10.強引なキス






「どうして逃げるんですか?」

「え゛・・・」

にっこり笑みを浮べ、ネクタイを緩めながらに近づく。
けれど彼女は顔を引きつらせて、後ろへ後ろへと逃げていく。

「逃げる、という事は何か僕に隠し事でもあるんですか?」

「なっっ、ないよ!ない!!

「じゃぁ昼間、悟浄と一緒に楽しそうにデートしていたのはじゃなかったんでしょうか?」

笑顔のままにそう言うと、彼女はピタリと動きを止めて引きつった笑みを浮かべた。

・・・は、八戒・・・

「でも僕がを見間違える、なんて事は絶対にないんですよ。」

「えっと・・・」

「――― という事は、嘘をついているのは・・・の方、ですよね?」

一歩、また一歩と彼女へ近づく。
手を伸ばせば触れられる、という距離まで近づいた所で我に帰ったが、手近な部屋に逃げ込もうとしたので手を伸ばして行く手を阻んだ。

「どうして逃げるんですか。やましい事が無ければ逃げる必要なんてないでしょう?」

「八戒・・・」

「ねぇ、本当の事を教えて下さい。僕に隠し事は無しですよ?」

にっこり微笑み、そっと彼女の頬に手を添える。



――― 怯えから来る震えが、僕の手にも伝わってくる。



「そんなに怯えないで下さい。」

「・・・」

「僕は真実が知りたいだけです。」

悟浄と一緒にいた、という事よりも貴女が僕に言えない事をした、という事に対して怒っているんです。
早く真実を教えて下さい。

僕が嫉妬の炎に包まれてしまう前に・・・





けれど僕の望みもむなしく、まっすぐ見つめていた瞳が僕から・・・反らされた。



――― 我慢の限界です。



「・・・じゃぁ直接聞く事にします。」

「え?」

頬に添えていた手で顎を掴み、微かな疑問の声を上げる為に開かれた唇を強引に塞ぐ。

「・・・!?」

普段は絶対にこんな事しない・・・彼女が望まない行為なんて僕の望む事ではない。
苦しそうに眉を寄せ、一生懸命僕の服を掴んで意識を保とうとする彼女の腰に手を回し抱き寄せる。

「んっ・・・」

更に深くなる口付けに、徐々に彼女の体から力が抜け始めた。
そんな彼女の体を壁に押し付け、更に深いキスを送る。

貴女の心を僕の方へ引き戻すかのように・・・










「・・・プレゼント?」

「そぅ・・・」

完全に脱力して顔を真っ赤にしたが床にへたり込みながら教えてくれた。

「八戒・・・ネクタイ欲しいって・・・」

「確かに言いましたけど・・・」

昨夜食事をしている時に欲しい物を聞かれて、ちょうどネクタイが一本ダメになったのでネクタイ、と確かに言った。

「だから・・・」



――― 彼女の秘密は僕への誕生日プレゼント ―――



「でもどうして悟浄と?僕と一緒に選びに行っても良かったじゃないですか。」

「悟浄は別の友達と一緒に来てて、挨拶しただけ。八戒と一緒に選ぶのもいいけど・・・驚かせたかったんだもん。」

さっきのキスで耳まで真っ赤になったが、俯きながらあまりに可愛らしい事を言うので思わず抱きしめた。

「・・・好きですよ。」

「うん・・・」

「怖がらせてすみませんでした。」

「でもヤキモチ妬いてくれたんでしょう?」

腕の中から聞こえた声に苦笑しながら、耳元にそっと囁いた。

「・・・こんな僕は嫌いですか?」

その問いに返ってきたのは、彼女からの可愛らしいキス。
彼女のキスひとつで機嫌が良くなる自分の現金さに呆れながらも、キスした事に恥ずかしがっている彼女の顔があまりにも可愛くてもう一度、今度は頬に優しくキスをした。

「ねぇ、今度はちゃんと・・・キスしましょう?」

いつも通りの穏やかな笑みを浮かべて彼女の目を見つめれば、微笑みながら彼女はゆっくり瞳を閉じた。










今度は驚かせないよう、怯えさせないよう・・・優しく彼女にキスをした。





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