07.あたしからあなたへキス
「じゃぁ行ってくるね!」
「・・・あぁ。」
「もぉ、昨日から友達との約束だって言ってるじゃん!」
両手を腰に当てて呆れたような目でオレを見るは、普段は滅多に着る事がないセクシーなドレスに身を包んでいる。
そりゃ昨日から何度も何度も聞いたぜ?会社のパーティーで同期の女の子と約束してお揃いのドレスを着るコトにしたってな。
ケド、実際そんな可愛いカッコ目の前で見せられて、他の野郎もこれを見るのかと思うと・・・無意味に腹が立ってくる。
「あ、やだ。もうこんな時間!」
いつものスポーティな時計じゃなく女らしい小さな時計に目をやると、は椅子に置いてあったバッグを手に玄関へと向かった。
オレはその椅子にかけてあったちょっと厚手のストールを手に持つと、玄関で華奢なヒールに足を滑らせているの腰を背後からそっと抱き寄せた。
「ちょっ・・・靴履けないよ。」
文句を言われても手はそのまま。
は困った顔をしながらも何とか靴を履いて、体を起こした。
「・・・もぉ、困ったお子サマ。」
「こんな手のかかるヤツに惚れてんのは・・・誰だよ。」
「・・・あたし。」
参った、という風にため息をつくとが体を反転させてオレの方を向いた。
「終わったらすぐ帰ってくるから。」
「・・・ん。」
「そんなに心配そうな顔しなくても、他の人に触れさせたりしないよ。」
「ったりめェだろ?」
「少しはあたしを信じなさい。」
鼻を軽く指を摘まれながらも、目の前で華やかに微笑む女に見惚れる。
――― やっぱ行かせたくねェなぁ・・・
小さくため息をつくと、が柔らかな笑みのまま顔を近づけ・・・そのままオレの唇に、触れた。
「・・・」
「・・・あたしだって本当は悟浄以外に見せたくないんだぞ。」
「ははっ・・・」
頬を膨らませたの表情が、さっきまで見せていた大人っぽさを打ち消す。
翻弄されまくりの自分が何だか情けなくて、それを隠すようにの肩に頭を置いた。
そして不意に思いついたコトを実行すべく、あらわになった首筋に唇を寄せてひとつの朱を刻んだ。
「ちょっ・・・」
「ヘンなヤローに引っかからないおまじない。」
「おまじないって・・・こんな目立つ所にキスマークつける馬鹿がどこにいるの!?」
「ここにいま〜す♪」
「大馬鹿っっ!!」
真っ赤になったの肩に持っていたストールをかけると、もう一度その体を抱きしめた。
「な、会場の外まで一緒していい?待ってるから・・・終わったら一緒に帰ろうゼ?」
「・・・本気?」
「本気。」
今度はニヤリと余裕の笑みを浮かべて、側に置いてあった車のキーに手を伸ばす。
「その代わり、紳士的に送り迎えさせて頂きます。」
恭しくの手を取ってその手の甲に口付ければ、ため息とも苦笑とも取れる吐息が頭上から洩れた。
「・・・じゃぁお願いする。」
「お任せ。」
ヘンな虫がつかないよう見張っててやるよ。
ケド、帰ってきたらちゃんと送り迎えの代金は払ってもらうから・・・ヨロシクな?