった?」
「・・・」
ようやくアスランの怒りの原因が見えた。
「あれはキサカに頼まれて・・・」
「頼まれれば夕食を共にするのか!」
「違うよ!あの席には・・・」
・・・キサカも同席していた。
そう続けるはずだった声は、アスランの唇に塞がれて消えてしまった。
「アス・・・」
アスランの肩を押し返して、僅かに自由になる唇から声を発しようとするがアスランはそれを許してくれない。
「っ・・・」
押し返していた手を片手で押さえ込まれ、もう片方の手で顎をしっかり掴まれる。
こんなに強引なキスをアスランから受けるのは初めてで、相手が大好きなアスランなのに体が震える。
「・・・ン・・・っ」
少しでも離れた心を取り戻そうとするかのように、全てを吸い尽くすような熱い・・・キス。
アスランの唇が離れると、あたしは自然と大きく胸を上下させて肺に酸素を取り込んだ。
あまりに長いキスに目の前がクラクラする。そんなあたしの様子を見ながらもアスランの視線はまだ厳しい。
何とか呼吸を落ち着かせて、カガリの机から起き上がるとあたしはさっき飲み込まれてしまった台詞をもう一度口にした。
「あの場にキサカも・・・いたの。」
「・・・」
「議員は最初カガリを、代表を食事に誘うつもりだったんだけど代表が急な用事で出席されなかったからあたしとキサカが代理で向かったの。」
「・・・キサカ一人で充分だろう。」
「あたしが担当しているプロジェクトの出資者でもあったの・・・彼。」
「・・・」
「だからお詫びと現状の報告も兼ねて、キサカに同席させて貰ったの。」
アスランの表情から怒気が消え、変わりに後悔の色が浮び始めた。
「・・・だから、その写真はキサカが席を外した時に撮られた物だと思う。ほら・・・グラスが3つあるでしょう?」
「あ・・・」
「・・・気付かないほど慌ててくれたの?」
ぎゅっとその記事を握りしめて唇を噛み締めたアスランは、やっぱり愛しいただ一人の男性で・・・あんな事されたのに、嬉しいと思い始めている自分がいる。
だって、あの余裕のないキスは・・・嫉妬から来るものだったんだよね?
「嫉妬した?」
「・・・あぁ。」
「誰に?」
「この・・・男に。」
「あたしが好きなのは、月にいた時からずーっと・・・アスランただ一人だよ?」
「・・・」
「アスラン・ザラ、ただ一人を・・・愛してる。」
「・・・」
ようやく顔をあげたアスランは何だか叱られた子供みたいな顔をしていて、それが何だか凄く可愛く見えて、カガリのデスクに座ったまま身を乗り出してアスランの頬にキスをした。
「たまにはいいね、強引なアスランも。」
「・・・オレは嫌だな。」
「じゃぁ今度はあたしがやろうか?」
「いいよ、はそのままで。」
苦笑したアスランの様子にホッと胸を撫で下ろした瞬間、勢い良く扉が開いたかと思うとアスランの後頭部に大きな本がぶつかった。
「アスラン!?」
そして部屋に響く怒鳴り声。
「貴様ら!ここは一応私の執務室だぞ!何をしてる!」
「「カガリ!!」」
「防犯システムが働いているのを忘れたのか!アス・・・じゃなくてアレックス!」
カガリの言葉に思わずアスランと顔を見合わせる。
「「まさか・・・」」
同時にカガリに視線を向けると、何故かカガリは顔を真っ赤に染めて目を合わせてくれない。
嫌な予感が脳裏を横切り、後からやってきたキサカが告げたひと言がそれを確信へと変えた。
「・・・この部屋の防犯システムのデータは別に保存させた。」
「やっぱり・・・」
あたし達に背を向けていたカガリが部屋の扉がしっかり閉じられているのを確認してから再び声を張り上げる。
「取り敢えず!机から降りろ!そこは仕事をする場所だ!」
「ごっごめんなさい!!」
それから暫くの間、あたしとアスランが二人でカガリの執務室を訪ねる事は・・・なかった。
2. 余裕のないキス
あははははははっっっ(爆笑)
これに関してはコメント出来る!(笑)
一般大衆誌に未来の妻と見知らぬ男の写真が載ったのを見て嫉妬するアスラン!
普段は冷静に物事を見るのに、焦る余りグラスの数に気付かなかったアスラン!
本当に好きな相手に対しては独占欲が強いんじゃないかと言うか強いといいなぁと思っているので、こんな話になりました。
よくよく考えれば・・・何してんでしょうね、この人(笑)
職場だぞ?しかも上司の部屋。戻ってきたらどうするつもりだったんだ(笑)
まぁ何かを察したカガリがキサカに言って、即座に防犯システムを別データに保存させて落ち着いた頃に怒鳴り込んできたって所かな。
だから多分投げた本はアスランがオーブに来て最初に渡された『オーブ規約』みたいな本?
やたら細かく書かれてて分厚いヤツ!
「それをもう一度読み直せ!」と言う意味でしょうね。
内容はとんでもないのにオチで真っ赤になって怒鳴るカガリが好きだ!!可愛いなぁ(笑)