01.間接キス
「では、少し休みましょうか。」
「はい。」
分類のため床に置いている本を避けて、私室へと彼女を誘う。
ですがここもあちらと同様、本の山。
折角日の曜日に彼女がいらしてくれたのに、片付けを手伝わせてしまって申し訳ないですねぇ。
「あーすみません、今お茶を入れてきますね。」
「大丈夫です、ルヴァ様。私、猫舌なので先程の冷めた物を頂きますから・・・」
あぁ、は猫舌だったんですか。
では先程は熱いお茶を出してしまいましたね。
今度から気をつけないと・・・
頭に刻み込むよう彼女の言葉を反芻している私の目に、驚くべき光景が目に飛び込んできました。
「あっあのっ!」
「はい?」
「そ、それは・・・」
――― 私が飲んでいたカップ、です。
彼女が何の躊躇いもなく口をつけていたのは、午前中彼女が来た時に一緒に入れたお茶が入った・・・私のカップ。
「え?ごっごめんなさい!」
「い、いいえ!同じ柄のカップを使っていたのですし、何度もテーブルも移動させましたし・・・その、貴女の所為では・・・」
「私が一言お断りすれば・・・」
「私が先に片付けておけば・・・」
二人で顔を赤らめながら頭を下げているうちに、不意に笑みが零れだし・・・次第にその声は大きくなっていった。
「あはははっ・・・す、すみません。こんな大声で笑っちゃって・・・」
「ふふっ構いませんよ。私もこんな風に笑ったのは久し振りです。今度は少しぬるめにいれますから、一緒に新しいお茶を飲みませんか?」
「はい!」
口元を手で押さえながら、テーブルのカップに手を伸ばした瞬間、彼女が呟いた一言は私の顔を更に赤くさせました。
「これって・・・間接キス、ですか。」
ガシャンと音を立てて割れたカップのように、私の中に芽生えていた小さな卵から何かが生まれ出ました。
それはとてもとても美しい、恋の妖精。
その妖精の力を借りて、あなたの言葉に頷きましょう。
「・・・間接キス、ですよ。」
願わくば、あなたの中にも恋の妖精が生まれますように・・・