02.ファーストキス






「怜〜先に寝ちゃうよ?」

「あぁ。」

ソファーで本を読んでいた俺の隣に腰を下ろすと、が眉間に皺を寄せながら覗き込んできた。

「うわっ・・・英語だ。」

「もうもこれぐらい読めるんじゃないか?」

「・・・馬鹿言わないで。こんなの読めるんだったらフランス語の単位落としそうになったりしません。」

「そんな事もあったな。」

くすくす笑いながらメガネを外すと胸ポケットに差し込み、そのままの手を取った。

「明日教授に返さなきゃいけないんだ。今日はひとりで寝てくれ。」

「むぅ〜・・・」

「・・・拗ねるな。」

そんな可愛い顔をして拗ねられると、こんな本なんてどうでも良くなる。
本当に自分はに甘いな、なんて考えながらの頬にキスをする。

「キリのいい所まで読んだらすぐ行く。」

「・・・絶対?」

「約束する。」

強請られるままに指切りをして、最後に今度は唇にお休みのキスをして・・・ようやく満足したように彼女は寝室へと向かった。
その後姿を見送りながら、ふと唇に触れた指先が止まる。



――― 彼女が俺と口付けを交わす事を戸惑わなくなったのはいつからだろう





ファーストキスは、お互いの想いが通じ合った瞬間だった。
今まで俺の手をすり抜けていた彼女が、初めて自分に向き合ってくれて・・・そして想いを受け止めてくれた。
それが嬉しくて素直にキスを申し出れば、真っ赤な顔をして怒られた。

――― そんな事、聞くな。馬鹿





その意地っ張りな所は今も変わらない。
そして唇の柔らかさも、全てを奪われてしまいそうな甘さも・・・初めての頃と全く変わらない。
唇に触れていた指先を離すと同時に大きく息を吐いた。

「・・・教授に謝る、か。」

ため息と共に膝に乗せていた本をテーブルに戻し、部屋の明かりを消した。
と口付けを交わした日から、俺の全ては彼女を中心に回り始めている。
音を立てずに寝室の扉を開けると、が大きな目を更に大きくしてこちらを見た。

「怜!?もう読んだの?」

「いいや。」

「え?何?忘れ物?」

「・・・自分で誘っておいて忘れたのか?」

「誘うって・・・?」

上半身を起こしたの体をそっと抱き寄せて、その耳元に囁いた。

「一人寝を拗ねたのは・・・だろう?」

「う゛・・・」

「寂しい想いをさせないと約束したからな。」

未だ何か反論しようと開きかけた彼女の唇にキスをする。










キスをする時の高鳴る鼓動は、いつでも、どんな時でも、ファーストキスと変わらない。





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