目が覚めたら、誰かの気配が残る部屋にいた。
「?」
ムクリと体を起こすと窓から入る風が煙草の匂いの残るカーテンを揺らしている。
煙草・・・?あたし吸わないのにどうしてこんな匂いがするの?
霞がかかったような頭でボーっと部屋の中を見回す。
さっきまで誰かが、いた、気配が・・・する?
誰かが・・・ここに、側にいてくれた・・・?
「・・・誰が?」
不意に口から出た言葉。
一人暮らししてるあたしの部屋に一体誰が来るっていうの?
「疲れてるのかな。」
そう言えばやけに鼻が詰まった感じがするし、瞼が重い。
それにノドもちょっと擦れてる・・・風邪ひいたかな。
取り敢えずカラカラになったノドに水分を与えようと台所へ向かった時、部屋の鍵がかかっていない事に気付いた。
やだっ!あたし・・・鍵もかけずに寝ちゃったの?
慌てて鍵を閉めると、大げさとも言うくらい大きな音を立てて鍵が閉まった。
――― カチン
何かが遮断されてしまったような・・・断ち切られてしまったような音。
心に感じた不安を振り払うように振り返ると、部屋の中に妙な違和感を覚えた。
「・・・あれ?」
この部屋はあたしの部屋のはずなのに、置いてある物は男性物の方が多い気がする。
インテリアもあたしの趣味、とは少し違う。
でも何処か懐かしく、落ち着く感じのインテリア。
「でも、あたしが住んでる・・・部屋、なんだよね?」
その時、ふとテーブルの上に置かれている写真立てに目がとまり、手に取った
肩下まで伸びた髪をひとつに結んで、メガネをかけて笑っている男性の顔は年齢を感じさせない。
あたしよりも若いのか、年上なのか、同年代なのか。
頭ひとつ大きな体はまるで包み込むように腕の中のあたしをしっかり抱きしめていて、そのあたしも今まで見た事がないくらい穏やかな、幸せそうな笑みを浮かべている。
そして何より覚えのある・・・この ――― 温かな眼差し
「だ・・・れ・・・」
不意に涙が零れてくる。
胸が、訳のわからない思いで締め付けられる。
ポタリ ポタリ と溢れる涙が写真立ての中で笑っている見知らぬ人の顔の上に落ちていく。
「あなたは・・・誰・・・」
その時あたしは気付かなかった。
今まで何気なく生活していた中で、誰よりも何よりも大切にしていた男性がいたという事を
そしてその人の事に関する記憶が、全て消えていると言う・・・悲しい出来事に