えっと・・・数年経った白雪姫を見て、お妃様は自室に置いてあると言うか、何度捨てても元の場所に戻ってくる物言う鏡に尋ねました。
ズキューン!
ちょっ何やってんの!?
「見て分からんか。」
分からないよ!
「捨てても捨てても戻ってくる粗大ゴミを砕いている所だ。」
それがなかったら話進まないってば!
「俺の知った事か。」
『なんだ、随分手荒い扱いだなぁ・・・』
「?」
不思議に思って鏡を覗き込んだ三蔵の前に、それはもう素敵で尊大な態度の人影が映りました。
「貴様っ!」
『よぉ、随分面白いカッコしてんじゃねぇか・・・なぁ、オキサキサマ?』
三蔵、鏡に銃を向けても無駄です。
中に誰がいるか分かった時点で、無駄だって分かったでしょう?
『そうだぜ?物は大切にって習わなかったのか?』
「・・・」
『ま、いい。今日は気分がいいからな、お前の質問に応えてやる。』
ず、随分と気前のいいというか態度の大きい鏡ですが、物語の進行に手を貸してくれるようなのでありがたく質問しましょう・・・はい、三蔵。
「経文はどこに・・・」
ブー、お話が違います。
「・・・」
話を進めるのに必要な質問があるでしょう?
「・・・」
に、睨んだってダメだよ!物語の進行がナレーションのお仕事なんだから!
『おい、オレサマを無視してんじゃねぇよ。』
ほらほら、三蔵!ファイト!!
「・・・この世で一番腹黒・・・ごほっ、美しいのは誰だ。」
・・・一部間違いがあったり、棒読みだったりするのはこの際無視しましょう。
お妃様の問い掛けに、物言う鏡はこう答えます。
『オレサマに決まってんだろ。』
――― ある意味お約束
『・・・と、言いたい所だが・・・』
既に言い切ってます。思いっきり、大声で。
『てめぇだ、と言えば満足か?妃。』
「・・・」
満足!満足です鏡さん!どうもありがとうございました!
って何であたしがここまで鏡とお妃様の仲介しなきゃならないんだ?
まぁいいや。
えーとにかく鏡はそう告げると、音もなく姿を消しました、
あとに残ったお妃様は舌打ちをしながら大きな窓辺へ移動し、庭にいる白雪姫へ視線を向けました。
「邪魔者は・・・あいつか。」
その頃庭では白雪姫がお姫様らしからぬ行動をとっていました。
「手入れをしないと雑草に養分を取られてしまって花が咲きませんからね。」
額に汗を滲ませながら中庭にある小さな花壇の雑草を丁寧に引っこ抜いています。
あのぉ〜・・・八戒?
「はい?」
折角綺麗なドレス着てるのに、何で突然草むしり?
「庭師の方が高齢の方だったので、お手伝いしているんですよ。」
フワリと広がるドレスの裾を器用にまとめ、額の汗を拭う八戒・・・はっ、つい見惚れてしまった!!お仕事に戻ります!
「くすくす、はい。頑張って下さいね。」
コホン、そう言ってにっこり微笑む白雪姫は輝く太陽すらも恥ずかしがって姿を隠してしまうほど美しく、見る者を虜にする笑顔と誰にでも優しい心を持った素敵な・・・お姫様に成長しました。
「あとは水をやれば終わりですね。」
ふぅ、と一息ついて井戸へ水を汲みに行こうとした白雪姫の前に猟師が現れました。
「白雪姫!森に遊びに行こう!」
「猟師さん、どうしたんですか急に?」
この二人、顔馴染みなんでしょうか?
「・・・悟空が台詞を間違えたんです。」
あ、なるほど・・・悟空、今度は気をつけてね?
「うあっご、ごめん!!」
「大丈夫ですよ。――― そういえばこの間のパイは如何でしたか?」
白雪姫の機転で、何とか話は無事進みそうです。
「あ、あの木の実のパイ!すっげー美味かった!!」
「猟師さんが沢山木の実を集めてきてくれたからですよ。」
にっこり微笑む白雪姫の笑顔を見て、猟師もつられるように微笑みます。
しかし猟師がふと視線を上に向けた瞬間、顔色を変えました。
猟師の視線の先には、城の窓から厳しい目をしたお妃様が銃を構えてコチラを睨んでいたのです。
それを見た猟師は背筋をピッと伸ばすと、白雪姫の手を掴みました。
「お、俺、美味そうなキイチゴが見つけたんだ!一緒に行こう!!」
「えぇ、構いませんが・・・」
戸惑う白雪姫を半ば引きずるようにして、猟師は白雪姫を城から連れ出しました。
案外力のある猟師に引きずられながらやってきたのは、城から遠く離れた森でした。
「ちょっ・・・猟師さん、少し休ませてください。」
お城育ちの白雪姫、滅多にこんなに歩いたりしないのでかなり疲れたみたいです。
まぁ相手が悟空だから体力的に無理があるよね。
肩で息する白雪姫を見て、猟師は大きな切り株に白雪姫を座らせました。
「はぁ・・・ここはどこなんでしょう?」
息をつきながらキョロキョロ周囲を見回す白雪姫。
猟師に背を向けた瞬間、猟師は持っていたナタを手に取りました。
ごくりと息を飲んで、お妃様に言われた事・・・そう、白雪姫殺害を実行に移そうとした瞬間、白雪姫がぽんっと手を叩き振り返りました。
「そう言えばキイチゴはどこですか?」
「うわぁっ!」
驚いた猟師はナタを思いっきり後ろにふっ飛ばしてしまいました。
ガサガサ、バキバキという音を立てて飛んでいったナタに森の動物達が驚いていない事を祈ります。
「・・・猟師さん?」
小首を傾げてじーっと白雪姫に見つめられた猟師は良心の呵責・・・
「かしゃく?」
・・・悟空、違う違う。
視線あたしじゃなくて白雪姫の方だよ?
