「でーきた!」
あの後暫く心臓がドキドキしてたけど、それじゃぁいつまで経ってもケーキが出来ない。
何とか気持ちを落ち着かせて四苦八苦しながら生クリームをケーキに塗って、そこへフォークを使って木の筋らしき線を引いた。
我ながら中々いい感じ・・・と思いながら次に八戒が買ってきてくれていたフルーツを綺麗に切ってケーキの周りを飾り、ケーキの上にはチョコレートの家とヒイラギの葉を飾る。
ちなみにチョコレートの家は買ってきた物で、ヒイラギの葉は昼間ジープが森から持って来てくれた物だったりする。
そして最後に手作りクッキーにチョコでメリークリスマスと書いた板を乗せる。
本当はマジパンで作ったサンタさんとかトナカイも乗せたい所だけど・・・あんまりごちゃごちゃしちゃうとおかしいもんね。
出来上がりを八戒に見せようと顔を上げればいつの間にかキッチンは片付いていて、八戒の姿も何度か行き来していた悟浄の姿もなくなっていた。
あたし・・・たかがケーキのデコレーションにどれだけ時間かけたんだ?
取り合えず手が空いたから他にも何か手伝える事が無いかと思って居間に入ったあたしは・・・思わず目を疑った。
いつもの居間のはずだけど電気はついていない。
ケーキを作る前までは何も無かった筈の部屋のあちこちに…可愛いキャンドルが置かれていて、それらのほのかな明りが室内を照らしていた。
「うわぁ〜綺麗・・・」
そのままテーブルへ近付くとそこには八戒の作った御馳走と、各自の席にいつもは使わないような綺麗なグラスやお皿が並べられている。
「・・・あれ?」
それらを見ていて、ふと感じた違和感。
部屋の周りにはあれだけキャンドルが置かれていて明るいのに、テーブルの上だけやけに――― 暗い。
それに中央が・・・故意かどうか分からないけど、空いている。
その両脇にはローストビーフや鳥の丸焼きが置いてあるのに、何でここだけ空いてるんだろう?
「・・・ばれちゃいましたね。」
ちょっと残念そうな声が背後から聞こえて振り向けば・・・肩にジープを乗せた八戒が苦笑しながらあたしの背後に立っていた。
「が一生懸命ケーキのデコレーションをしている間に済ませようとしたんですけど・・・間に合いませんでしたね。」
「ううん!そんな事無いよ!すっごくビックリしたし・・・凄く、綺麗。」
「そう言って貰えると嬉しいですね。」
ニッコリ微笑む八戒は・・・多分いつもと同じような笑顔なんだろうけど、部屋の明かりがキャンドルの所為かちょっと違って見える。
温かい小さな光に映る八戒の笑顔はいつもの何倍も綺麗で、顔にかかる影がそれを更に引き立てる。
「?」
「はっはい!」
そんな八戒に見惚れていたら急に名前を呼ばれて・・・驚かないわけが無い。
「・・・どうしました?そんなに驚いた顔をして。」
「何だかいつもとちょっと雰囲気が違うから驚いて・・・」
「女の子は料理だけでなく雰囲気も楽しむものだって悟浄が言うものですから、今回は趣向を凝らしてみました。」
前は皆でドンチャン騒ぎって言うか・・・仲良しのお友達が集まって盛大にやるって感じだったけど、今日は親しい人が集まってしっとり祝うって感じかな。
「うん!すっごくいい感じ・・・大人っぽくて。」
「が喜んでくれて嬉しいですよ。あ・・・ちょっと動かないで下さいね。」
「ん?」
言われたとおり動きを止めて目の前の八戒を見ていたらその手がゆっくりあたしの方に伸びてきた。
「は、八戒!?」
「しぃ・・・動いちゃダメですよ。」
動いちゃダメって言われても、こんな雰囲気のいい場所で側に八戒がいて手を伸ばされたら・・・心臓が耐えられなくて後ろに下がりたくなるんですけどっ!!
そんなあたしの思いなんてとっくに気づいているだろう八戒がクスッと笑いながらあたしの頬に手を添えると、唇の脇を指で撫でた。
「!?」
「クリーム、ついてましたよ。」
「クックックリィム!?」
「えぇ・・・ほら。」
そう言って八戒が手に付いたクリームを見せてくれた・・・ってやだっ!あたし顔にクリームつけたままぼーっと八戒の前にいたの?!
「随分頑張ってケーキのデコレーションをして下さったんですね。」
「あ・・・あはははは・・・」
乾いた笑いを返すことしか出来なくて、猫が顔を洗うように手の甲で頬や口元を拭っていたらポンッと肩を叩かれた。
「ナーニ楽しそうにしてんの?」
「悟浄!」
「オレが入れモン探してる間にナニしてンだよ!」
「入れ物?」
「えぇ・・・テーブルに置くキャンドルを浮かべる器を探して貰ってたんです。」
八戒が椅子に置いていた袋を開けるとその中に、色んな形をしたキャンドルが入っていた。
「かっわいい!」
「はどれが良いですか?」
「えっとねぇ〜・・・このハート型のv」
「これですね?悟浄、その器テーブルに置いてもらっていいですか?」
「ここでいいか?」
「えぇ。」
さっきまでポッカリ空いていた所に悟浄が器を置いて、八戒が側にあったグラスに入っていた水を器に移した。
包まれていたハート型のキャンドルを八戒が取り出して悟浄に差し出すと、まるで待っていたかのように悟浄がポケットからライターを取り出してそれに火をつける。
「じゃぁこれを器の中に浮かべてください。」
「え?沈まない!?」
「ま、やってみろって♪」
手の平に乗っているハート型のキャンドルには小さな灯がともっている。
本当に水に浮かぶの?と疑いつつ二人の方をチラリと見れば、楽しそうに笑ってる。
――― そんな顔されたら、何だかあたしまでつられて笑っちゃいそう。
自然と頬が緩んで笑顔になる。
そのまま器の上でそっと手を離せば、あたしが持っていたキャンドルは沈む事無く器の上に浮いていた。
「・・・浮いた。」
「ど?面白い?」
悟浄がライターのフタを空けたり閉じたりしながら尋ねてきたので、何も言わず首を縦に振った。
うっわーちゃんと水に浮いてるし、それなのに火は消えてない!水に反射して炎が光っててすっごい綺麗!!
