「ねぇちょっと!起きてよ!!」
ん?何で女の子の声?悟浄達の家に他の女の人いるのかな・・・。
「何寝ぼけてんの?起きなさい!!」
「はいっ!!」
慌てて飛び起きると目の前に見た事のない綺麗な女の人がいた。
あまりに綺麗な人だったので思わずじっと眺めていたら、その人は腰に手を当てて首をかしげた。
「貴女・・・結構度胸あるわね。私を見ても何とも思わないの?」
「え?・・・いや、綺麗な人だなぁって・・・」
「・・・これ見ても?」
そう言ってその綺麗な女の人は長い洋服の裾をひょいと持ち上げてあたしに見せた。
「あっあれ!?」
そこには本来あるべきはずの物が・・・ない。
「もしかして・・・幽霊さんですか?」
「もしかしなくてもそうよ!」
ふんっと言ってその人は洋服の裾を下ろした。あぁだから無いのか・・・足。
「私の名前は李荊藍(リ ケイラン)荊藍って呼んでくれていいわ。」
「はぁ・・・私の名前はです。」
荊藍と言う女性は大きくため息をついて頭を抱えた。
「・・・どうしてあなたみたいなのがここに来たのかしら。」
「いやそれはあたしが一番聞きたい。」
思わず幽霊相手にキッパリ言い切ってしまった。
それにしても何でこんな事になったんだっけ?
・・・あ、そうだ。
あたしはあの部屋で鏡を見て・・・それで怖くなって逃げ出そうと走り出したら急に足元が無くなってどこかに落っこちたんだよね。
「ようやく分かったのね。そう、ここはさっき貴方が見ていた鏡の中よ。」
「え゛?」
反射的に周囲を見渡すが、ただ暗いだけで何も見えなかった。
ただ荊藍の背中で光っている物だけがここに唯一存在している物と言ってもいいかもしれない。
「これが見える?」
そう言って荊藍が少し体をずらすと、その光っている窓のような物の向こうに何故かあたしが倒れていた・・・ってあたしぃ!?
思わず手を伸ばそうとしたけど、その手を荊藍が掴んでその窓に触れさせようとしなかった。彼女の手はまるで氷のように冷たくて、その温度はあたしの心まで冷えてしまいそうな感覚に捕らわれて思わずその手を振り払ってしまった。荊藍は少し寂しそうな顔をしたかと思うと急に表情を変えてあたしを睨みつけたかと思うと、あたしの手を掴んでいたその手で窓に触れた。すると窓と思われていた物の形が急にはっきり現れ、それがさっき見た鏡だという事が分かった。
「触れてはダメ。先に出るのは私だから・・・」
「何言ってるの?だって何であたしあそこに!?」
自分が口走ってる事も荊藍の言ってる事も良く分からないけど、何かまずい事になってるのはさすがに気配で分かる。
荊藍もあたしが何かに気づいた事を悟ったのか、怖いくらいに綺麗な微笑であたしを見つめた。
「私が貴女の・・・の体に入るの。だからこれからは私がになるのよ。」
「・・・は?」
「色々言いたい事もあるけれど、今はそんな事言ってられないわ。早くあれを探さなきゃいけないから・・・悪く思わないでね?」
それだけ言うと荊藍はまるで水の中に飛び込むように目の前の鏡の中へと入って行った。
その後を追うようにあたしも手を伸ばして鏡の中へ入ろうとしたら、それは単なる鏡になっていてその中に入ることが出来ない。
「え?え?えぇ―――っ!?」
鏡を上から下から全部触って見るけど、その感触は全く普通の鏡で荊藍がやったようにその中へ入る事は出来ない。
「やだ・・・どうすればいいの?」
何の物音もしない暗闇に一人取り残され、あるのはたださっきの部屋で倒れたままになっているあたしの姿が見える鏡だけ。
「あれ・・・あたしだよなぁ。うん、やっぱりあたしだ・・・って何であたしが動いてるの!?」
額をしっかり鏡に貼り付けて思わず身を乗り出す。
あたしはここにいるのに何故か鏡の向こうであたしが起き上がり、不思議そうに自分の体を眺めている。
っておいおい、あれは誰だ!?
ふと鏡の向こうの『あたし』がこっちを見たと思うとにっこり笑った。
その笑顔はいつも自分が鏡で見るような笑顔とは全然違って、ついさっきまでここにいた人の笑顔にやけに似ているような気がして思わず背筋がゾッとした。
「そう言えば荊藍・・・だっけ。あの人何て言ってた?」
私が貴女の・・・の体に入るの。
だからこれからは私がになるのよ。
まさか・・・もしや・・・これからはあの人があたし?
体がガクガク震え始めた。
体の震えを押さえようとギュッと自分の体を抱きしめるけどその震えは止まる所か段々酷くなっていく。
自然と自分の視界が揺らいでいくのがわかった。
そんな中、何時の間にか鏡の前に『あたし』が来ていてやっぱりさっきと同じように怖いほど綺麗な笑みを浮かべて笑っていた。
「慣れればそこもそんなに悪い所じゃないわよ。その鏡からこっちの様子は見えるでしょ?声も聞こえるはず。でもね・・・」
「でも・・・なに?」
泣き出す直前の震える声で鏡の向こうの『あたし』に尋ねる。
「貴女の声はこちらには一切聞こえないの。」
それだけ言うと『あたし』はクスクス笑いながら鏡から離れて行った。
自然とその姿を追うように見る角度を変える。
ゆっくり歩いているその姿は、一見あたしと同じ・・・でも違う。
何時の間にかこぼれ始めた涙を拭わずにそのまま目で追っていると『あたし』の前に一つの黒い人影が現れた。
「!!!」
ここから出られないと分かっていながらも鏡を叩く。
聞こえるはずは無いと思っていても、口からは掠れる声でその人影の名前を呼ぶ。
怖いよ・・・助けて、八戒!!!
第1部終了!!そして謎の美女登場v
お名前を李荊藍(リ ケイラン)とおっしゃいます♪
東洋系美人で、ちょっとキツイ印象を受ける顔立ちの美人です。
幽霊と言えば・・・足が無い(笑)でも裾の長い服を着てるから一見普通の美人サンなのです(笑)
さて、鏡の中に閉じ込められてしまいました。
外の光景は見えるし声も聞こえるけど、鏡の中で叫んでいる貴女の声や姿は見えません。
これからどうなるでしょう!
続きは八戒中心で進む第2部でお楽しみ下さいねv