3.恋の敵
「円ちゃん、今度の日曜日あいてる?」
「今度・・・あーゴメン。GSGが入ってる。」
「そっか・・・」
あたしはカバンから取り出そうとしていた物をそのまま握りつぶして、空になった手だけ出した。
「突然連絡が来て、日曜日迎えに来るって言われて・・・」
「しかたないよ。円ちゃんにしか出来ない事だし。」
その円ちゃんにしか出来ない事の為に、何度デートを潰されたろう。
あぁそういえばこうして円ちゃんと二人っきりで話をするのも・・・一ヶ月ぶりくらい?
いつも途中で着ぐるみウサギとか可愛い小さい女の子とかに邪魔されるんだよね。
思い出せばどんどんどんどんムカついてきて、自然と眉間に皺が寄り始める。
そんなあたしの気分を落ち着かせるようにタイミングよく頭を撫でてくれる優しい手。
「アイスティ、いれたげよっか。」
「・・・うん。」
それがあたしの彼氏、堤円。
「ちょっと待ってて。」
「ゴメンね、折角のお休みなのに。」
「何言ってんの。講義サボって会いに来た人が。」
一瞬部屋を沈黙が支配し、すぐ後にあたしの悲鳴がこだました。
「やだっ!何で知ってるの!?」
「だって、うちの冷蔵庫に時間割張ってるじゃん。」
「あ゛」
円ちゃんが大学の講義の時間割表を無くしたって言ったから、あたしのをコピーしてあげたんだっけ・・・そういえば自分の出る講義に○してあったよね、あれ。
「単位平気なの?」
「うん。一応代返頼んできたし・・・」
「俺には授業に出ろ出ろ煩いのに。」
「だって円ちゃんいっつも津田くんに任せっぱなしじゃない!あたしは普段真面目に出てるもん。」
入れて貰ったアイスティを両手で持ってストローを口にくわえたままそっぽを向く。
「俺だって真面目に出てるさ。」
「教科書の隅に落書きしてるのは真面目って言わないの。」
「あれは津田に貸した時にやられたんだよ。」
「じゃぁ普段はちゃんとノート取って授業聞いてるの?」
じっと円ちゃんの目を見つめてそう尋ねたら、わざとらしく視線を外された。
「円ちゃん?」
「・・・」
「円ちゃん?」
「・・・」
「堤円っ!」
「あははははっ!ま、俺の事は置いといて・・・」
「置くなーっ!」
ダンッと机にアイスティのグラスを勢いよく置いた瞬間に、アイスティがこぼれた。
「うわっ。」
「あータオルタオル。」
「ゴメン円ちゃん!」
「いいって。洋服汚れてない?」
「うん。」
さっきまでの言い争いはどこへやら、二人でテーブルを拭いて片付け一息ついた瞬間同時に吹き出した。
「ホンット、はすぐムキになるよね。」
「円ちゃんがそうさせるんだよ。」
「だってムキになる、可愛いんだもん。」
「・・・え?」
笑っていた円ちゃんの顔が真面目になって、テーブルに乗せていた手をぎゅっと握られる。
「食べちゃいたいくらい。」
「え、円ちゃん・・・」
身を乗り出して徐々に顔を近づけてくる円ちゃんに気づいて自然と目を閉じる。
円ちゃんの吐息を顔に感じたと同時に、どこからか妙な気配を感じた。
閉じていた目をゆっくり開けると、円ちゃんの視線だけがベランダへと向いている。
「・・・円ちゃ」
「しー・・・」
キス寸前の体制で動きを止めたまま、円ちゃんは器用にテーブルに置いてあったティッシュの箱を手に取るとベランダの窓へ向かってそれを投げつけた。
「うわっ!」
「きゃぁ〜っ!」
途端に姿を現す・・・うさぎと女の子、今回は夏を先取りしているのかビキニうさぎとワンピースの女の子だ。
そんな二人を見ても顔色変えず、珍しく怒った様子の円ちゃんがガラリとベランダの窓を開けて二人を見下ろした。
「覗きは犯罪って何度言ったら分かるんですか。」
「いやぁ〜円ちゃんも大人になったなぁって思ってつい・・・」
「ごっごめんなさーい!」
「・・・あと少しだったのに。」
「あーもう邪魔しないから、ごゆっくり。」
「出来るわけないでしょう!」
「だ、大丈夫!円ちゃんファイト!」
「・・・ファイトってゆずこちゃん。」
「大丈夫だ、円ちゃん!男なら押していけ!」
「ナベシマさん・・・」
何を話してるか分からないけど、がっくり肩を落とす円ちゃんをうさぎと女の子が一生懸命慰めてる。
やっぱり、あたしと円ちゃんがラブラブするのに邪魔なのは・・・
うさぎと女の子、なのね。