「もう少し意味を噛み砕かないと悟空には分かりにくいですよ?」
「かしゃくって・・・何?」
分からなくってこっち見てたんだ・・・えっと、良心の呵責を噛み砕く・・・え〜っ・・・こんなにいい人に嘘をつくなんて出来ない!と思った猟師は、白雪姫の殺害を諦めて森に置いて帰ることにしました。
「ごめんな!」
「え?」
ひと言頭を下げて謝ると、猟師はあっという間に白雪姫の前から姿を消しました。
そのまま城へ戻った猟師は、お妃様に任務の報告をすると褒美の肉マンを貰ってそのまま家に帰りました。
白雪姫の命は肉マンと同等、という事なんでしょうか。
さて、残された白雪姫は切り株に座ったままある程度体力を回復させると立ち上がりました。
「どこか夜露をしのげる場所でもあればいいんですが・・・」
案外生活能力のあるお姫様です。
白雪姫は慣れないドレスの裾を持ち、なるべく通りやすい道を通って森の中をさ迷いました。
森の木々は白雪姫の肌やドレスを傷つけましたが、そんな事お構いなしに白雪姫は先へ先へと足を進めます。
やがて小さな明かりを見つけた白雪姫は明かりを目指して歩いていきました。
やがてたどり着いたのは小さな小さな家でした。
「夜分遅くすみません。」
遠慮がちに扉を叩き声をかけましたが、中から人が出てくる気配はありません。
それでも何度か扉を叩き、声をかけましたが結果は同じ。
「どうしましょうか・・・」
ため息をつき、ドアノブに軽く触れるとまるで待っていました、とでも言うようにあっさり扉が開きました。
「・・・随分と無用心ですねぇ。」
・・・苦笑しながら家の中の様子を伺おうと中を覗いた白雪姫の目に、台所に溜まっている洗い物が飛び込んできました。
根っから世話好きな白雪姫。
それを見たら居ても立ってもいられず部屋の中に入り、ドレスの袖をまくり洗い物を始めました。
続いてテーブルの上に置いてあった食べかけの料理にはラップをかけて冷蔵庫へしまい、側にほうきがあったので部屋の掃除もしてしまいました。
見事な手際で部屋を片付けた白雪姫は、椅子に座って一息つくと猟師とのお散歩の疲れが出たのかそのまま意識を飛ばしてしまいました。
「ん〜・・・今日も一日お疲れ様、自分〜♪」
暢気な歌を歌いながら家に帰ってきたあたし・・・じゃなくて、小人は鍵を差し込んで扉を開けようとしましたが・・・中に入れません。
「あれ?」
もう一度鍵を確認し、扉のノブに手をかけると・・・今度は難なく開きました。
「やだ、あたし・・・鍵掛け忘れた!?」
たいしてお金は無いけれど、女一人でこんな森の中に住んでいるのだから泥棒に入られてはたまりません。
小人は持っていたカバンを盾にしながら恐る恐る扉を開け、中の様子を伺いました。
「・・・ほぇ?」
家の中の様子が、朝と全然違っています。
散らかっていた流しは綺麗に片付いており、部屋もキラキラしています。
そこでようやく小人はテーブルでうたた寝しているお姫様に気付きました。
「も、もしも〜し・・・」
遠慮がちに肩を指でつつくと、長い睫が震え翡翠の瞳がまっすぐ小人を捕らえました。
「・・・あぁ、すみません。勝手にお邪魔してしまって・・・」
小人はお姫様の美しさに思わず顔を真っ赤にしてしまいました。
それでも何とか話をしようと、小人はこっそり深呼吸を繰り返します。
「いや、それはいいんだけど・・・どちら様ですか?」
「白雪姫、と言います。一緒に来た人とはぐれてしまって、どうしようかと悩んでいた所で夜になり、ここを見つけて失礼とは思いながらお邪魔してしまったんです。」
「それは大変ですね。」
「大変なのは貴方じゃないですか?」
「え?」
「鍵、開いていましたよ。」
「あ゛・・・」
「いくら周囲に民家が無いとは言え、少し無用心ですね。」
「ご、ゴメンなさい。今朝は仕事に遅刻しそうになって慌てていて・・・」
何故一人で生活している小人がお城で生活しているはずのお姫様に説教されるのか分かりませんが、小人は当たり前のように白雪姫に頭を下げました。
「お仕事をなさってるんですか?」
「はい。」
「じゃぁお家の事はどなたが?」
「あたし一人ですから。」
「じゃぁ、僕が留守番をしてあげますよ。」
「は?」
「それにこう見えても家事は得意なので、それも任せて下さい。」
「えー!?で、でもお姫様にそんな事させられませんよ!」
小人は大慌てで白雪姫の申し出を断ります。
「・・・今はお姫様じゃありませんよ。お城を追い出されてしまいましたから・・・今はただの白雪です。」
寂しげに微笑む白雪姫を見て、小人は白雪姫に同情しました。
「・・・じゃぁ、お願いします。」
「ありがとうございます。」
嬉しそうに笑顔を向けた白雪姫を見て、小人もつられる様に笑顔になりました。
それから翌日お休みだと言う小人と一緒に、家の中を大掃除して白雪姫の部屋と小人の部屋を作りました。
そして翌日から仕事に出掛ける小人のために、白雪姫は一生懸命家事を行いました。