「命なんか惜しいと思ってたら、あんたとなんか戦えねぇ。そうじゃねぇのか、信長さんよ。」

「いい覚悟だ、安田長秀。」

まさか信長と正面からやりあう事になるとはな・・・。
千秋修平に換生して、そのまま何にも属さず縛られず生きてくつもりだったのに・・・なーんでこんな事になっちまったかな。

「ぐっ」

正面からぶつけられる信長の容赦ない念攻撃を受けつつ、歯を食いしばり全力で護身波を張る。



くっしょぉ!負けるかよ・・・負けてたまるかっっ!



恐怖なんてもんは何処にもねぇ・・・あるのはただ、目の前の人物をぶちのめすと言う思いだけ。

「景虎に比べりゃ大したことねェぞ!」

その思いに嘘は無いが、相手の力がでかいのも事実。
不意の信長の力が上回り弾幕から飛んできた土砂に吹っ飛ばされ、体がまるで人形のように地面に吹っ飛ばされた。

「ぐ・・・はっ」

口から溢れる血を手の甲で拭いながら立ち上がり、弾幕の向こうに立っている相手を睨みつける。
ふとその手に危険な光が宿るのに気づいて、自然と唇が緩んだ。



――― 破魂波、か



今度のヤツは以前と比べ物にならないくらいデカイ・・・やっこさんも本気って事か。
そんな事を思いながら小さく息を吸い込み、自分のどこにこんな力があったのか分からないほどの力が俺の体を包み込む。
けれどおかしな事にその力は信長を倒す、と言うよりは自らの肉体を守ろうとしているかのように護身波へ回っている。



――― 今はアイツを倒すんだ!



そう思っても膨れる力は俺の体を包み込み、決して目の前の信長へ向けての攻撃へは転じようとしない。



――― 俺まで力の暴走だってのか!?



今更何を惜しむ必要がある!別になんの未練もありゃしねぇだろ!
どんどん膨れてくる不吉な光をキッと睨み、相手を射殺すような視線を向ける。
互いの力の勢いに耐え切れなくなったメガネが音を立てて割れ、その破片が俺の顔を傷つけた。

「っつー・・・顔傷つけると・・・アイツが・・・」



――― アイツ?



ふと胸の中に今まで忘れかけていた人物の笑顔がよぎる。





――― ・・・




















「ねぇ、千秋って何でメガネかけてるの?」

「そりゃ目が悪いからに決まってんだろ。」

「嘘。」

普段即答する回数の方が極端に少ないが、この時ばかりは早押しクイズに出られそうな勢いで応えた。

「・・・嘘って。」

「だって千秋、裸眼でも平気じゃない。」

「あ・・・バレた?」

「ね、どして?」

身を乗り出して尋ねてくるの顔がやけに可愛く見えて、ついついその頬を指でつつく。

「千秋!」

誤魔化されたと思って手を上げたの手を捕まえて、適当に応えてやる。
どうせ子供の「何で」と同じ原理だろ。なんでもいいから答えが聞ければ満足するんだろ?

「女が寄って来るからに決まってんだろ?女除けだよ。」

「・・・」



――― 珍しい・・・疑ってるよ。



まるで隠し持っている餌が出てくるまで待っているかのようにまっすぐなの視線に耐え切れなくなった俺は、心の中で降参の白旗を上げた。

「・・・女にモテるからだよ。」

「モテる?」

「そ、普段メガネをかけててここぞって時に外す。そうするとそのギャップに女がウットリするわけ・・・と言う訳で俺はメガネかけてんの。」

そこまで言うと俺は目の前の冷めたコーヒーに手を伸ばした。



――― には言いたくなかったな。



ばれないよう小さくため息をついてテーブルに肘をついた瞬間、前から伸びてきた手が俺のメガネを奪い去った。

「お〜い・・・」

「あたしはどっちの千秋も変わりないと思うけど・・・」

「はぁ?」

「メガネをかけてようとなかろうと、千秋は千秋でしょ?」

「・・・」

「あたしは千秋修平が好きだよ。」




















――― あたしは千秋修平が好きだよ



「あっそ、そう言う事・・・」

の言葉が頭で繰り返されて、ようやく力が防御に回っている理由が分かった。
未練なんざあいつらの行く末が気になってるだけだと、思ってた。
ケド、一番引っかかってたのは・・・アイツの、の事だってのか。

こんな場面だというのに不思議と気持ちが落ち着いて、笑みまで浮かびそうな自分の馬鹿さ加減に腹が立つ。
心の奥底でが好きだと言った千秋修平のこの宿体を守ろうとしている・・・馬鹿な自分。

「・・・ワリィな、。」



お前が惚れてた千秋修平は ――― 消える



けど、もし・・・もしも俺の魂が欠片だけでも残る事が出来たら・・・もう一度・・・

「おおおおおっ―――!!」



――― 会いに行ってやるから、ちょいと力貸してくれよな!!



それと同時に今まで防御に回っていた力が全て攻撃へと転じ、辺りは凄まじい爆発と閃光に包まれた。




















「・・・千秋?」

ふと、千秋のアパートを掃除していたが窓の外・・・西の空を眺めた。

「今、誰かに呼ばれた気がしたんだけど・・・」

カリカリと頬をかきながら、随分前から戻らない家主の為の部屋の掃除を再開する。

「全く・・・何も言わずいなくなって、ここの鍵だけうちに送るなんて・・・馬鹿。」

でも、鍵を送ってくると言う事は帰って来るのを待っていろと言う意味だ。
そう解釈したは、ヒマさえあればこうして千秋の部屋の掃除をしている。

「いつ帰って来ても大丈夫だぞ・・・千秋。」

愛しさを込めて呼ぶ名前、けれどその名を口にする事は・・・もう、ない。





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