04.窓越しのキス






「アスラン!アスラン!」

・・・」

「やだやだっ行っちゃヤダ!」

「昨日泣かないって約束したろ?」

ぎゅっと俺の服を握りしめて苦しそうにしゃっくり上げるの背中を慰めるように叩く。
けれど、いつもなら泣き止んでくれるはずなのに、今日は一向に泣き止まない。
そろそろ中へ入らないと母さんが心配する・・・でも、こんな状態のを置いていくなんて・・・

「・・・。」

「ア、アス・・・ラ・・・ン・・・」



本当は俺だって離れたくない。
や、キラと一緒に月にいたい・・・でも、でも!!



ギュッと目を閉じてシャツを掴むの手をポンポンと叩くと、出来る限りの笑顔を作る。

「向こうに着いたらすぐ連絡する。メールも書くから・・・」

「・・・」

も返事、くれるよね?」

重ねた手をギュッと握り、の目を見つめる。
大きな瞳からは今にも大粒の涙が零れ落ちそうだけど・・・は口元をきゅっと一文字に結ぶと、小さく頷いた。



やがて別れの時を告げる鐘が鳴り出した。
握りしめていた手を、小指からゆっくり外していく。
手が離れ、後ろに下がりながらも・・・視線はから離さない。
いつか映像で見た地球の空の青さを映す、青い瞳。
太陽のように眩しい、笑顔。
誰よりも側にいた、大切な女の子。



唇を噛み締めてに背を向けるとそのままシャトルの受付がある扉へ入った。



もう、あの子の声は聞けない。



ギリリと唇を噛み締め、待っていた母さんの元へ向かう。
そのままシャトルへ入ろうとした瞬間、不意に俺を呼ぶ声が聞こえた。
慌てて振り返ると、ガラス戸の向こうでが俺を呼んでいた。
声は聞こえない、だけど・・・あの子の声が俺に届かないはずは無い。





後ろからやってくる人波を掻き分けて、最後にガラス越しのの手に手を合わせた。
さっきまで伝わった温もりはもうないけど、でも・・・泣き顔だったが一生懸命笑顔を作ってくれていた。
それが嬉しくて、嬉しくて・・・この気持ちをどうにか伝えたくて、もっとガラスに近づくよう手招きをした。

に分かるようひと言ひと言大きく口を開けて伝える。



――― 大好きだよ

そして想いを伝えた唇は、そのままガラス越しのの頬にそっと触れた。










何より大切なへの、月での最後のプレゼント。
の最高の笑顔へのお返しには・・・物足りないかもしれないね。





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