「だーかーら、明後日なら行ってやるって言ってンだよ!!」

「・・・・!!」

「たまにはてめェが自分で行けっての!」

「・・・」

「いつもいつもいつもいつもオレ達にばっかり用事押し付けやがって・・・」

「(電話の向うで安全装置を外す音が聞こえる)」

「へっへー電話の向うで銃構えたってこっちは・・・」

悟浄が言葉を全て告げる前に電話の向うから銃声が聞こえる。

――― しかも極至近距離で。

受話器に耳を当てていた悟浄はあまりの騒音に一瞬電話から耳を遠ざける。

「・・・耳元で銃をぶっ放すヤツがあるか!
こっの鬼畜生臭坊主!!

「・・・!!」

「誰が河童だっ!!」

どんどん話の内容がずれていく事に気付いた八戒が苦笑しながら興奮している悟浄の肩を叩いた。

「悟浄、一応僕らの方がお願いしている立場なんですよ?」

「コイツがオレの言う事聞くと思うか?!」

「・・・人選ミスでしたね。変わります。」

見かねた八戒が悟浄の手から電話を取って相手にわびる。

「すみません三蔵。それでですね、明日のお約束なんですけど申し訳ありませんが一日延ばしていただけませんか?」

「・・・。」

「3日以内に取り返す、と言うのを2日でやれば問題ないんですよね?」

「・・・!?」

「問題、ありませんよね?三蔵。

ニッコリ笑顔で電話に向かって優しく話しかけているが、かもし出す怪しい空気は電話口の三蔵にも伝わっているのだろう。
今まで電話口から洩れていた声が・・・聞こえなくなった。
側に立っていた悟浄はその様子がよほど楽しいのか、先程までの怒り顔から酷く楽しそうな表情に変化している。

「・・・」

「それじゃぁ明後日の昼にはそちらに伺います。悟空にすみませんって言っておいて下さい。」

それだけ言うと八戒は悟浄が10分かかっていた用事を僅か1分足らずで終わらせた。

「明日休みにして貰いましたよ。」

「ゴクローさん♪」

「その代わり仕事の期日が一日短くなりましたけど・・・」

「ま、なんとかなるっしょ。」

「何とかしましょう。」

小さなため息をついた後、それを振り払うかのように悟浄が声を上げた。

「んじゃ、そろそろ準備始めるか!」

しかし八戒はいまだ表情を曇らせている。

「・・・悟空には悪い事をしてしまったかもしれませんね。」

「あぁ?」

「今年もこっちに来るつもりだったらしいんです。」

「・・・ったってしょうがねェだろう。」

「そうなんですけど・・・」

「んじゃナニ?おサルさんのご機嫌とってアレはあげないの?」

悟浄がテーブルの上に置いてある白い箱を指差して僅かに眉を寄せた。

「そんな事ありません。」

「だろ?今年はオレ達だけでなきゃ意味がねェんだよ。」

「そう・・・でしたね。」

「どーせ明後日には玄奘三蔵法師様のお使いで寺院に行くんだ。そン時、明日の食いもんの残りでも持ってきゃ悟空のヤツも大人しくしてるって。」

「・・・そうですね。」

「さってとそれじゃぁオレはナニから始めりゃイイ?」

髪をまとめて着ていたシャツの袖をまくりながら、悟浄は八戒に尋ねた。

「そうですね・・・先に買い物に付き合ってもらえますか。帰ったら僕は料理の下ごしらえをするので、悟浄は居間の掃除をお願いします。」

「リョーカイ。んじゃとっとと行こうぜ。」

シャツの袖をそのままで上着を羽織って扉に手をかけた悟浄の背中に声をかける。

「珍しく張り切ってますね、悟浄。」

「オマエもな。」

目があった瞬間何故か同時に吹き出す二人。
そのまま八戒もコートを羽織り、悟浄の後に続く。
鍵をかけ、キチンとかかっているのを確認してから八戒はそれをポケットにしまった。

「・・・喜んで、くれるでしょうか。」

「さーな、でも・・・チャンならきっと・・・」








―――   イブの夜から始めよう   ―――