01.君にしか聞こえない











「よ、お待たせ♪」

「は?」

駅で友達を待っていたら突然肩を叩かれた。
振り返るとすらりとした長身に赤い髪・・・そしてあたしの大嫌いな長髪男が驚いた顔して立っていた。
思いっきり不審そうな顔をしながら肩に置かれた手と相手の顔を交互に見る。

「・・・どちらサマですか?」

「あらぁ〜、ヒト違い。」



何この人・・・変!



間違えたのなら「ゴメン」の一言でも言ってすぐ立ち去ればいいのに、なんで肩掴んだままなの!?
ひょっひょっとしてあたし・・・ナンパされてる!?
そんな経験の無いあたしは怯えながらも相手をキッと睨みつけると徐々に後ろに下がり始めた。



いざとなったら・・・逃げるもん!



そんなあたしの様子に気付いたのか、相手は微かに口元を緩めると楽しそうに笑い出した。

「あはははっ、おっもしろいねアンタ。」



・・・やっぱりこの人、変な人だ!



そう認識して逃げようとしたけど、急にその人があたしの頭をポンポンと撫で始めて動きが止まる。

「悪かったナ、アンタがあんまりにも可愛いからつい声かけちまった。」

「え?」



普段ならこんな風に子ども扱いされたら、すぐに怒るけど。
可愛いなんて見知らぬ人に言われても信じないけど。
何故かこの人の声だけは・・・するりとあたしの心に入り込んでしまった。



ゆっくり顔を上げてもう一度ナンパ男の顔を見れば、目が黒じゃなくて赤い事に気付いた。
・・・カラーコンタクト?
そう思っても確認するなんて事出来ない。
ただ、その目に吸い込まれるようにじーっと相手の顔を凝視してしまった。





――― なんでこの人、こんなに優しい目であたしを見てるの?










「悟浄―!」

はっと我に返ると、横断歩道の向こう側で体のラインを際立たせた服を見事に着こなした綺麗なお姉さんがこっちに向かって手を振っているのに気付いた。

「・・・ダチ発見。」

ポツリと呟くと『ごじょう』と呼ばれたその人は、もう一度あたしの頭をポンポンと叩いてゆっくり歩き出した。

「じゃぁナ・・・子猫チャン。」

立ち去り際に腰をかがめて耳元に囁かれた言葉は、きっとあたしにしか聞こえなかったはず。
いつものあたしなら恥ずかしい台詞言う人だなぁ・・・ホストの人?とか思うのに・・・その時はただ囁かれた耳元を押さえながら、雑踏に消えていく大嫌いな長髪男の背中を・・・視界から消えていくまでその場に立ち尽くして見つめていた。





出会いは・・・ちょっとした勘違い





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