03.眠っている君にキス
目的の場所に到着し、邪魔にならない所へ車を止めると助手席に座っている人間に声をかけた。
「おい。」
しかし、反応がない。
不審に思って小さな街灯の明かりを頼りに助手席へ視線を向けると、そこには気持ち良さそうに眠っているがいた。
「・・・ちっ、やっぱり寝たじゃねぇか。」
つい30分前、高速道路を走っている時から眠りそうな気配を感じた。
「遠慮せず寝ろ。」
「・・・だいじょぉ〜ぶ!」
「それの何処が大丈夫なんだ。ろれつ回ってねぇぞ。」
流れる車のライトを気にしながら、チラリとの顔を見る。
一生懸命目を開けようとしているが、今にも目は閉じそうだ。
「はぁ・・・そんな面で隣に座られるのは迷惑だ。寝ろ。」
「やだぁ!」
「馬鹿言ってんじゃねぇ。」
片手でハンドルを握り、もう片方の手での頭を軽く小突く。
普段であればこんな行為をしただけで、助手席から悲鳴が上がるが今はよっぽど眠いらしくそこまで気が回らないらしい。
「だって・・・あたし寝ちゃったら三蔵一人じゃない・・・」
「あぁ?」
「だから・・・起きてるの!」
シートベルトを外して自由になった手で助手席のシートベルトを外した。
「おい、。」
声をかけ、軽く肩を揺らしたが、深い眠りに落ちた瞳は中々開きそうもない。
「・・・ったく。」
――― あたし寝ちゃったら三蔵一人じゃない
馬鹿な事を言うな。
てめぇがいるじゃねぇか。
起きて会話するだけが側にいる事じゃねぇだろう。
「・・・てめぇは側にいるだけでいい。」
そう呟くと同時に腰を上げ、助手席の背凭れと窓に手をついて・・・そっと唇を重ねた。
甘く柔らかな唇の感触は、どんなアルコール度数の高い酒よりも俺を甘く酔わせる。
何度か唇を啄ばむと、の頬が僅かに朱に染まりうっすら瞳を開けた。
「さん・・・ぞぉ・・・?」
寝ぼけたようなその甘い囁きに自然と口元が緩む。
に覆いかぶさっていた体を元に戻すと、寝ぼけ眼のの髪をそっと撫でた。
「まだ家まではかかる。もう少しそのままでいろ。」
「ん・・・」
本当はもうお前の家の前だが、今日はやはり・・・
「帰すのはやめだ。」
明日は平日で普通に仕事があるとか
俺の家からお前の仕事場までは距離があるとか
・・・そんな言葉は聞こえない。
何だったら職場に電話の一本でもかけてやる。
てめぇは明日も・・・休みだ ――― とな。