「それじゃぁ僕は冷やしておいたシャンパンを取ってきますから、その間にもう少しキャンドルを浮かべておいて貰えますか?」
「はーいv」
手をあげて元気良く返事をすると、悟浄がキャンドルの入った袋を差し出してくれたのでその中から色違いのハートや星型のキャンドルを取り出して悟浄に火をつけて貰って再び水に浮かべた。
こんなちょっとした事でも悟浄や八戒と一緒にやると・・・凄く楽しい。
「・・・チャン、ストップ。」
「え?」
「楽しいのは分かるケドこれ以上やると・・・水溢れるゼ?」
「あ゛」
悟浄に言われて器を見ると、3つくらい入ればちょうどいい感じの器の中に・・・5個もキャンドルが浮いていてもう少しで器から水が零れそうになっていた。
しまったぁー!面白くって調子に乗りすぎた。
取り合えず開けかけた6個目は袋に戻して・・・あとは笑って誤魔化しちゃえ!
「あははは・・・」
「・・・オ・コ・サ・マ。」
「どーせお子様だもん。」
目の前の事が面白くてそれで手一杯になる・・・あぁ確かにそう言われてもおかしくない。
「ま、そこがチャンのイー所だけどな。」
いつものようにニッと笑いながら悟浄はあたしが持っていた紙袋をひょいっと取り上げて、もう片方の手で頭をぐしゃっと撫でた。
子ども扱いされてるのか、それとも可愛がられてるのか・・・びみょぉー。
「お待たせしました、二人とも席に座ってください。」
「「はーい」」
お母さんに呼ばれた子供のようにいつもの指定席に座ると、八戒がシャンパンをあたしに向けて差し出してくれたのでグラスを手にとって差し出す。
静かな音を当ててグラスに注がれていくシャンパンは、楽しくて、嬉しくて・・・ちょっとドキドキするあたしの気持ちを表すかのように小さな泡を次々生み出しては上に浮かんで消えていく。八戒が悟浄へ、そして悟浄が八戒にシャンパンを注ぐのを見ていてふと思った。
「あたし・・・飲まない方がいい?」
自分がお酒に弱い事は前々から知っていたけど、実は酒癖が悪い事をこっちに来てから知った。
それに関して二人に迷惑をかけてしまった事も多々あるあたしとしては、こんないい雰囲気を崩すような事はしたくない。
そう思ってグラスをテーブルに置いたんだけど、隣に座っていた八戒がそのグラスをもう一度あたしの前に差し出した。
「大丈夫ですよ。」
「え?」
「オレらがそンくらい考えないと思う?」
悟浄が封を切って氷の入った器に置いてあったシャンパンを手に取り、そのラベルをあたしに見せる。
・・・悟浄、見せられてもあたし読めないよ?
そんなあたしの顔を見て悟浄はある部分を指で示した。
そこに書いてあるのは・・・数字。
「・・・5%?」
「そ、アルコール度数5%未満。折角のクリスマス、お子サマ向けのジュースじゃ味気ねェだろ?」
「ですから悟浄にお願いして、お酒に詳しいお友達に探してもらったんです。」
「え?」
「このヘンあんましゃれた酒屋ってねぇんだけど、そいつのトコだけはいいもん揃えてんのよ。だからちょっと調べてもらったワケ。」
「え?調べるって?」
「美味いシャンパンのクセにアルコール度数が低い酒はないかってナ。」
グラスを持ってウィンクをする悟浄は、キャンドルに照らされていつも以上にカッコよく見えた。
キャンドルの明かりって凄い効果があるんだ・・・。
「ンで、この酒が一本だけ近場にあって・・・取り寄せて貰ったってコト。」
「ギリギリ今日に間に合って良かったですね。」
「あぁ、間に合わなかったら意味ねェからな。」
「悟浄・・・」
「がお酒に弱いのは良く分かっていますから、これでも酔いが回るようでしたら僕らがストップを掛けますよ。」
「・・・八戒。」
「ンだから、今日は楽しもうゼ?」
「一緒に楽しみましょう?」
そう言って二人がまるで示し合わせたようにシャンパングラスをあたしの方へ傾けるから、自然とあたしの手はさっき置いたばかりのグラスに伸びた。
「メリークリスマス。」
「メリークリスマス。」
「・・・メリークリスマス。」
グラスとグラスが触れると チン と言う高い音が静かな部屋に響いた。
二人がグラスを口に運ぶのを見てあたしもグラスを口に運ぶ。
一口飲むとお酒にしては甘く、爽やかな香り。
こんなシャンパン今まで飲んだ事が無いってくらい、美味しく感じられた。
それはやっぱりあたしを気遣って二人がお酒を選んでくれたり、注意してくれる気持ちを感じているからかもしれない。