2.恋の病






高耶の部屋でのんびりお茶を飲みながらゲームをやっている彼の背中にポツリとある言葉を呟いた。

「・・・もうすぐあたし、死ぬかもしれない。」

「はぁ?」

ドッカーン とゲームの中の機体が爆発する音が部屋に響いた。
あれ?さっきあと千点で最高記録突入!って言ってたのに失敗しちゃったじゃん。
けど高耶はそんな事気にもせず、珍しく真面目な顔であたしを見ている。

「・・・今、何て言った。」

「え?あぁ、もうすぐあたし死ぬかもしれないって・・・」

そう言った瞬間、高耶が机に置いてあった携帯電話を手に取り上着を羽織った。

「出掛けるの?」

「ったく、なんでお前はギリギリまで黙ってんだよ!」

「は?」

「病院にはもう行ってんだろうな!」

「え?いや、最近は・・・」

「譲に・・・あーっあそこは歯医者だ!この辺のでかい病院は・・・」

ブツブツ呟きながら何か思いついたように部屋の隅に放り出していたタウンページを広げ始めた。
高耶の奇怪な行動の意味が分からなくて、一心不乱にタウンページをめくる彼の側に腰を下ろした瞬間その手が一点を指差した。

「・・・今からでも診療時間、間に合うな。行くぞ!」

あるページを乱暴に破ってそれを上着のポケットにねじ込むと、座っていたあたしの手を掴んで立ち上がる。

「ど、どこ行くの?」

「病院に決まってんだろうが!」

「なんで?」

キョトンとした顔でそう告げると、高耶が唖然とした表情でこっちを見た。
そして大きくため息をつくとあたしの肩をしっかり掴んでまるで心の奥底を覗き込むかのようにまっすぐな目であたしを見る。

「・・・ちゃんとついててやるから。」

「何が?」

さすがにここまで会話が噛み合わないとおかしいと思い始めたのか、高耶は頬を引きつらせながらゆっくり確認するかのように言葉をつむいだ。

「・・・もうすぐ死ぬかも、って言ったろ?」

「うん。高耶の事が好きで好きで、これ以上好きになったら死んじゃうだろうなぁって思って。」

「・・・」

「お医者様でも草津の湯でも治せぬ恋の病ってヤツ?」

昔の人は上手い事言うよねぇ・・・って言った瞬間、あたしの頭に拳骨が降ってきた。

「・・・っ」

「紛らわしい事言ってんじゃねぇよ!」

「え?え?」

「てめぇが・・・本気で死んじまうのかと思ったろうが!」

「・・・高耶」

「あーっっくそ!」

あたしがなんともない事を知っての叫びなのか、それとも勝手に勘違いして空回っていた自分への叫びなのか分からないけど・・・これ以上あたしの胸を締め付ける行為はないだろう。
想いを押さえ切れなくて、思わず高耶の背中に飛びついた。

「高耶大好き!」

「知るか。」

「こんな病気なら一生治らなくてもいい!」

「遠慮なく治して来い!」

「えーっヤダーっ!」

「あーもー離れろよ!今度ゲームの邪魔したらぶっ殺すぞ!」

「高耶に殺されるなら本望だもん♪」

ニコニコ笑って高耶の背中にぎゅーっと抱きついてると、高耶がその手をぽんぽんと叩くと同時に振り返った。

「・・・お前、ほんっっとうにバカだな。」

いつもと同じように『バカ』って言ってるけど、その顔は笑顔で温かい。
ゆっくり腕を解いて目を閉じれば、高耶が小さな声で「ばーか」って言った。





そしてそっと重ねられた唇
高耶のキスは、この病気の大切な大切なお薬
プラセボとは違う、効果絶大の薬

だから側にいて、いつでも手の届く所にいてね?
あたしの専属のお医者さん。





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