「やだ、雨?」

馴染みの店でカードをしていた時、店を出て行く客の一声に反応して視線を窓へ向ける。
するとついさっきまで何も無かった窓に、ポツリポツリと小さな水滴がつき始めたのに気付いた。
雨、と言う事実を確認した瞬間オレはあと少しで出来上がるはずだったフルハウスの手札を裏にして机に置いた。

「・・・や〜めた、オレ帰るわ。」

「何だよ悟浄?勝ち逃げか?」

何度かオレと勝負した事のあるヤツが、苦笑しながら手にしていたカードを机に置いてため息をついた。

「ほら、雨降り出したしぃー」

「またかよ・・・」

「えー悟浄帰っちゃうの?」
「これに勝ったら奢ってくれるって言ったじゃない。」

後ろから手を伸ばしてくるオンナと、隣に体を寄せて来るオンナを軽くあしらって席を立つとカウンターにいたマスターの前に今まで稼いだ金の一部を渡した。

「マスター!あいつ等にそこの酒、一本奢ってやって。」

「あいよ。」

「あと残りで適当につまみも・・・」

「おいおい悟浄、マジで帰んのか?」

別テーブルで連勝していたヤツが、両脇に綺麗と言える部類のおネェチャンをはべらせながら笑っていた。
普段のオレならそんなヤツの鼻っ柱を折る勢いで勝負を挑むけど・・・今はそんなんより大切なモンがある。

「おう。」

「そんじゃ今日は俺が店中の美人総なめでもいいんだな?」

厭らしく笑いながら側にいたオンナの腰を引き寄せるソイツをチラリと見ながら、オレは店の扉に手をかけながらニヤリと笑ってやった。

「生憎オレには雨の日情緒不安定になる緑の目の薄幸美人と、オマエの隣にいるのとは比べモンになんねェ・・・黒曜石の目を持つカワイ子チャンが家で待ってッからな♪」

そんなオレの声を聞いたヤツとたまたま耳に入った馴染みの連中が揃いも揃って間抜けな声を上げた。

「はぁ!?」

「緑の目・・・ってのはアレだろ?八戒さんだろ!?」
「じゃぁ黒曜石のカワイ子チャンって誰だ!?」
「えー悟浄のお気に入りぃ〜?」
「誰よそれ!!」

「おい、悟浄傘はいらんのか?」

そんな中、雨の勢いを察して気を使ってくれたマスターがカウンターから壊れかけの傘をオレに差し出してくれたが、後ろ手に手を振ってそれを断った。

「気遣いアンガトな、マスター。でも・・・いらねェわ。」

そんなン差してたら・・・家に帰るの、遅れちまうからさ。

「んじゃ、待ったね〜v」

「「「ちょっと悟浄!!」」」

馴染みのオンナ達の非難めいた声を背に受けながら、オレは次第に酷くなってきた雨の中を家に向けて一目散に走り出した。










「タダイマー・・・っと、チャン?」

玄関を開けて一歩中に入ると、いつもなら笑顔で出迎えてくれるチャンはいなかった。

「?」

いつもならまだ帰る時間じゃない。
それに雨が降っているから買い物に出掛けるってコトもねェよな?
って八戒がこんな日に買いモンに行かすワケねぇか、しかも一人で・・・。
着ていたシャツを脱いでそれで前髪から滴る水分を取りながら、取り敢えず帰宅理由でもある目的の人物を探す事にした。

「おい、八戒。」

台所、洗面所など一応あらゆる場所を探しながら、最後に八戒のいる部屋の扉をノックする。
以前、ノック無しで部屋に入った瞬間危うく意識を失いそうになった事があるので、それ以来アイツの部屋へは必ずノックをして入るようにしている。
しかし何度ノックをしても返事が無い事から急に嫌な予感がして慌てて扉を開けた。

「八戒!」

部屋へ飛び込みベッドで眠っている八戒の顔を見て、オレは自分の目を疑った。

「―――― へ?」



外では今だ音を立てて雨が降り続いている。
俺でも煩く感じるほどに・・・だ。




だが、目の前で眠っている人物は酷く穏やかな顔をして・・・静かな寝息を立てていた。
雨の日に、こんな風に柔らかな顔で眠る八戒なんざ ―――― 一度も見た事が無い。

「・・・何があったってンだ?こりゃ!?」

町外れの賭場から走った疲れが突然全身に現れたようにその場に崩れる。
落ち着く為に煙草を吸おうにも、服に入れていた煙草は水を吸って使いモンにならないし八戒の部屋にそんなモン置いてるわけも無い。
苛立たしげに髪をかきながら、ふと八戒の寝相に違和感があるのに気づいた。

珍しく横を向き、尚且つ何かを抱えていたような体勢で眠る八戒の隣には、人一人横たわるスペースが空いている。

「・・・ナルホド、ね。」

それで全てを悟ったオレは重い腰を上げて八戒の部屋を後にした。





自分の部屋に戻り、新しい煙草を手にするとそれに火をつけ空中へ煙を浮かべる。

「ったく・・・やっぱ傘借りるんだったゼ。」

くっ・・・と自嘲気味な笑みを浮かべながら窓の外を眺めれば、音を立てていた雨も次第に勢いを弱めていた。





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NO22:らぜサン『9800のキリリク小説の悟浄サイド』と言う事で書いてみた(笑)
いつものオマケみたいなんだけど、ちょっと秋っぽいしんみりした話になりました。
まぁ9800hit自体がシリアス系ですからね、珍しく。
取り敢えずヒロインが帰っちゃったバージョンです(笑)
んで、こちらにヒロインが残ってますバージョンがありますので良かったらこちら(残ってますVersion)もどうぞv
あ、前半悟浄が賭場にいる所は同じなので省略してます。
お家に帰ってから・・・って事でお読みくださいませ。